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第68話 合成魔獣

 アイリス達は『刻印』のオーガの群れを迎撃し、残すは最後の一匹となった。終わりが見えたと思ったその時、厄災の使徒によってハウリングバットとロックバードが追加された。


 更に、『刻印』のもう一つの能力によってハウリングバットとロックバードがオーガと融合し『合成魔獣(キマイラ)』となってアイリス達の前に立ちはだかるのだった。


「名づけるならオーガ・キマイラといったところか」


「オーガ・キマイラ……っ」

「魔物同士が合体するなんて、そんなのアリかよ!?」

「す、すごく強そうですぅ!」

「ぴぃ!」


「さあ、お前達の最期の時だっ。やれ!」

「ガアアアア!!」


 南門の上部でアイリス達を眺めている厄災の使徒が右手を大きく前に突き出す。それに反応するかのようにオーガ・キマイラが大きく咆哮する。凄まじい衝撃がアイリス達を襲う。


「きゃっ!」

「ぐう!」

「はう!」


 その場で動きを止められたアイリス達に向かって、オーガ・キマイラが突撃してくる。


「キッド、頼む!」

「了解です、兄貴!」


 咆哮の影響がとけたジークがキッドに防御を任せる。

 キッドも動けるようになり、その指示に従い大盾を構える。


「ガアアアア!」

「ぐぅっ!!!」


 勢いが付いた巨躯から繰り出される突進を大盾でキッドが防御する。

 何とか防御に成功したが、あまりの力の強さに大盾が弾かれる。大きく態勢を崩されたキッドが思わずのけ反る。


 その隙を敵が見過ごすはずもなく、無防備になったキッドに向かって鋭い爪が振り下ろされた。


「しまっ……!」

「キッドっ!!」


 アイリスが思わずキッドの名前を叫ぶ。

 すかさずジークが飛び出し、キッドの前に出ると下段から聖剣を構えて剣技を放つ。


「『氷狼咬斬(アイシクルバイト)』!!!」


 オーガ・キマイラの攻撃とジークの剣技が激しくぶつかり合い、威力を相殺する。『祝福(ギフト)』の力を開放してなんとか太刀打ち出来るという感じだった。


「兄貴、助かりました!」

「アイリス、頼む!」

「うん! ホーリーアロー!!」


 相殺した瞬間の隙をアイリスは見逃さず、光の矢を射る。

 オーガ・キマイラの身体に光の矢が直撃した。

 だが、突き刺さった光の矢は引き抜かれてしまう。


「そんな……!」


「いかに聖女の神聖魔法の力が強くとも、融合し強化された『刻印』の力の前ではその程度か」


「アイリスの光の矢を喰らっても平然としてるのかよ?!」


「聖女の力が『光』なら我が力は『闇』……それは『刻印』の力も同じこと。小さき光など大きな闇の前では無力に等しい」


「キッド、まだいけるか!?」

「はい、何とかっ!」


 厄災の使徒が絶望を突き付けるように話している最中もオーガ・キマイラの攻撃は続く。ジークとキッドが態勢を整えて迎撃を試みる。するとオーガ・キマイラが羽を大きく広げると再び咆哮する。今度はハウリングバットの高周波攻撃と同様の効果が襲い掛かる。


「ぐっ!」

「み、耳がっ」


「ガアアアア!」


 高周波の攻撃を浴びて出来た隙にジークとキッドめがけて巨躯の突進が直撃する。


「ぐああ!」

「ぐうう!!」


 アイリスのいる後方まで二人が吹き飛ばされて地に伏せる。

 急いで傷を負った二人に駆け寄って治癒(ヒール)をかける。


「ジーク、キッドしっかりして!」

「だ……大丈夫。これくらいなんてことないぜ」

「そ、そうですよ。まだボクもいけ……ます」


 治癒の光を浴びて傷が癒え始める。

 だが二人の受けたダメージに回復が追い付いていない。

 当のアイリスも額に汗が浮かび、息も切れていた。


「諦めろ。お前達はここで死ぬ運命なのだ」


「はぁ……はぁ……っ」

「アイリス?」

「お、お嬢?」


 強く治癒をかけた後、アイリスが立ち上がって地に伏せている二人の前に出る。

 左手には光の羽弓を強く握りしめていた。


「私は……諦めない」


「何……?」


 前方からゆっくりとオーガ・キマイラが近づく中、厄災の使徒に向かってアイリスが振り返る。その瞳は輝きを失ってはいなかった。大きく深呼吸し、乱れる息を整え言葉を紡ぐ。


「あなたの思い通りにはさせない。私達は絶対諦めたりしないっ!」


「強がりはよせ。お前達に勝ち目など、ない!」


 この最悪の状況になっても強い言葉で放たれるアイリスの言葉に厄災の使徒が刹那、動揺したように見えた。


「私達がここで負けたら、あの魔物はカセドケプルに住むヒト達に牙を向ける……そんなこと、絶対にさせない!!」


「……」


 アイリスの右手の甲に刻まれた花の紋章に淡い光が灯る。

 その光をピィが静かに見つめていた。


――『!!!』――


 甲高い鳥のような鳴き声がアイリスの耳に響く。


「この声は……ピィちゃん?」


 アイリスが肩に乗っているピィの方を見ると、花の紋章の光に呼応するようにピィの小さい身体が光輝いていた。


「なんだ、その光は……?! ま、まさか……!」


 厄災の使徒には心当たりがあるようで、動揺の色が隠せないでいた。


「『聖獣の呼び声(エピクレシス)』だと……!」


「『聖獣の呼び声(エピクレシス)』……」


 小さく厄災の使徒が呟いたその言葉はアイリスにも心当たりがあった。

 以前旅立つ前にアーニャから聞いたことがある言葉だったのだ。


  「ぴぃ!」

――「!!!」――


 ピィの声に甲高い鳴き声が重なって響き渡る。

 その声はオーガ・キマイラの動きを止めるほどの力を持っていたのだった。

数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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