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第58話 竜の使館への招待状

 ジークとキッドの模擬戦を終えたアイリス達はマルムの工房を後にした。

 また用事があればマルムから声をかけるということだった。キッドの住み込みも終わりになったことで再度、宿屋『渡り鳥』に部屋をとり、次の日の朝を迎えていた。


「ふぁ……おはようございますお嬢、兄貴」

「おはよう、キッド。昨日はよく眠れた?」

「あ、はい。久しぶりにふかふかのベッドで眠れました」

「住み込み、本当にありがとな」

「いえいえ、兄貴の為もありましたけどボク自身も稽古つけてもらいましたから」


 目をこすりながら食堂にキッドが姿を現す。アイリスとジークは先に起きて、話をしていたところだった。


「それじゃ、みんなで朝ごはんにしましょうか」

「ぴぃぴぃ!」

「わーい」

「女将さーん、注文お願いしまーす」

「はいよー」


 女将であるオーリが元気な声をあげる。食堂は朝の活気に満ちていた。各自、好きなものを注文した。もちろん、キッドは多めだ。三人は今日の予定を食べながら話し合う。


「当面の予定だったジークの剣が出来上がったから、後はフライハイト側に行く準備を済ませるだけだね」


「そうだな。待ってる間も結構準備してたしな」

「キッドの準備がまだね」

「ボクは特に必要なモノはないですけどね」

「そう言わずに一緒に買い物に行きましょう? キッドだってカセドケプルに来てから自由な時間もなかっただろうしね」


「お嬢……お気遣いありがとうございますっ」


 アイリスの気遣いに胸がジーンとするキッドだった。

 食事も終わりを迎え、食堂から部屋に移動しようとした時にオーリから声をかけられる。


「アイリスちゃん、ちょっといいかな?」

「どうしたんですか、オーリさん?」

「今、『竜の使館』からの使者の方がお見えになってね。アイリスちゃんにこれを渡してほしいって」


 オーリが手紙をアイリスに手渡す。アイリスが手紙の表面を見ると『招待状』という言葉が見えた。早速、ジークの部屋に集まることにした。


「アイリスに用ってことは多分聖女関連の話なんだろうな」

「そうですね」

「開けてみるね……」


 アイリスが手紙をあけて内容を確認する。手紙には竜の使館へ来て欲しいという内容が書いてあった。『使館』とは六使の称号を持つ者達の館のことだ。


「どうする、アイリス?」

「今日ちょうど予定もないから行ってみましょうか」

「ボクもお供しますねっ」


 今日の予定は竜の使館へ赴くことになった。

 地図も添えてあったので、それを頼りにカセドケプルの都市内を移動する。

 目的地に辿りつくと、大きな建物が佇んでいた。


 門の所には竜人族の衛兵が数人立っており、一般の竜人族の往来も多いように見えた。


「それじゃ、この招待状を見せて案内してもらいましょ」

「ぴぃ」

「ああ、そうだな」

「ぼ、ボク何だか緊張しますっ」


 アイリスは門の衛兵に招待状を見せる。すると衛兵は深々と礼をした後、館内へアイリス達を案内してくれた。中央の階段をあがり、一番奥の待合室に通された。


 しばらくすると、装飾が綺麗な衣装を纏った竜人族の男性がやってきた。


「聖女様、聖騎士様、竜の使館に足を運んで頂きありがとうございます。六使のローエングリンと申します。どうぞローグとお呼びください」


 ローグが丁寧に礼を二人に向かってする。

 アイリス達も立ち上がり、挨拶をする。


「初めまして、アイリスです」

「ジークです」

「ぴぃ」


 キッドも二人に続く。


「は、初めましてお供をしていますキッドです」

「!」


 キッドを見たローグが一瞬動揺したように見えた。


「? どうかしましたか?」

「あ、いや何でもありません。それにしても同族が聖女様のお供をしているなんて光栄ですね」

「へへ、それほどでもないです」

「ところでキッド、キミの家系はどこの……」


 そこまでローグが言いかけると、部屋に衛兵がノックをして入室してきた。

 すぐにローグの後ろにまわると耳打ちをしてすぐ出ていく。


「申し訳ありません。今、色々とバタバタしておりまして」

「大丈夫ですよ。それより、招待して頂いた理由を聞いてもいいですか?」


 アイリスが尋ねると、ローグは静かに頷き説明を始めた。


「実は当使館に所属する戦士が巡回の折、北の山脈の近くで魔物に襲われまして……傷が深く治りも遅いということで是非聖女様のお力をお借りしたくお招きしたのです」


「私が出来ることなら協力させてください」

「ありがとうございます。ではこちらに」


 待合室から移動し、使館の隣の棟へと案内された。

 そこは医療棟になっているようで、負傷したり調子が悪い竜人族のヒト達の姿があった。


 医療棟の一番奥、広い部屋に通される。

 そこには傷を負ったヒト達がベッドで横になっていた。

 皆、傷が熱を持っているようで唸り声をあげて苦しんでいる。


「大変っ、キッドお水を持ってきて」

「はい、わかりましたっ」

「ジークは身体を押さえていてくれる?」

「わかった」


 アイリスは怪我をして苦しんでいるヒト達を見て放っておけない気持ちになり身体が動く。キッドとジークにそれぞれ指示をする。


「今、治癒(ヒール)をしますからね」

「う……うぅ」


 大きく爛れた傷口に手を添えると、淡い光が包み込む。アイリスの癒しの力だ。次第に傷口の熱が引き、傷口がふさがっていく。苦しんでいた表情も和らいでいくのがわかった。


「お水です。飲んでください」

「あ、ありがとうございます……」


 キッドから手渡された水を治癒したヒトの口に流し込む。それを負傷した人数分繰り返した。アイリスの聖女としての治癒の力にも皆驚いていたが、その行動力にはローグも感嘆の思いだったようだ。


 アイリスは今回の傷を負ったヒト以外にも医療棟にいる負傷したり、体調がすぐれないヒト達も同時に癒して回ることにした。たくさんのヒトの笑顔が見れてアイリスもとても嬉しい笑顔を浮かべていたのだった。




数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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