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第49話 弱虫の戦士

 目的地のヴァルバジア鉱山に辿り着いたアイリス達は廃坑となった中を歩いていく。

 至る所に鉱山として機能していた痕跡が残っていて、空気はひんやりとしていた。


「な、中には魔物とかいるんですかね……」

「うーん……何とも言えないかな。ジークはどう思う?」

「いるって思ってたほうがいいと思うな。いざという時は戦わなきゃいけないわけだし」

「はぁ……怖いです」

「ぴぃ」


 アイリス達は話しながら奥に進んでいく。キッドは相変わらず周りをキョロキョロと見渡しながら一番後ろを歩いていた。


 鉱山の中ほどまで来た三人は少し広い空間に出た所で休憩をとることにした。


「あの……アイリスさん」

「どうしたの? キッド」

「ジークさんは元々族長さんの息子さんってことで、訓練を積んでいたっていうのは聞いたんですけど……アイリスさんは違いますよね?」


「うん、私は元々孤児院で暮らしてただけで魔物と戦ったことはなかったの」

「アイリスさんは戦うの……怖くないんですか?」


 キッドはアイリスの隣に座りながら暗い雰囲気を出しながら尋ねてくる。

 アイリスは少し考えた後、明るく答えた。


「怖くないって言ったら嘘になっちゃうかな」

「じゃあ……どうしてですか?」

「戦わなきゃいけないことを知ったから……かな。聖女だからって護られてばかりじゃ駄目だと思ったのもあるの」


 アイリスはビナールでガーライルと戦った時のことを思い出しているようだった。


「見習い聖女であっても私は誰かに希望を与える存在になりたい。だから、逃げるのは嫌だなって思ったの」


 アイリスの言葉を聞いて、キッドの胸の奥が痛む。


「アイリスさんは……すごいんですね……ボクは戦士の家系に生まれたくせに戦うのが怖いのに」


 二人の話を耳をピンと立てながら聞いていたジークが口を開く。


「余程の冒険者か戦闘狂の奴以外、戦うのが怖くないって奴はそんなにいないと思うぜ。ただ、戦うか戦わないかっていう選択を迫られる時がくるかこないかってだけだとオレは思うな」


「戦う選択……ですか」

「オレは族長の息子として生まれたから将来の族長になるために戦う術を学ぶことを選んだっていうのもあるけどな。だからキッド、お前もその時が来たら考えればいいさ」


 ジークは弟に接するようにキッドに優しく話しているようにアイリスには見えた。

 だが、ジークは真面目な顔をしてキッドに一言告げる。


「でもな、キッド。一つだけオレと約束してくれ」

「な……何ですか?」

「オレは聖騎士としてアイリスを護る。だが、どうしてもそれが難しかった時は……勇気を出してお前がその盾でアイリスを護ってやって欲しい」

「……ジークさん……ぼ、ボク……」


 震えながら俯くキッドをジークが見つめていた。

 そこにアイリスが優しく話しかける。


「ジーク、キッドを困らせること言っちゃだめじゃない」

「でもなぁ……せっかくその盾持てるんだからって考えちゃってさ」

「ごめんなさい……」

「いいのよ、キッド。貴方は貴方の出来ることをしてくれれば、それでいいから」

「ボクの出来ること……」


「私も最近気づいたんだけどね。勇気って出そうと思って出るわけじゃないと思うの。多分……何かを変えようとして、一歩を踏み出した先にあるじゃないかなって」


 立ち上がり振り返ったアイリスが明るく笑いかける。


 キッドにも伝わっていた。きっとアイリスはその一歩を踏み出したことがあるのだと。

 また胸の奥がチクリと痛んだ。それが何を意味しているのか今はまだキッドにはわからなかった。


 休憩を終えて、三人は鉱山の最奥を目指すために再び歩き始めた。

 先程までは空気がひんやりと感じられたが、奥に行くにつれてピリピリと冷たい風が吹き始める。


「広い空間に出たけど……ここが一番奥なのかな?」

「アイリス、見てみろよ。あそこ!」


 ジークが指さした先を見ると、空間の一番奥の岩壁に淡く白銀に光る鉱物が顔をだしていた。あれがマルムの言っていた『ヴァルチェメタル』で間違いないだろう。


「それじゃ、あれを持って帰ればいいのね」

「早いところ持って帰ろうぜ。キッドも持つのを手伝ってくれよ」

「わ、わかりましたっ」


 三人がちょうど最奥であろう、一番大きな空間の真ん中あたりに歩き出した時だった。

 キッドの肩に乗っていたピィが再び大きく鳴く。それが魔物を感知した時の反応だというのはキッドも二人から聞いていたので身構える。


「……何もいない?」

「ここは一番奥だし、周りだって岩壁だからな。魔物の匂いだってしないし……」

「ぴぃぴぃ!」

「……! お二人とも、『上』ですっ!」


キッドが何かを感じたのか、大きな声を上げる。一瞬だが雰囲気が変わっていた。

アイリス達もその声で上を見ると岩盤で出来た天井に大きな影があることに気付いた。

大きな影をよく見ると大きな蜘蛛のような魔物で、至る所に鉱物のようなものが付いているのが見えた。


「あれは……メタスキュラだ! 鉱物を食べて大きくなる蜘蛛の魔物だっていうのを聞いたことがある。図体のでかさを見るに、ここの鉱物を食べて大きくなったのか?!」


「降りてくる!」


「ひ……ひぃっ!!」


 三人がそれぞれ声をあげると、天井から鉱物まじりの巨大な蜘蛛の魔物が目の前に降りてきた。

 魔物は激しい咆哮をあげ、広い空間に響き渡るのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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