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第47話 大盾の持ち手

 キッドはマルムの作った大盾を両手で軽々と持ち上げる。


「あの……ボク、無駄に力だけはあるって言いましたよね? こういうことなんです……」

「その身体のどこにそんな力があるんだよっ」


 照れながら大盾を持つキッドにジークがつっこみを入れる。

 マルムは非常に機嫌がいい様子だ。


「やっぱりなぁ。小さい割に腕の筋肉がついてると思ってたんだよねぇ。ねえ、少年。片手でその盾持てるかい?」


「え、えっと……こうですか?」


 キッドは左手で大盾を持って見せる。

 右手には対になる剣を持って構えてみせる。


「なんかキッド、初めて持った武器なのにすごくかっこいいね」


「で……でもボク、いつも短剣とかを使ってたので……こういう装備を持ったのは本当に初めてなんですよね」


「確かに初めて持ったにしては様になってるよな」


 アイリス、ジークそれぞれの目から見てもキッドの構え方などは様になっていた。

 キッド自身はこういったスタイルは生まれて初めてだと口にした。


「竜人族は元の能力が魔族の中でも高いからねぇ。少年、それ扱えそうかなぁ?」


 マルムの言葉を聞いたキッドが大盾と剣を持ったままその場をくるりと回って見せる。

 太刀筋は甘いが剣も振れる。盾も前後左右に動かすことも出来た。その割に息は切れていない。


 マルムはキッドに拍手を送る。

 両耳も尻尾も嬉しさで活発に動いていた。


「いやぁ、嬉しいね。やっとオレの作品を扱える奴に出会えるとはねぇ」


「マルムさん、良かったですね」

「これも聖女様のお導きだと思うんだよねぇ」

「そんな、私は大したことなんてしてないですよ」


 アイリスは手を左右に振りながらマルムに返事をする。

 それをみてマルムは笑顔で頷いてみせた。


「うんうん、いいねぇ」


「あれ? ……ってことはさ、マルムさんの大盾と剣をキッドが扱えるってことは」


 ジークが何かに気付いたように言葉を続ける。


「つまりオレの剣、打ってもらえるってこと?」

「そういうことになるかなぁ」

「やったじゃん、アイリス」

「キッドのおかげだね」


「い、いやぁ……ボクでもお役に立てたなら嬉しいです」


 大盾を持ちながら、キッドがもじもじしている。

 頬を赤くして尻尾が大きく揺れる。相当嬉しいようだ。


「それじゃ、聖女様と聖騎士様にはお使いを頼もうかなぁ?」

「お使いですか?」

「何か買ってくればいいの?」


「いんや、採ってきて欲しいっていうのかな」

「採ってくる……?」

「ぴっぴぴぴぃ?」


 アイリスが聞き返すとマルムがお使いの内容を説明してくれる。


「聞いた感じ、聖騎士様の剣は『祝福(ギフト)』の力に耐えられないとまた折れちゃうと思うんだよね。だから、素材もそれに合わせた上質なモノじゃないといけないってわけ」


「つまり、私達は剣の材料になる素材を採ってくればいいんですね」

「そういうこと」


 ジークは顎の付近に手を当てて、考える仕草をしながらマルムに話しかける。


「具体的には素材って何を採ってくればいいのさ」

「んーそうだねぇ。やっぱり『ヴァルチェメタル』かな」

「聞いたことない名前だ」

「希少だからねぇ。これは聖騎士ガーライルの鎧に使われてる鉱物なのさ」


「その鉱物はどこで手にはいるんですか、マルムさん」


「このカセドケプルから南の山脈沿いに進むと『ヴァルバジア鉱山』がある。もう廃坑になってるけど、多分そこなら目当ての鉱物があるんじゃないかなって」


「善は急げっていうし、行こうぜアイリス!」

「うん、そうだね」

「ぴぃぴぃっ」


「ちょっと待ったぁ」


 アイリスとジークが顔を合わせて出かける素振りをしている所にマルムの声がする。

 二人がマルムの方を見ると、マルムがキッドの肩に手を回してにこにこと笑っていた。


「この少年も連れていってよ。それが条件」


「キッドもですか?」


 キッドの方を見ながらアイリスが尋ねる。


「えっ? えっ?」


 突然話を振られたキッドは首をきょろきょろさせて、わかりやすく動揺している。

 ジークは目を細めながら、恐る恐るキッドに尋ねる。


「キッド……お前、魔物と戦えるの?」


 びくっと尻尾を直立させながら、キッドの目頭に涙が浮かんでくる。


「ま、魔物と戦うんですかっ!? む、無理ですよぉ……怖いですぅ」


 心配そうにキッドを見つめるアイリスと溜め息を漏らすジークの姿を笑顔でマルムが見つめていたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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