第44話 キッド
涙を浮かべながら謝り続けている竜人族の少年。鱗の色は黄色、目の色は綺麗な緑色だ。
少しのことでも驚いてしまい、その度に尻尾が直立する。
冒険者ギルドの中で騒いでいることもあって、周りの冒険者達の注目も集まってきていた。
「アイリス、とりあえず出るぞ!」
「でもこの子、置いていけないよ」
「もー連れてっていいからっ」
「ぴぃっ!」
ジークの大きな声とピィの鳴き声にもびくびくしてしまう始末だ。
「ひゃう……!」
「大丈夫だから一緒に行きましょう」
「ほ……本当ですか?」
アイリスは笑顔で頷く。
恐る恐る竜人族の少年はアイリスの手を取った。
三人は冒険者ギルドの本部の外に出ていく。
ギルドから少し離れた場所に広場があったのでそこに向かう。
広場につくと、アイリスは少年を椅子に腰かけさせる。
「はあ……ここまでくれば大丈夫だろ」
「お話するには丁度いい場所だね」
「だと思ったよ」
「ありがとう、ジーク」
ジークはアイリスの意図がわかっていたようだ。
それに少し意地悪をしたのも気にしているのだろう。
頬を掻く仕草をしながら、近くにあった木によりかかる。
「おはなし……ですか?」
「うん、そうよ」
「売られたり、怖い所に連れていかれたりは……しないんですか」
「ええ、しないわ」
少年は相変わらずおどおどしていた。
ジークは少年の反応に何か言いたげだったが、ここはアイリスに任せるという素振りで軽くため息を吐くだけにとどまった。もちろん、少年には気づかれないように、だ。
「私はアイリス。貴方の名前は?」
「……ぼ、ボク、キッドです」
キッドと名乗る竜人族の少年はアイリスに対しては何とか会話出来るようだ。
アイリスの持前の明るさと人柄の良さが伝わったのだろう。
「キッド、さっきは驚かしちゃってごめんなさい。でも、ジークも悪気があって言ったわけじゃないの。ね?」
「ま、まーそうだな。オレもちょっと言い過ぎたかな……とは思ってる」
本当は二人が話してるのを見て、妬いていた等とは言えずに控えめになるジーク。
「……ぼ、ボクこそ騒いでご迷惑をおかけしてすいませんでした……」
キッドは俯きながらちらちらとアイリス達を見ながら、謝罪の言葉を口にする。
「キッドは掲示板で何か見たかったの?」
「実は……何かボクにも出来る依頼を探してたんです」
キッドは冒険者登録をしているようで、先ほどは依頼書を見るために右往左往していたらしい。そこまで話を黙って聞いていたジークが口を開いた。もちろん、雰囲気は柔らかめを意識しているようだ。
「依頼をするって、魔物退治がほとんどだろ? お前、丸腰じゃん」
「あっ……えっと……はい。丸腰です」
「得物とか持ってないのか?」
「……」
次第にキッドの目に涙が浮かんできた。
「ジークぅ」
「違うってアイリス。オレただ聞いてみただけだってっ」
「ち、違うんです……っ」
「?」
「え?」
二人が言い合いになりそうなのをキッドが止める。もちろん涙は零れはじめていたが。
「短剣を持っていたんですけど、旅の途中で荷物ごと盗まれちゃって……」
「それは大変だったね」
肩を揺らしながら話すキッドにアイリスは優しく言葉をかける。
「ぼ、ボク、鈍くさくて……いつも失敗ばかりで駄目なんです」
「な、何もそこまで自分を悪く言う必要もないだろ……」
あまりの消極的な言葉に、ジークもいたたまれなくない気持ちになったようで優しく接するようになった。元々、弟がいるといっていたのだから歳も近いキッドに同情するのに時間はかからなかったようだ。
「私もジークと同じ気持ちよ、キッド」
「アイリスさん……キッドさん……ぼ、ボク……」
涙を手で目頭から払いながら、キッドが少し上を見上げながら言いかけたその時だった。
グウウウウウっとキッドのお腹が大きくなった。
肩透かしをくらったようにジークが身体を傾ける。
「……はぁ……荷物ごと盗まれたってことは財布も、ないんだろうな」
「……はい」
ジークは察しがついたようにキッドに尋ねる。
キッドもまた俯き加減で呟く。
「だから依頼を探してたのね」
「……はい」
「まったく、そういうことは早く……は言えないか」
「ジーク?」
やれやれ、と言った表情を浮かべながらジークが言葉を続ける。
「腹減ってると何でも悪い方に考えちゃうもんなんだよ、ヒトはさ」
「……え?」
ジークは目でアイリスに合図する。
アイリスもそれに気づいたようで、手を合わせて明るくキッドに声をかける。
「そうね。そろそろお昼ご飯の時間だし、キッドさえよければ私達と一緒に食べない?」
「え……でもボク、財布が……」
「魔石換金したお金もあるから気にすんな」
「私達の奢りならいいでしょ?」
「ぴぃぴぃっ」
アイリス達が笑顔でキッドに声を掛けた。
「あ……ありがとうございますっ!」
ぱあっとキッドの顔が明るくなり、俯いていた顔も気持ち上向きになった。
相当お腹が空いていたのだろう、とアイリスとジークは思ったのだった。
この後、換金したお金が全てなくなるとは二人はまだ知らないのだった。
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