第43話 泣き虫の竜人
昨日、商人であるメルクに紹介された獅子族の鍛冶屋マルムの元を訪ねたアイリス達だったがジークの剣を打ってもらうことは出来なかった。だが、まだチャンスはあるということで今日は別の用事を済ませることにしたのだった。
「魔石の換金?」
「ぴぃぴ?」
「今まで魔物を倒してきて、溜まってた魔石があったでしょ?」
「ああ、確かに」
日が昇り、ヒト人が動き始めた頃、宿屋街の通りを歩きながらアイリスとジークが話をしていた。今日のピィはジークの肩にのっていた。
「これから色々な道具とかを揃える前に少しでもお金を持っておきたいなって思ったの」
「別に王様からもらったお金沢山あるじゃん」
「それはそうだけど、自分たちで使うための分は自分達で準備したいじゃない?」
「アイリスって……そういう所しっかりしてるよな」
耳を動かし、目を細めながらジークが言葉をかける。
アイリスは笑顔で答える。
「そんなことないよ。でも、貰ったお金でも大事にしないと、ね」
「そうだな。アイリスの言う通りだな」
「それじゃ、冒険者ギルドに行きましょ」
「ああっ」
とりあえず今日の最初の目的は冒険者ギルドでの魔石の換金ということになり、二人はギルドがある区域に地図を頼りに向かうことにした。
「うわぁ、すごいヒト……」
「カセドケプルは冒険者ギルドの本部がある所だからな」
冒険者ギルドの周りには沢山の人間族や魔族の姿があった。
これから依頼等で魔物退治に行くであろうグループ、情報交換などをするグループなど色々な冒険者の集まりを目にすることが出来た。
「換金はどこでするのかな?」
「んー多分、ギルドの中じゃないか?」
「ぴぃぴぃ」
「それじゃ中に入りましょうか」
二人が冒険者ギルドの中に入る。中にも冒険者であろうヒト達の姿があった。大きな受付があり、その横には依頼類が張り出されている大きい掲示板もあった。
「あ……えっと……」
そんな時、掲示板のあたりを右往左往する竜人族の少年がアイリスの目にとまる。
掲示板の前に並んでいるヒト達で依頼書が見えないようだった。
背は小さく、おそらくアイリス達よりも年下のように見える。
「アイリス?」
「あ、うん、今いくね」
ジークに急かされてアイリスは受付に駆け足で向かう。
換金は受付でしてくれた。魔石の中でもラグダートの北の森で出会った『刻印の魔物』から出たモノが一番高値で換金された。
「よっし、これでオッケーだな」
「うん」
「それじゃ、道具屋通りにでも行って買い物でもするか」
「無駄遣いは駄目だからね?」
「わかってるわかってる」
「ぴぃっぴぃ」
ジークがピィをつれてギルドの出口に向かう。
アイリスも後を着いていこうとしたが、先ほどの竜人族の少年のことが気になったようでもう一度先ほどの場所に目を向けるとまだ掲示板のあたりを右往左往していた。
「あぅ……はぁ……」
俯きながら溜め息を吐き、とぼとぼと出口に向かっていく。
アイリスはこのまま見過ごすことが出来なかった。
近くまでいって声をかける。
「ねえ、どうかしたの?」
「ひゃっ?!」
気分と同じようにうな垂れていた尻尾がびくっと直立する。
背筋もぴんと伸びている。余程驚いたのだろう。
「ぼ……ボクにな、何か用でしたか?」
顔を少しだけこちらに向けながら、おどおどとした様子で呟く。
「えっと、驚かせてごめんなさい。実はさっきから……」
「何してんだよ、アイリス」
アイリスが竜人族の少年に話しかけるのを遮る形でジークが声をかけてきた。
するとそれに驚いたのか再び、ビクンと肩と尻尾を震わせながら声があがる
「ひっ……ごめんなさいごめんなさいっ!」
「は?」
目を細めながら覗き込んでくるジークの顔を見て更に少年は身体を強張らせる。
目には涙が浮かび始める。
「ジーク、駄目でしょっ」
「駄目ってオレ何もしてないんだけど?」
「怖がってるじゃない」
「竜人族がこれくらいで怖がるわけないない」
そう言いながらジークが目線を移すと少年の目から大粒の涙が零れ落ちていた。
「うっ……グス……」
「……マジ?」
泣き出す少年を見て、焦り始めるジーク。
アイリスは姿勢を低くして優しく声を掛ける。
「怖がらせてごめんね。さっきから困ってるみたいだったから声をかけたの。」
「ぐすっ……依頼書を見たかったんですけど……見えなかったんです」
「そうだったの。ほら、今は掲示板の前空いたみたいだから一緒に見に行きましょ?」
「いいんですか……?」
笑顔でアイリスが頷く。
ぱぁっと少年の表情が明るくなる。
「掲示板くらい自分で見れるだろ……」
「ひぇっ……ご、ごめんなしゃい」
二人の様子が面白くなかったのか、ボソッとジークが呟く。
それが聞こえたようで思わず少年の声が裏返り再び涙がボロボロと零れ落ちる。
「ジークっ」
「あー、もう何なんだよコイツ!」
「ごめんなさいごめんなさいっ」
竜人族の少年は深く頭をさげながら口を開く。
頭を振るたびに地面に大粒の涙が落ちていたのだった。
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