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第40話 ビルゴの紹介状

 鍛冶屋回りを済ませたアイリス達は次の日、商人が多く商いをしている区画に来ていた。

 目的は昨日会った『六使』のベリルから教えてもらった商人に会うこと。その人物は王都で軍務大臣のビルゴに貰った紹介状の人物だった。


「でもラッキーだったな。目当てのヒトに会うための紹介状を貰ってて」

「うん、そうだね。ビルゴ様に感謝しないとね」

「ぴぃぴぃ」


 行きかう商人達に事情を話すと目的地を丁寧に教えてくれた。

 とはいっても自前の商品への押しが強かったのも事実なのだが。


 間もなく商人区画でもひときわ大きい商店が目に入ってきた。


「ここみたいだね」

「とりあえず入ってみようぜ」


 二人がお店の中に入ろうとすると強面の人間族の男性たちに呼び止められた。


「お嬢さん達、ここは特定のヒトしか入れないお店なんだよ」

「買い物なら他の所を案内するよ」


「あの、私達紹介状を持っているんですけど」

「紹介状をお持ちでしたか。確認させて頂いても宜しいですか?」

「はい、お願いします」


 強面の男性の一人にビルゴからの紹介状を見せる。

 すると慌てた様子でもう一人に耳打ちをして誰かを呼びにいったようだ。


「では、お二方はこちらでお待ちください。今主人が参りますので」


 アイリス達は丁寧に店の奥にある待合室に通される。

 どうやら強面のヒト達にも自分たちが聖女と聖騎士というのがわかったようだ。


「お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」


 姿を現したのは警備のヒト達と同じくらい強面の男性だった。


「はじめまして、聖女様そして聖騎士様。私がこの商店を主メルクでございます」


「はじめまして、アイリスです」

「ジークです」

「ぴぃ」


「お噂はかねがね伺っておりますよ。それにしてもあのビルゴ様の紹介状をお持ちとは流石ですね」


 珍しいモノを見たという素振りをメルクがする。


「お知り合いなんですよね?」

「それはもう。騎士団の装備の発注なども手伝わせて頂いたこともあります」

「あのおじさん、顔が広いんだな」

「普段はとても厳しい方ですよ。国のことを一番に考えてらっしゃいます。私もそこに惹かれたのでお近づきになった次第です」


 おそらくお金関係でも上客なのだろうとジークは察しがついたが、汚い話にもなるのでアイリスには黙っておくことにした。


「それで本題に移りましょうか」

「はい、実は……」


 アイリスはジークの剣を作ってくれる鍛冶屋に心当たりがないかを相談してみた。

 するとメルクは心当たりがあるようで、すぐに言葉を返す。


「それでしたら、あまり表立って有名ではないのですが腕が良い鍛冶師を知っております」


「どんなヒトなんですか?」


「獅子族の男なのですが、とても変わり者でしてね。自分が納得した相手でなければ得物を作らないという性格なのですよ」


「面倒くさそうな相手だな」


 目を細めながらジークが呟く。

 だが、アイリスは興味を持ったようだ。


「メルクさん程の商人さんが『腕が良い』っていうのでしたら、会ってみたいです」

「アイリス、本気か?」

「だって話してみなきゃわからないじゃない」


 即決したアイリスを見て、感心した様子でメルクが口を開く。


「なるほど聖女様は素直で行動力がおありのようですね。商人にとってもその感性はとても大事ですからね。私も気にいりました。いいでしょう、ご案内致します」


「ありがとうございますっ」


 メルクは数人の警護の者を連れてアイリス達を案内することにした。

 向かった先は鍛冶屋の区域ではなく、カセドケプルの外周の壁に最も近い場所だった。


 進んでいくと、煙突から煙が出ている一軒の家が見えてきた。


「こんな所に鍛冶屋さんがあったんですね」

「いかにも変わり者が住んでる場所でしょう?」


 メルクがアイリスに声を掛けた時、家主の声が聞こえてきた。


「おいおい、メルク。変わり者は失礼だろ? まあ、間違ってはないけど」


 そこには鍛冶師の服装をし、頭部を包帯で覆ったような風体の獅子族の男性の姿があった。

 獅子族の特徴的な顔立ち、軽快な口調が印象的だ。


「それで? 今日は何の用なんだ?」


「今日はお客様をお連れしたんですよ、マルム」


「はっは! お前が客を連れてくるとは珍しいこともあるもんだ」


 このような掛け合いはお互い慣れているようで、メルクは淡々とアイリス達を紹介する。


「今代の聖女様と聖騎士様です」


「初めまして、アイリスです」

「どうも、ジークです」

「ぴぃぴぃ」


 メルクの言葉を聞いたマルムは新しいおもちゃを与えられた子供のような表情を浮かべる。そして腰かけていた作業台から飛び上がるとアイリス達の目の前に着地する。耳は元気に動き、細いしなやかな尻尾が蛇のように揺れていた。


「へえ、聖女様と聖騎士様が訪ねてくるなんて感激だねぇ」


 二人の顔を食い入るようにマルムが見つめてくる。

 楽しそうに唇を舌でぺろりと舐める。


「それで? オレに何の用かな? ん? ん?」


「実はジークの剣を作って欲しいんです」


「へえ、聖騎士の剣をねぇ」


 ちらっとジークの方をマルムが見る。

 反射的にジークの耳と尻尾が動く。


「いいぜ」


 悩むこともなくさらりと言葉が出る。

 躊躇のない素振りにアイリスが聞き返した。


「本当に作ってくれるんですか?!」


「ああ、だが一つ『条件』があるんだなぁ」


 もう一度舌で唇を舐めながらマルムは満面の笑みを浮かべたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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