第45話 戦士の家系
アイリスとジークは偶然知り合った竜人族の少年キッドを連れて宿である『渡り鳥』に戻っていた。
キッドがお腹を空かしていたこともあり、食堂で昼食を共にしようということになったのだ。
「さあ、キッド好きなもの注文してね」
「い……いいんですかっ?!」
「オレ達の奢りだから気にすんなよ」
「ぴぃぴぃっ」
目をキラキラ輝かせながらキッドが手を合わせながら尋ねる。
早速肉料理を三品頼んだ。女将のオーリが元気に料理を運んでくる。
「今日は友達をつれて来たんだね。たっぷり召し上がれ」
「あ……ありがとうございますっ!」
「ジーク、私達も食べましょうか」
「そうだな」
「い、いただきまーすっ!」
キッドが勢いよく口に料理を運んでいく。見た目はアイリス達よりも小さいのだが、よく食べる。あっという間に一皿を空けてしまっていた。
「キッド、すごいお腹空いてたのね」
「はいっ。もう三日も食べてなかったんです、ボクっ」
涙を浮かべながら二皿目に手を伸ばしていた。空になるのも時間の問題だろうとジークはキッドの食べっぷりを見て思っていた。
「アイリス……これ魔石換金した金は飯代で飛ぶな」
「はは、私もそう思ってたところ」
二人は顔を合わせて少し苦笑気味で話していた。
「でも、あんなに美味しそうに食べてもらえるなら悪い気はしないでしょ?」
「まあ……確かにな」
「お……女将さん、おかわりお願いしますっ!」
アイリス達が話しているうちにキッドは料理を全て食べていた。
追加の注文にオーリが応える。
「こりゃ、腕の振るいようがあるねぇ」
「お、女将さん、オレにも別で肉料理ちょうだいっ!」
「ぴぃ、ぴぴぃ!」
自分の分にありつけないことに焦ったジークも負けじと注文する。
ピィも一生懸命主張していた。
周りから見てもキッドの食べっぷりはすごいものだった。
五皿目を食べた後、少しキッドの食べる速度が下がった所でアイリスは色々と聞いてみることにした。
「キッド、改めて自己紹介してもらえる?」
「は、はい」
食べる手を一旦止めて、正面のアイリスに目を移す。
「あ、改めて……キッドです。今年13歳になりました」
「旅をしてるみたいだったけど、どうしてこのカセドケプルに?」
「実は……ボクの家系は代々、竜の戦士の名家でして……厳格な父上と兄二人はとても立派な戦士なんです」
「竜人族は戦士の家系が多いって聞くもんな」
ジークはピィにご飯をあげつつ、自分も料理をほおばりながら話していた。
アイリスは続けて話してくれるように言葉をかける。
「そうなんだ……それで?」
「末っ子のボクはちょっと力持ちな所以外は鈍くさくて、とろくて……父上からの練習も上手くこなせず……兄二人との模擬戦でも一度も勝ったことがないんです」
俯きながら元気のない声でキッドが言葉を続ける。
「それで怒った父上はボクが一人前になるまで……帰ってくるな、と言って家を出されたんです……カセドケプルに来て、冒険者になれば一人前になれると思ったんですけど……なかなか……上手くいかなくって……ぐすん」
冒険者ギルドの時と同様に目から大粒の涙が次第に溢れてきた。
「そうだったんだ。大変だったのね」
そう言いながらアイリスは少し前のめりになりながら、取り出したハンカチをテーブル越しにキッドに差し出す。
「アイリスさんは優しいんですね……見ず知らずのボクにこんなに優しくしてくれるなんて……」
「アイリスは困った奴を放っておけない性格なんだよ」
「ジークの言う通りなの。だからあまり気にしないでね、キッド」
「あ、ありがとうございます」
「もう今日は換金したお金分食べろよ。オレも食べるけどなっ」
「そ、そんな悪いですよ……それにしても『純度の高い魔石』を持ってるなんて……きっとお二人はとってもお強いんですね」
キッドの何気ない言葉にアイリスが反応する。
「あれ? ジーク、換金した魔石の種類とかキッドに教えたの?」
「ん? いや、言ってないぞ。っていうか受付で換金してもらった時に出しただけだったはずだけど……おかしいな」
二人は顔を合わせた後、こちらを見つめているキッドの方を向く。
「キッド、どうして換金した魔石の純度が高いことを知ってたの?」
「あ、すいません。掲示板の所で右往左往してた時に……ジークさんが受付のヒトに魔石を見せていたのをちらっと見てたんです」
「掲示板から受付までかなり離れてたはずだけど……」
アイリスが更に尋ねると、はっと何かに気付いたようにキッドが慌てて説明を始めた。
「ご、ごめんなさい。正確にはちゃんと見えたわけじゃなくって……何ていうんですかね。ボク、時々変なことをいう癖があるんですよ……今回はジークさんが袋から出した魔石を見た時にその中に特に輝いて見えた魔石があったので……つい憶測で言っちゃいました」
「確かに綺麗だったけど……そんなに目立って光っていたわけじゃないと思うぜ?」
「キッドにはそう見えたってことなのね。すごい」
「いえいえっ。本当に……父上達にも妙なことを言うなってよく言われるくらいなんです」
アイリス達がキッドの話を真剣に聞いている時、テーブルの横から聞いたことのある声がした。
「それは『心眼』……だねぇ、きっと」
「!」
「マルム……さん?」
「はは、来ちゃった」
ジークが振り向くと、昨日あった獅子族の鍛冶屋マルムの姿があった。顔を包帯のようなもので覆ったヒトなので一度みたら忘れることはないだろう。
それにしてもジークが驚いていたのは近づいてきた気配も匂いも感じられなかったことだった。
「オレも何か食べ物、頼んでもいいかなぁ?」
マルムはそんなことは気にしていない素振りで軽快に話しかけてくるのだった。
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