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第62話 スタンピード

 会議は中断され、会議室は今後の対策を練る場所になっていた。

 六使達も皆、真剣な表情をしている。


「ローグさん、私達にも何か出来ることはないですか?」

「ありがとうございます、聖女様。今は私達にお任せください。こういう時の為にも六使という存在がいるのですから」


 アイリスの言葉に感謝を示しながら、ローグが口を開く。


「ですが、もしかすると状況によっては聖女様達のお力を借りることも考えられます。どうか気持ちの準備だけはしておいて頂けると幸いです」


 ローグがアイリス、ジーク、キッドの顔をそれぞれ見つめる。

 緊張させないように穏やかな表情を浮かべていた。


 伝令の兵たちが部屋を往来する中、ひと際息をあらげて入室してくるのは魔物達を観測する任についている者達だ。


「申し上げます! ここに来て『刻印』の魔物の数が増え、その数50、60に迫ってきています」


 人間族の騎士や兵士だけではなく、カセドケプルの周辺を警備している他の氏族の観測者達からの報告がまとめられていることもあり、その数は信用性が高い。


 エクスは顎に手を当てながら、広げた地図を見ていた。


「ここまでの数の増加……山脈地帯から流れて来ているのか」

「フライハイト側の森林地帯から、という可能性もありますね」


 エクスの言葉に続いて、フォードルも地図を指さしながら言葉を紡ぐ。


「となると、スペルビア王国側からも魔物が出現しているやもしれん」


 ベリルもまた地図を眺めながら意見を述べていた。

 ヴァルムも目を細めながら口を開く。


「ますます嫌な感じがしますね……『刻印』の魔物の出現報告がこのカセドケプル周辺にだけ集中しているのも妙な話です」


「まるで仕組まれているような感覚を覚えますね……そんなことが出来るものなのでしょうか」


 ローグもヴァルムの意見に賛同しているようだった。

 そんな中、再び観測している兵からの報告が入る。


「も、申し上げます! 観測している者達の報告をまとめた結果、『刻印』の魔物……その数90……いえ100を超えたとのことですっ!」


 会議室がざわつく。

 アイリス達もその報告に動揺を隠せなかった。


「『刻印』の魔物がそんなに……」

「一匹でも大変なのに……ヴァルムの意見に賛同するのも癪だけど……いやな感じがするな」


「そんなすごい魔物が100匹もいるなんて……怖いですねっ」


 すると会議室に立派な白銀の鎧を見に纏ったエルフの女性が入ってきた。背は小さく華奢に見えるが自信に満ちた表情をしているようにアイリスには見えた。


「大変な時に失礼します。冒険者ギルド、サブマスターのアニエスです」

「アニエス、来てくれたのね」

「ええ、フォードル。一大事ですもの」


 同じ妖精族ということもあって、仲が良いようだ。

 冒険者ギルドにも働きかけていたこともあって、サブマスターが来てくれたのだ。


「六使の要請に従い、カセドケプルにいる冒険者に声をかけておきました。皆、賛同してくれたのでいつでも加勢出来ます」


「ありがとう、アニエス。助かるよ」


 エクスが深々と礼をする。

 その必要はないという素振りをアニエスが見せる。

 様子を見ていたアイリス達と目が合う。


「今代の聖女様と聖騎士様ですね。お噂はかねがね聞いていました」

「は、初めまして。アイリスです」

「ジークです」

「お供のキッドですっ」

「ぴぃ、ぴぴぃ」


「既にお聞きかもしれませんが、場合によっては聖女様や聖騎士様達にも戦って頂くかもしれません。その時はどうか宜しくお願いします」


「はい、宜しくお願いします」


 ちょうどアイリス達とアニエスが話をしている時だった。

 観測した内容を報告する兵士が慌てた様子で会議室の扉を開けて入ってきた。ノックをするのも忘れるほど動揺しているようだ。


「ほ、報告いたします! 各地の『刻印』の魔物達に同様の変化がみられましたっ!」


「変化とは、どのようなものだ?」


 エクスが真剣な表情で尋ねる。

 皆の視線も報告している兵士に集まっていた。


「各地の『刻印』の魔物達が移動を始めましたっ!」

「目指している場所はわかるのか?」

「……予測の結果、魔物達が目指しているのはここカセドケプルと考えられます!」

「何だと!?」


 エクスの額に汗が浮かんでいるのが見える。

 事態はそのくらい緊迫していた。


「魔物達が共通の意思を持って此処を目指しているだと?!」

「ありえない。今までそんな事例はなかったはず」

「『刻印』にはそのような力があったということですかね……」


 報告を聞いたガラシャ、ベリル、ヴァルムがそれぞれ呟く。

 エクスと同じように額に汗を浮かべながらローグも口を開いた。


「『魔物達の大波(スタンピード)』……仮定はしていたとはいえ、まさか実際に起きるとは……」


 話を聞いていたアイリスは無意識に手をぎゅっと握っていたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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