第67話 『刻印』の脅威
南門に押し寄せる『魔物の大波』の第三波までを何とか防ぐことに成功したアイリス達。だが、以前として閉ざされた南門の上部から『厄災の使徒』がこちらの様子を不気味に伺っているのだった。
「未熟なりになかなかやるようだな。今代の聖女と聖騎士も」
「アイツ……!」
「ジーク、熱くならないでね」
「ふぅ。わかってるよ」
「お嬢、兄貴、次が来ます!!」
アイリスの直感通り、最初の一撃以降『厄災の使徒』からの攻撃はない。理由はわからないが今はそれだけが救いだった。そして第四波が押し寄せる。
姿を現したのは10匹を超えるオーガの群れだった。以前戦った時は一匹でも大変だった魔物だ。それを知っているアイリスとジークの顔から血の気が引いていた。
「二人とも大丈夫ですか?!」
「大丈夫よ、キッド。でも数が多いっ」
「まさかオーガの群れかよ……冗談キツイぜ」
アイリス達はすぐ迎撃の体制に入る。変わらずジークが前衛、その後ろにキッド、そしてアイリスという位置取りである。
「キッド、乱戦になるぞ! わかってるな!」
「は、はい! 頑張ります!」
「ガアアア!」
先頭のオーガがジークに向かって刃を振り下ろす。それをひらりと交わし、反撃をしようと剣を構えるが次のオーガの攻撃が目の前に迫ってくる。それを何とか受け止める。以前と同じように『刻印』によって攻撃力や狂暴性が増しているのがわかる。
「くそっ、コイツ!」
「キッド、群れを分断出来る?」
「やってみます!」
前衛であるジークが囲まれる前にアイリスがキッドに指示を出す。
それをすぐに理解したキッドが詠唱を始め、右手に持った剣を地面に突き刺す。
「アースクエイク!」
地面に刺した剣から土魔法の力が放出され、地面が割れていく。オーガ達は巻き込まれないように左右に回避の行動をとる。半分がキッドの方に向かってくる。
「助かったぜ、キッド!」
負担が減ったことと、キッドの土魔法を受けて一瞬動揺を見せたオーガの攻撃を捌きつつジークが反撃に移る。
「『狼牙連脚』!」
「グオオッ」
真後ろから迫るオーガに振り向きざまに蹴りの連撃を浴びせる。相手の体制が崩れた所を見逃さず、跳躍したジークが剣を構えて一気に急所に向けて技を放つ。
「『狼咬斬』!!」
弱点である『刻印』を一刀両断する。断末魔と共にオーガが消滅し魔石へと変わった。聖剣マーナガルムの攻撃力が冴え渡る。
「よし、まずは一匹! マルムさん、いい仕事するぜっ」
ジークが数体のオーガと渡り合っている時、キッドとアイリスも分断したオーガ達を相手していた。
「グガアアア!!!」
「ふん!」
三体のオーガの攻撃をキッドが大盾『ヴァリアント』で防ぐ。少し後ろに押されたものの、見事な防御力を発揮している。
その隙を別のオーガが盾の後ろに回りこもうとするが、それをアイリスは許さない。光の羽弓を構え、オーガに向かって光の矢を射る。
「ホーリーアロー!」
「ギャアアア!」
『刻印』に光の矢が直撃し、消滅していく。キッドが大盾で防御し、火力があるアイリスが迎撃するという体制が出来ていた。
「フフッ……やるな。だが我が『刻印』を施した魔物の力を前にいつまで持つかな?」
「やっぱり、あの『刻印』はあなたの仕業なの?」
様子を見ていた厄災の使徒が吐き捨てるように呟く。光の矢を射るのを止めないようにしながら、アイリスが問う。
「お前達も既に気づいているだろう? この『刻印』は魔物達の力を増幅させ、我がしもべとして動かすことが出来るのだ。このカセドケプルに張り巡らせた包囲網も『刻印』によって魔物達を従えさせた成果というわけだ」
「そんなことが出来る奴がいるのかよっ!」
ジークも戦いの最中に声をあげる。
「ローグさん達に知らせなきゃ……!」
「果たして出来るかな? その疲れ始めた身体で」
厄災の使徒の言う通り、これまでの戦いでの消耗と物量を相手にしているアイリス達に疲れの色が見えて来ていた。
「はぁ……はぁ……っ」
「お嬢、大丈夫ですか!?」
「大丈夫っ!」
キッドが大盾で弾いたオーガの『刻印』に向かってアイリスが矢を射続ける。額からは汗が出ている。第一波からここまで神聖魔法を絶えず繰り出している影響だろう。いかに聖女といえども、限界はあるのだ。
「アイリス!」
「無理もないですよ、あれだけ神聖魔法を打ってるんですから」
アイリス達の奮闘もあり、オーガの数は最初の半分まで減ってきていた。
「キッド! 畳み掛けるぞ!!」
「了解です、兄貴!!」
アイリスの疲労を考えて、ジークとキッドが一気に攻勢に出る。
ジークは『祝福』の力を開放し、身体に冷気を纏う。
キッドの瞳に光が灯り、『心眼』が発動する。
「ガアアア!!」
「『氷牙連脚』!!」
氷の刃を纏った両足の連撃をオーガの『刻印』に叩きこむ。『祝福』の力で攻撃力が上がったことで一度に二体のオーガを倒した。
「シールドバッシュ!!」
キッドはオーガの動きを先読みし、大盾を持ったまま機動力をあげて懐に飛び込み重い一撃を喰らわせる。吹き飛ばされたオーガが魔石へと変わっていく。
「ぴぃ」
「私も負けてられないっ」
アイリスも光の羽弓を構えて、寸分の狂いなく光の矢をオーガの『刻印』に向けて射る。一気に形成が逆転しオーガは残す所、一匹となった。
「よし!」
「もう少しですねっ!」
「あと少し……」
その時、アイリス達に向かって拍手が聞こえてくる。不敵な笑い声も添えられていた。
「フフフ……まさかここまで生き残るとはな」
第四波のオーガが最後だったのか、森の中を動く影も近づいてくる振動も聞こえなくなっていた。
「オマエのしもべもあと一匹だぜ!」
「あとはあのヒトが問題ですねっ」
「そうね!」
「……まさか『刻印』の力がこれだけだと思っているのか?」
「どういうこと?」
額に汗を浮かべながらアイリスが尋ねる。
不敵な笑いを厄災の使徒が浮かべている。
「まだ終わりではないということだ」
厄災の使徒が両手を広げるとオーガの左右に上空からハウリングバットとロックバードが下りてきたのだ。すると、三匹の魔物に付いている『刻印』から黒いオーラが放たれる。
「一体何が起きてるの?」
「なんだ、あれ?!」
「むう!」
「ぴぃぴぃ!」
更に厄災の使徒が魔法の詠唱のような素振りをすると、三匹のいる空間が歪み黒いオーラが辺りを包み込んだ。
「フシュルルル……!」
そこから現れたのは巨躯となり、鋭い爪を両腕に備え背中にはハウリングバットとロックバードの4枚の羽を携えた魔物だった。
「これが『刻印』のもう一つの力……複数の魔物を融合させた『合成魔獣』の姿だ」
圧倒的な威圧感を持ったオーガ・キマイラがアイリス達の前に立ちふさがる。
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