第59話 ローエングリンとの対話
アイリスの聖女の力を用いた治療が終わった後、お礼の言葉を六使であるローエングリンが口にする。
「流石は聖女様ですね。聖騎士様やお供の方の手際もよく、感嘆いたしました」
「いえいえ、私は自分の出来ることをやっただけですから」
「ぴぃぴぃ」
「やはり聖女様に頼んでよかったです」
そ のやりとりを見ていた他の竜人族の衛兵や治療していた医師たちもアイリス達に賞賛の声をあげていた。
「まさか医療棟の全ての者達に聖女様のお力を使っていただけるとは、本当にありがとうございます」
「私の力はこういう時のために使ってこそだと思っているので」
「とても良いお考えですね。お疲れになったでしょうから、お休みになるお部屋をご用意いたしましょうか?」
ローグがアイリスの身体を心配して提案してくれた。
「それならローグさんともお話したいので、またさっきのお部屋でいいですか?」
「それは私としても光栄です。では飲み物などをご用意いたしますね」
明るく話すアイリスにつられてローグの表情も最初にあった時よりも柔らかくなった様子だった。四人は最初に通された待合室へと戻って話をすることにした。
「それにしてもひどい傷だったな」
「確かにそうですよね」
手伝った際に傷口を見たジークとキッドが口を開く。
それをふまえてアイリスがローグに尋ねる。
「今回襲ってきたのは、どんな魔物だったんですか?」
「以前、聖女様達が遭遇したという身体に『刻印』を持つ魔物です」
「あのラグダートの北の森のやつか」
「魔物の種族はバラバラだったと聞きます。ただ普段の個体よりも狂暴だったということでした。これは聖女様達から冒険者ギルドに報告された件の周知どおりでした」
「ふぇ……そんな魔物がいるんですか……怖いですねぇ」
「冒険者ギルドからも目撃例が出ているといいますからね。今後も動向には注意したい所です。とまあ、暗い話が続くのもなんですから話を変えましょうか」
ローグが気を効かせて話題を変える提案をしてくれた。
「カセドケプルを歩いていて思っていたんですけど、竜人族の兵士の方が多いですよね」
アイリスがこの数日間カセドケプルに滞在していて思っていたことを聞いてみた。
「そうですね。このカセドケプルの建造時から我々竜人族は協力を惜しみませんでしたからね」
「何か理由があるんですか?」
「人魔大戦の折、我々竜人族の一部が先だって戦いに加担したことへの罪滅ぼしだと聞いております。そして先代の聖女アーニャ様に大きな恩義を感じ、他の氏族にも働きかけ今のカセドケプルを守護することを使命と感じているのです」
「そうだったんですか。すいません、私知らないことが多すぎて」
丁寧に説明してくれたローグの話を聞いて、知らないことが多すぎると感じたアイリスが謝罪の言葉を口にする。それを聞いたローグは優しく微笑みながら言葉を返す。
「いえいえ、聖女様のお歳なら知らないことが多くても仕方ないことです。それに人間族の方達にはなかなか伝わりにくい内容もありますからね」
「そういえば、竜人族の族長が早くに亡くなって今は代理の族長が立ってるって聞いたけど」
ジークが思い出したように口を開いた。
「え、そうなんですか?」
「なんだよ、キッド。お前知らなかったのかよ」
「あはは、ごめんなさい。そういうのは全然知らなくって」
「……」
「ローグさん?」
ローグは黙ってジークの話に反応したキッドの顔を見つめていた。
最初にあった時のように硬い表情になったのを心配したアイリスが言葉をかける。
「申し訳ありません。つい考え事をしていまして。……聖騎士様のおっしゃる通り、10年前に先代の族長アルビオン様が亡くなり現在は先代族長の腹心であり、私の父であるパルジファルが族長の代理を務めさせて頂いております」
「ふぁ……そうだったんですかぁ」
「キッド、お前ちゃんと覚えてろよ?」
「はい、兄貴。気を付けますっ」
「……どうして『族長代理』なんですか?」
ジーク達は特に疑問に思わなかった箇所だったが、アイリスは何か引っかかるモノを感じたようでローグに尋ねる。
「それは我々竜人族には『特殊な決まり』があるからです」
「『特殊な決まり』……ですか」
ローグは無言で頷くと、話の続きを説明しようとする。
その時、ノックの音の後に兵士が部屋に入ってきた。
「ローエングリン様、お話の途中に申し訳ありません」
「何かあったのか?」
「実は……」
兵士が耳元で用件を口にする。
するとローグの顔つきが変わった。
用件を話した兵士は部屋を後にする。
「どうかされたんですか?」
「実はカセドケプル周辺の他の地点でも『刻印』を持った魔物が目撃されたという情報が入り、急遽六使による会議が開かれることになったということです」
真剣な表情を浮かべながらローグが説明する。
更に言葉が続く。
「……もし聖女様達がよろしければ、一緒に会議に出席して頂けないでしょうか? 今回の傷の治療の件の説明や、以前遭遇したお話も皆に聞かせたいと考えておりますので」
「私は問題ないです。ジーク達はどう?」
「オレも大丈夫だぜ」
「ボクも是非お供したいですっ」
「ぴぃぴぃ!」
「二人もこう言っていますので、ローグさん宜しくお願いします」
「承諾して頂けて光栄です。では、準備をしましょうか」
アイリスは笑顔でローグに返事をする。
感謝の意を言葉にしたローグが会議に出席する準備に取り掛かる。
かくしてアイリス達は六使の会議に出席することになったのだった。
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