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第56話 聖騎士の剣

 ジークの剣の製作が始まって数日が過ぎたある日、久しぶりにキッドが宿屋『渡り鳥』を訪れた。


「お久しぶりです、お嬢、兄貴っ」

「キッド、元気だった?」

「はいっ!」


「なんかお前……よく見たら傷だらけだな」

「あはは、兄貴の剣作りの合間に師匠に相手をしてもらってましたからね」

「おっ、いい顔するようになったじゃん」


「本当。前よりかっこよくなった気がするね」

「えへへ、お嬢までそう言ってくれるなんて嬉しいですボク」


 キッドは二人に褒められたことで、真っ赤になった顔を隠す素振りをする。


 落ち着いたところで本題に入ることにした。


「ところでキッド、今日はどうしたの?」

「実はですね、お嬢っ。遂に兄貴の剣が出来上がったんですよぉ!」

「マジ?! 聞いてたより早くないか?」

「師匠がノリノリで気合も入ったから早いんだそうです」

「よかったね、ジーク」

「おうっ」


 キッドの案内で数日ぶりにアイリス達はマルムの工房を訪ねることになった。


 工房に着くと、マルムが外で出迎えてくれた。その顔はいかにも自信作を見て欲しいという思惑が透けて見えるほどだった。覆面から出た両耳がぴこぴこ動き、軽やかに尻尾がなびいていたからだ。


「やあ、いらっしゃい二人とも」

「お久しぶりです、マルムさん」

「どーも」

「元気そうだねぇ。キッドもお使いありがとねぇ」

「いえいえ、どういたしましてです師匠」


「まあ、まずは工房の中に入ろうか。話はそれからだねぇ」


 上機嫌のマルムに案内されてアイリス達は工房の扉を開けて入っていく。

 直近まで鍛冶の仕事をしていた匂いが強く残っていた。


 以前キッドの大盾『ヴァリアント』が飾ってあった場所に新たに台座が作られ、そこに出来上がったばかりのジークの剣が置いてあった。刃の部分に氷の波のような青白い模様が入っている。


「すごい綺麗ですね。キッドの盾もすごく良い出来上がりだったけど、この剣も素敵ですねっ!」


「ありがとう、アイリスちゃん。……で、持ち主になるジークはどうかなぁ?」


 アイリスに褒められて更に両耳の動きが活発になるマルムが目を細めながらジークの方をみる。そこには同じように両耳が活発に動き、尻尾も大きく振れているジークの姿があった。剣を見つめる琥珀色の瞳もキラキラと揺れていた。


「すっごい剣だね、マルムさん! 本当にオレ貰っていいの?!」

「そりゃぁ、ジークの為の剣だからねぇ」

「持ってもいい?」

「どうぞどうぞぉ」


 ジークがそっと台座から剣を持ち上げる。その手は震えていた。

 いつも自分が戦う時のようにその剣を構える。

 尻尾が激しく左右に揺れていた。


「よかったね、ジーク」

「ありがと、アイリス。キッドも作るの手伝ってくれてありがとな!」

「へへ、照れちゃいます」


 ジークがアイリスとキッドにお礼を言っていると、少し真面目な顔になったマルムが口を開いた。


「その剣の名前は『マーナガルム』。先代の聖騎士ガーライルの鎧にも使われた『ヴァルチェメタル』が使われている。つまりは『聖剣』という名が相応しい剣だよ」


「『聖剣マーナガルム』……」


 マルムの言葉を聞いたジークの手が強く、聖剣を握る。

 磨かれた刀身に真剣な表情が写る。


「その聖剣はキミの『祝福』の力にも耐えられる。もう折れることはないだろうねぇ」


 そう言いながらマルムは専用の鞘をジークに手渡す。

 ゆっくりと鞘に剣をしまい、腰に携えた。


「マルムさん、色々とありがとうございました」

「いいんだよ、アイリスちゃん。キミ達はオレのお気に入りだからね」

「マルムさん、何か試し切りしてもいい? 薪か何かあれば嬉しいんだけど」


「薪は確かにあるけどねぇ……ねえ、ジーク。一つオレから提案があるんだけどいいかな?」

「何? マルムさん」

「キッドと『模擬戦』をしてくれないかな?」

「え、キッドと?」


 マルムから提案されたジークはキッドの方を見る。

 少し震えているが、ジークを見つめるキッドの瞳に強い意思のようなものが感じられた。


「ぼ、ボクからもお願いします!」

「ああ、やろうぜキッド!」

「ありがとうございます兄貴っ」


「え、えっと……」


 急な流れに戸惑うアイリスの隣にマルムが並ぶ。

 アイリスが見上げるとマルムは笑って返す。


「アイリスちゃんは二人を見守っていてあげてね」

「マルムさん……」

「男の子ってそういう生き物だから、さ」


 マルムは軽い口調でウィンクしてみせる。

 言われた通り、アイリスはピリピリと互いを見つめ合うジークとキッドを見守ることにしたのだった。


 ジークとキッドの模擬戦が始まろうとしていた。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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