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第64話 立ち向かう力

 駆け足でアイリス達が住宅区域を越えて、カセドケプルの南門へと急ぐ。前回は鉱石を取りにいくために通ったが、今回は状況が違う。


「何とか間に合ったね!」

「そうだな。キッド、大丈夫か?」

「はい、怖いですけど頑張ります!」

「ぴぃぴぃ」


 アイリス達が南門へと到着する。

 そこでアイリスは違和感を覚えた。


「ねえ、ジーク」

「どうしたアイリス?」

「何か変じゃない……? 誰もいないなんて」

「確かに……変だな」


 前回通った時は衛兵が二人ほど門の所で通過する者達に用途を聞いたり、旅券などを確認していた。城壁の上部にも数人の姿が見えたが、今回は誰もいないのだ。


「そういう指示があったんじゃないですか? ボク達がここを防衛するって話になったわけですし……」


「私達の動向を見たり、報告するために数人はいると思ってたんだけど……」

「とりあえず門の外に出ようぜ、アイリス。時間もそんなにないはずだ」

「うん、そうね。行きましょう」


 疑問に思うことはあれど、時間は迫っていることもありアイリス達は急いで門の外に出る。門の外にはまだ魔物達の姿はなかった。防衛に間に合ったことに少し安堵する。


「確か数は10から15匹って言ってましたもんね」

「うん。そのくらいなら、私達でも大丈夫よね」

「当たり前だろ。それくらいは朝飯前だぜ」


「ぴぃ!!」


 突然ピィが鳴く。この反応はキッドも慣れてきていた。魔物を察知した時の鳴き声だ。


 アイリスが身構え、ジーク、キッドはそれぞれの得物を構える。すると振動が少しずつ大きくなって地面を伝わってきた。目の前の森が揺れているのがわかる。


「みんな、気を付けてね!」

「ああ、わかってる! キッド、いいな!」

「はい、お嬢の安全を第一に動きます!」


 ジークが前衛に、後方にはキッドがアイリスを背に一列に陣取る。この数日間で出来た戦い方だ。これならアイリスは後方から攻撃に専念できる。


「ぴぃぴぃ!!」


 再びピィが鳴く。敵が近づいたからだろうか。

 今まで敵を察知した時に二度鳴くようなことはなかったはずだった。


「ピィちゃん?」


 肩に乗っているピィにアイリスが目を向けると、真剣な眼差しで大きくなる振動の方を見つめていた。


「来るぞ、アイリス!」


 得意の鼻で魔物の匂いをジークも感知する。

 三人に緊張が走る。

 森から出てくる影が現れる。

 群れを成したハウンドウルフだ。

 皆、額に『刻印』が付いていた。


「あの、お嬢……群れの数がどう数えても10匹以上いるんですけどっ」

「うん、私もそう見える……その後ろにも沢山影が近づいてきてる!」

「何が10から15匹だよ?!」


 アイリス達の言う通り、既に一番先に森を抜けてきたハウンドウルフの群れの数は15匹を軽く越えていたのだ。だが、驚いてばかりはいられない。


「アイリス!」

「わかってる! ハウンドウルフの群れを蹴散らすわ!」

「お嬢頼みます!」


 アイリスの足元に魔法陣が現れる。詠唱の後、ハウンドウルフの群れの上空が光り輝く。


「『星の楔(スターライト)』!」


 輝く光が楔状に変わり、ハウンドウルフの群れに降り注ぐ。

 先制攻撃の神聖魔法によって群れの全てが魔石に変わっていた。

 回収する暇もなく、今度はチャージボアの群れが森から現れる。


「次はチャージボアかよっ!」

「やっぱり数がおかしいですよぉ。20匹はいるじゃないですか」

「泣き言はなしだぜ、キッド! アイリスはオレ達がうち漏らした奴らを頼む!」

「わかった!」


 連続での広範囲の魔法はいかに聖女といえど魔力の消耗が激しいと考えたジークがキッドと応戦することでチャージボアを迎え撃つ。


「兄貴、ボクがチャージボアの注意を引きます!」

「任せたぜ」

「グランドスラム!」


 キッドが土魔法を纏わせた白銀の大盾を剣で叩くと、強烈な音と振動が生じる。それがチャージボアの群れまで届くと全ての注目を集めることに成功する。自分めがけて突進してくる群れをキッドが大盾で薙ぎ払う。


「シールドチャージ!!」


 力強く押し返された群れが統率を失う。すかさず跳躍したジークがチャージボア目掛けて切りかかる。


「『狼咬斬(ウルフバイト)』!!」


 鍛え上げられた聖剣マーナガルムの剣閃が舞う。

 キッドとのコンビネーションでチャージボアの群れは魔石へと変わっていく。


「二人ともすごいね!」

「それ程でもないけどな」

「お嬢も兄貴もすごいですっ」

「キッドだってとても立派に戦えてるじゃない」

「ボクはお二人がいるから戦えてる所もありますから」


 第二波を無事撃退したことを互いに喜びあう。

 だが、森からの振動は聞こえたままだ。

 アイリスは何故か胸のざわめきを感じていた。


「ジーク、キッド!」

「どうした、アイリス?!」

「どうしました、お嬢っ?」


 アイリスが二人に声をかける。その表情は真剣だった。


「やっぱり会議室で聞いていた数より『刻印』の魔物の数が多いのが気になるの」

「確かに一番数が少ないって言ってたのにな」

「途中で状況が変わったんでしょうか?」

「それなら六使の誰かが使いのヒトを寄越すはずじゃない?」


 アイリス達が状況を整理していたその時、背後にある南門の大扉が閉じ始めた。

 もちろんアイリス達の場所からでは閉じ始めた扉をくぐることは不可能だ。


「門が閉まっていく……?!」

「何が起きたんだ?」

「え? ええ?!」


 それぞれが動揺の言葉を口に出していると、門の上部に人影が現れた。


「誰か門の上にいるっ!」

「門番のヒトとかはいなかったはずじゃ?!」

「な、なんか怖いかっこうしてます……!」


 人影をよく見ると竜人族を模倣したような鎧を全身に纏った人物だった。

 顔を覆った兜と鎧は禍々しさを漂わせた漆黒の色をしている。


「ぴ……ぴぃ……!」


 ピィがその人物を見て全身の毛を逆立てる。

 アイリスもその人物から嫌な感覚を受けていた。


「ピィちゃんのこの反応……普通じゃない。この胸騒ぎの原因はあのヒトなの……?」


「……さすがは今代の聖女。状況の判断も侮れぬか」


 顔全体を覆った兜越しにその人物が呟いた。

 重苦しく、普通のヒトの声とは思えない何重にも響くような声だった。


「あなたは一体……?!」


「……我は『厄災の使徒』」


 そう名乗った瞬間、アイリスには相手の全身から黒いモノが吹き上がるイメージを受けたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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