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第63話 悪意の包囲網

 『刻印』の魔物達はこのカセドケプルに大挙して押し寄せようとしていた。

 いよいよ六使達も会議室で対策を練るだけではいけなくなってきているようだ。

 それぞれの配下の者達に連絡を頼み、魔物達を迎え撃つ準備を始めていた。


 話を聞いているアイリスが無意識に握っていた手にジークがそっと手を添えてくれた。


「ジーク?」

「緊張しすぎるなよ?」

「うん、そうだよね。ありがとう」


 ジークに笑顔で返事をすると、後から気づいたのかジークが顔を赤くさせていた。アイリスに気付かないようにそっぽを向いている。その様子をキッドだけが見ていた。


 そこに再び、魔物達の動向を知らせる報告が入る。


「申し上げます! 『刻印』の魔物達は一部散開した模様っ」

「この時点で一部が散開……妙だな」


 エクスがカセドケプル周辺の地図を見つめる。

 ヴァルムも地図を見ながら呟く。


「『魔物達の大波』……その最中に散開する奴らが出てくる。これはやはり何かの意思によって動かされているのは間違いないですね」


「つまり、この行動にも意味があるということか」


 次いでベリルも立ち上がり、地図を睨む。

 その時、動向を伝える報告が入る。今までとは違う声色の兵士だった。


「散開した魔物達が合流を始め、このカセドケプルに向かってきています」

「どの方向からですか?」


 冷静にローグが兵士に尋ねる。


「カセドケプルの東西南北の大門に向けて進行している模様です!」

「まさか魔物が包囲網を張って押し寄せてくるとは……」


 ローグが他の六使や冒険者ギルドのサブギルドマスターのアニエスの顔を見つめ、口を開いた。


「カセドケプルは城塞都市ですが、4つの大門が突破されるようなことがあれば都市内の被害は甚大になることが予想されます。ここは戦力を割り振る必要がありそうですね」


「私もローエングリンの意見に賛成します。冒険者達も腕利き揃いです。ここは一番魔物の数が多い所を防衛させましょう」


 アニエスがローグの意見に賛成し、流れが出来始めた。

 兵士が各方角の大体の割合を報告する。


「北側が一番多く、次いで東、西、一番少ないのは南側です」


「一般市民の住居が多い南側が一番魔物の数が少ないというのは助かる」

「確かに、その通りですね」


 ベリルの言葉にヴァルムも納得しているようだ。


「!」


 ぴくっとアイリスがその話の内容に反応する。

 南側の門は以前鉱石を取りにいった際に通った所だ。

 その最中に住人の住宅が並んでいるのも目にしていた。


 エクスが防衛線の話を始める。


「では一番多く魔物が押し寄せる北門を冒険者ギルドに任せてもいいだろうか?」

「問題ありません。では、私も指揮をとるために向かいます」

「ありがとう、アニエス。頼む」


 地図をみながらガラシャがエクスに尋ねる。

 残りの戦力をどうわけるか聞きたいのだろう。


「エクス、その他はどうする?」


「東と西の門はフライハイト、スペルビア王国を連絡する要所でもある。ここの防衛には我々六使の持てる戦力を配置したいと思っている」


「確かに、それは筋が通っているな。問題はどう戦力をわけるか……か。南門への進行が一番少ないとはいえ、市街地への進行も止めなければいけないからな」


 エクスやガラシャ、そしてローグの顔も真剣かつ悩んでいる表情を浮かべていた。そこでアイリスが立ち上がって声を上げる。


「その南門の防衛、私達に任せてもらえませんか?!」

「聖女様……?」


 ローグがアイリスの方を見る。

 胸に手を当てながらアイリスが言葉を紡ぐ。


「南門が一番魔物の数が少ないんですよね? それなら南門を私とジークとキッドで守ります。そうすれば他の六使の方々は大事な東西の門を防衛できますよね?」


「確かに、聖女様と聖騎士様達が動いていただけるなら……」


 ローグがエクスに指示を仰ぐように見つめる。


「兵士の報告からも南門への魔物の量は少ないということだからね……この緊急事態だ。可能であれば私からも聖女様と聖騎士様にお願いしたいと考えています」


 エクスに続いてヴァルムが口を開く。


「南門への進行の数はどのくらいですか?」

「10から15程です」

「んーなら、お任せした方がいいかもしれませんね」


 ヴァルムもエクスやローグの方針に賛成の意を示す。

 他のフォードル、ベリル、ガラシャも頷く。


「六使の総意として聖女様と聖騎士様に正式にお願いをいたします。南門の防衛にお力をお貸しください」


 エクスが深々と礼をしつつ、アイリス達に防衛への協力をお願いしてきたのだ。

 アイリスはジークとキッドを見る。二人がアイリスに笑顔で返事をする。


「やろうぜアイリスっ!」

「ボクもお嬢と兄貴のためならっ」

「ぴぃぴ!」


「わかりましたっ。そのお話お受けします!」


「では東西の門の守りは西側が妖精族、悪魔族、竜人族で頼む。東側は人間族、狼族、獅子族で防衛をすることとする!」


「妖精族、了承しました」

「悪魔族も了解だ」

「我々、竜人族も了解です」


「狼族、お引き受けしましょう」

「獅子族も問題ない」

「では、時間も迫っている。それぞれ行動を開始してくれ! 聖女様達も宜しくお願い致します」


「はい!」


 こうして悪意の感じられる魔物側の包囲網に対しての防衛の布陣が決まった。

 アイリス達は一路、南門を目指すのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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