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第41話 職人からの条件

「条件って何なんですか? マルムさん」

「ぴぴぃ?」


「まあまあ、そう慌てないでくださいよ聖女様」


 明るく軽快な口調でマルムがアイリスに言葉をかける。

 するとマルムは隣に立っていたジークの方に目を向ける。


「それでそっちが聖騎士様ってわけだ」


 笑顔はそのまま浮かべている。


「そうだけど……」

「聖騎士。いいね、とってもいい」

「?」


「実はオレ、聖騎士っていう存在が大好きなんだよなぁ。昔から聖女の伝説に出てくる聖騎士の話をよく本で読んでたくらいにさ」


 マルムは両手を後ろで組みながら、空を仰ぐ。

 その後大きく両手を広げて深呼吸する。


「さて問題です。聖騎士の紋章の絵柄は何でしょうか?」

「そんなの、剣を携えた盾だろ」

「正解」


 マルムのしなやかな尻尾が生き物のように揺れる。

 拍手も添えられていた。

 ジークはムスッとした顔を浮かべる。


「……もしかしてオレ、馬鹿にされてる?」


「いやいや、そう怒るなよ。実は聖騎士好きで尚且つ鍛冶屋なオレが作った作品があるんだ。まあ、工房の方に案内するから見てくれよ」


 ジークの肩に手を乗せながら歩き出す。


「他のみんなも来てくれて構わないぜー」


 皆、家の横に併設してある鍛冶の工房の中に案内される。

 色々な武器や防具が並んでおり、メルクからするとかなりの上物なのだという。


「どの作品もすごいですね。何だか生きてるみたい」

「はぁ……アイリスってこういう時よくわからないよな」


 ジークは溜め息を吐いていた。

 だが目を輝かせながら作品を見て回るアイリスを見てマルムが深く頷く。


「聖女様にはわかるかぁ。やっぱり見る目あるなぁ……メルクが気にいるわけだ」

「しみじみしてる所悪いんだけど、作ったものをみせたかっただけなの?」


 目を細めてジークが嫌味な感じを出している。

 おちょくられているようで気分が悪いのだろう。


「それもあるっ!」

「あるんだ……」

「聖騎士様的にはどうよ、オレの作品」

「……アイリスほど褒めるつもりはないけど、確かにどれもいいモノだとは思う」


「ふぅん……いらついてきてるから、てっきり嫌味を言われるかと思ったら結構素直なんだなお前」

「?」


「マルムさん?」

「あ、いやいや。さすが聖騎士様もお目が高い」


 一瞬マルムが真面目な表情を浮かべるのをアイリスは目にした。

 だがすぐ元の軽快な雰囲気に戻った。


「それじゃ、オレの自信作を見てもらおうかなっ」

「これで全部じゃなかったんだ」


 褒め損だったのかとジークがしぶしぶと再び目を細める。

 そんなことは気にしないといった感じのマルムが奥に置いてあった大きな布がかぶせてあるモノの隣に歩いていく。


「それではオレの自信作をどうぞご覧くださーい」


 マルムはその大きな布をとりさる。

 すると白銀の大きな盾と剣が姿を現した。

 素人でもとても良いモノだとわかるほどの出来だ。


「すごい綺麗ですね」

「ありがとう、聖女様」

「……確かにさっき見てきたモノより出来がいい気がする」

「いやぁ、そこまで褒められると照れちゃうなぁ」


 マルムが調子に乗っていると、後ろで見ていたメルクがとうとう重い口を開いた。


「あまりお二人をからかうものではないでしょう、マルム。本題に入りなさい」


「おーおー、メルクに怒られちゃったよ」


「大目に見ていましたが、初めてのお二人にこれ以上は失礼でしょう」

「はいはい、わかりました。以後気を付けまーす」


 最初の時の会話もそうだが、ある程度の信頼関係がメルクとマルムの間にはあるのだとアイリスは感じていた。


「さて、じゃあ本題に入ろうか」

「やっとかよ」

「これ、持って扱ってみてよ。出来たら剣、打ってやるよ」

「へ?」

「それが『条件』」


 指を口の前にかざしながら笑顔でマルムが説明する。

 意外な一言にジークが目を丸くする。驚きで両耳が動いていた。


「え、それでいいの?」

「ああ、いいぜ」

「そんなの簡単じゃん」


 ジークは聖騎士となったことで加護を受けている。

 以前よりも力や素早さなどの能力があがっている自覚もあった。

 それならば簡単なことだと思ったのだろう。盾の後ろに回り片手で持ち上げようとした。


「……ん? 重っ!」

「ジーク?」


 曇ったような声をあげるジークにアイリスが声を掛ける。

 ジークは両手を使って盾を持ち上げようとしていた。


「ふぐっ……! ぐっ……!! ぐぅぅぅ!!!」


 思い切り力を入れると大盾がゆっくりと持ち上がる。

 だが、あまりの重さにぷるぷると揺れている。


「ぷはっ! これ以上は無理っ」


 大きな音を立てて大盾が地面につく。

 ジークの額には汗が浮かんでいた。


「はぁ……やっぱり駄目かぁ」


 マルムは目を細めながら溜め息まじりで呟くのだった。



数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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