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第66話 狙われた聖女

「お前達の退路は断った……もしもお前達がこの門の防衛を放棄して外周から他の門の者達に助けを求めるつもりなら、この門を開け放つ。そうすれば一気に魔物達が市街に押し寄せ、大勢の者の命が危険に晒されるわけだ」


「酷い……!」

「ぴぃっ」


「今代の聖女であるお前さえ居なくなれば、我を脅かす存在はなくなるのだからな」


 この『魔物達の大波』を引き起こしたという『厄災の使徒』の目的は聖女であるアイリスだったのだ。


「さて、第三波が近づいているな……我はここでお前達が力尽きるのを眺めるとしよう。せいぜい足掻いてみせろ」


「アイツ……好き放題言いやがって」

「兄貴、どうします!?」

「いいか、キッド。アイツの言うことは信じるな。もしアイリスに何かするようならお前はアイリスを護ることを優先しろっ。しんがりはオレがする!」


「わ、わかりました!」


「アイリス、大丈夫か!?」

「うん、大丈夫よジークっ」


 背後を厄災の使徒に取られたまま、アイリス達は正面から来る『魔物達の大波』に臨まなければならない状況になっていた。先ほどアイリスの光の矢を防いだ攻撃をしてくる様子は今の所ない。


「……さっきの攻撃をしてくる感じがしない……どうして?」


 アイリスは考えをまとめていた。厄災の使徒の話した言葉の一つ一つを思い出す。その中で気になる箇所があった。


――『我はここでお前達が力尽きるのを見ているとしよう』――


「もし私達をまとめて殺そうというなら、さっきの攻撃をしてくればいいはず……つまりあの攻撃は『今は撃てない』可能性があるのかも。もしかしたら違うかもしれないけど……今はこの直感を信じるしかないっ!」


「ぴぃぴぃ!」


 ピィが背中を押してくれているように感じた。

 アイリスはこちらを眺めている厄災の使徒をキッと力強く見つめる。

 その様子を見てジークが声を掛けてきた。


「アイリス?」


「ジーク、一旦あの厄災の使徒のことは置いておきましょうっ」

「そんなこと言っていいのかよ、アイリス。背後をとられてるんだぜ?!」


「うん、わかってる。でも見ているだけで今は何もしてきてない……なら私達は私達の出来ることをするしかないと思うの。今からくる『魔物達の大波』を防ぎきるしかないわ」


 真剣な瞳でアイリスがジークに訴える。おそらくこの場で一番冷静に状況を判断してくれているのだろう。もしもの時はキッドにも話した通り動こうとジークは決めていた。


「わかった。ここを乗り切ってアイツに目にもの見せてやる!」

「了解です、お嬢、兄貴!」


 第三波はハウリングバットとロックバードの群れがそれぞれ現れた。もちろん『刻印』が刻まれている。ハウリングバットは洞窟などに生息している蝙蝠の姿をした魔物で高周波の音で攻撃してくる。ロックバードは、鋭い嘴や爪で襲い掛かるのだ。


「どっちの群れも20匹はいますね!」

「もう、多いのが当たり前になってるな」

「ジークもキッドも怪我とかしたらすぐ言ってね!」


 三人が構えていると先にハウリングバットの群れが動く。一塊になって翼を大きく開いたのだ。その直後、高周波の音の攻撃を群れ全体で繰り出してきた。


「きゃっ……!」

「み、耳がっ……」


 アイリスとジークがあまりの音に耳を抑えていると、キッドが二人の前に立ち大盾ヴァリアントを前方に構える。すると盾が壁の代わりをして音を小さくしてくれたのだ。


「大丈夫ですか、お嬢、兄貴っ」

「ありがとう、助かったわキッド」

「やるなキッド……でも普通のハウリングバットは群れで連携するなんて聞いたことねえよ」


 ジークが頭を抱えているが、状況は悪くなってきている。高周波の攻撃を防いでいる間にロックバードの群れが近づいてきているからだ。


「どうしましょうっ」

「なら、オレに任せろ。ハウリングバッドの弱点は知ってる!」


 腰につけている袋の中にジークが手を入れて何かを探しているようだ。

 ご希望のモノを見つけたようで、大盾の影から出ていく。


「これでもくらえっ!」


 ジークはハウリングバッドの群れに向かって球体状のモノを投げつける。

 するとちょうど目の前で激しい光を放ったのだ。魔物を狩る時の狩猟アイテムの一つ『閃光珠』だ。

 

 普段暗いところにいるハウリングバットが強い光に弱いことを知っている知識の勝利だ。

 激しい光を受けたほとんどが方向を見失っていた。


「ジーク!」

「おうよ!」


 アイリスはその場から光の羽弓を構えて矢を射る。ジークは聖剣を抜き、一体ずつ重い一撃を与えている。キッドも大盾の打撃で応戦する。形勢は逆転し、ハウリングバッドの群れは駆逐され魔石になって地面に落ちていく。残ったのはロックバードの群れだが、あちらが近づいてくるよりも先にアイリスが動く。


「『星の楔(スターライト)』!」


 ハウリングバッドの高周波攻撃を防いで視野を確保できたアイリスが、攻撃系神聖魔法『星の楔』を詠唱し、ロックバードの群れを一掃する。魔物だったモノが魔石に変わって地面に落ちていった。


「やっぱりコイツ等、普通の魔物と行動パターンがまるっきり違う」


「フフ……弱いながらもなかなかしぶといな。今代の聖女と聖騎士は」


 眼下でアイリス達が真剣に戦っているのを眺めていた厄災の使徒が笑いながら皮肉を口にするのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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