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第39話 旅の準備

 宿屋『渡り鳥』のふかふかのベッドで休んだアイリス達の姿が朝の食堂にあった。

 朝食をとったあと、テーブルに広げたカセドケプルの地図をもとに今日の予定を決めているところだ。


「これからの旅で必要なものは揃えていかないとね」

「そうだな。簡易的な食糧に色々道具とかも欲しいな」

「ぴぃっ」


 テーブルの上でピィがアイリス達の話を聞くような素振りをしていた。

 アイリスが笑顔でその頭を撫でると気持ちよさそうな声をあげている。


「優先順位的にはジークの剣かな?」

「あー……確かにそうだな」

「となると、鍛冶屋さんだよね」

「だな」


 カセドケプルは周囲を高い壁で囲まれている都市で、色々な区域にわかれている。

 今二人がいる宿屋『渡り鳥』がある宿屋街や道具屋が並ぶ区域、今回目指すであろう鍛冶屋がならぶ区域もありその数も多い。


「お店の数も多そうだね」

「一つずつあたるかぁ」

「ぴぃぴぃっ」


 アイリスが苦笑していた。

 ジークも軽くため息を吐く。

 ピィだけは明るく鳴いている。励ましてくれているようだった。


「それじゃ、いってきますっ」

「気を付けてね、二人とも」

「いってきまーす」


 宿屋の女将オーリに見送られ、二人は鍛冶屋の区域を目指すことにした。

 流石鍛冶屋の通りと言わんばかりの煙や熱気が見えた。

 アイリス達はジークの剣について聞いてまわることにした。


 とりあえず身分は伏せておいて、聖騎士の剣を作れるか聞いてみた。


「お嬢ちゃん冷やかしかい? まあ、作るってなったら一番いいモノを作る自信はあるね!」


「うちの武器が一番だと思うよ! 騎士団でもちょっとは名が知れてるんだぜっ」


「聖騎士様の剣を作るのが夢だったんだよなぁ! オレはいい仕事するぜ」


 ほとんどのお店を回ったアイリス達だったが、お店を決めかねていた。

 皆職人ということもあり、自信がない者はいなかったのだ。


「なんだか、みんな同じようなことを言ってたね」

「どこもみんな一番だってな」

「ジークはどこか気になる所あった?」

「うーん……正直お城で見繕ってもらったこの剣よりいいモノはなかった気がする。この剣結構いいモノだったんだな」


 そう言いながら通りの最後の方まで来てしまっていた。


「まあ、とりあえずは見てみないとわからないし声かけてみようぜ」


 ジークは残ったお店に声をかけに足早に歩いていく。


「あ、まってジーク」


 遅れてアイリスがついていこうとした時、鍛冶屋の通りの奥に目がとまった。

 奥は小さな広場のようになっており、中央には像が立てられているのが見える。

 ふっとアイリスはそちらの方に引き寄せられるように歩いていく。


 像の前までくると、それが何の像なのかすぐわかった。


「この像……アーニャ様だよね」


「そうだな、先代聖女アーニャの像だ」


 アイリスが呟くと、隣から声がした。

 気が付くと、いつの間にか隣に騎士風の男性が立っていたのだ。

 額に二本の角がある所をみると悪魔族のようだ。


「あ、あのどちら様ですか?」


 驚いた表情をしながらアイリスが尋ねる。

 すると騎士風の男性は一礼して口を開いた。


「突然申し訳ない。私の名はベリル。カセドケプルの『六使』の一人だ」


 六使とは先日あったエクスやヴァルムといったこの城塞都市カセドケプルにおいて一定の権限を持つ存在である。


「まさかこんな所で今代の聖女様に会おうとは」

「え、私のこと知ってるんですか?」

「それはもちろん。昨日顔を見せに行ったとエクスやヴァルムから話は聞いていたからな」

「もしかして探してらっしゃったんですか?」


 もしそうなら手間をかけさせてしまったのでないかとアイリスは焦る。

 だが、相手は顔を左右に振ってそれを否定した。


「たまたま私はここに立ち寄ったのだ。貴方が聞いていた聖女様と外見などが似ていたのと、右手に『花の紋章』が見えたのでな」


「そうでしたか」


「驚かせてしまってすまない」


「いえいえ、そんなことありません。初めまして、アイリスです」

「これは丁寧にありがとう」


 状況が呑み込めたアイリスが改めて自己紹介をする。

 ベリルもそれを礼儀正しく受け取る。


「あの、この像ってどういうものなんですか?」

「この像は人魔戦争を終結に導いた先代聖女を模したものだ。その昔、この場所が一番戦争の被害が出た場所だったということもある」

「ベリルさんは詳しいんですね」


「私は元々、先代聖女と共に戦争の終結に力を貸していたこともあってな」

「そうだったんですか!」


 見た目はそんなに歳を重ねているようには見えなかった。

 アーニャ達と比べるととても若い印象を受けた。

 悪魔族は竜人族と同じように寿命が少し長いことも知られているのでその影響だろう。


「アーニャやガーライルは元気だったかな?」

「はい、お二人ともお元気でした」

「そうか、それなら良かった。アイリス様は何かここに用事でも?」

「あ、実は……」


 優しい物腰のベリルにアイリスは今困っていることを相談することにした。


「なるほど、聖騎士様の剣ですか……」

「はい、中々いい所が見つからなくて」

「ふむ……この都市で有名な腕利きの商人ならアテがあるかもしれません。ですが、その人物は一見の者とは合わない堅物でしてね」

「それは……難しそうですね」

「はい。誰かの紹介状でもあれば話は別なのですが……」


 『紹介状』という言葉でアイリスは思い出した。

 確か王都を発つ際に軍務大臣のビルゴに紹介状を渡されていたのだ。

 そのことをベリルに話して、実際の紹介状の内容を見てもらった。


「これは素晴らしい。私が言っていた人物こそ、この紹介状に書いてある者です。この紹介状を持っていけば会ってもらえるはずです」


「よかった」


 そこまで話した時、遠くからジークの呼ぶ声が聞こえてきた。


「アイリス! 勝手に一人でどこかに行くなって言ってるだろー?!」


「ごめんね、ジーク。ちょっとこの像が気になっちゃって」

「まったく仕方ないなぁ。 ……でこのヒト誰?」


 アイリスはジークに状況を説明する。ジークは慌ててあいさつをし、ベリルもそれに応えた。


「それでは私はこの辺で失礼するとしよう」

「ベリルさん、ありがとうございました!」

「あ、ありがとうございます」

「聖女様も聖騎士様も、旅の準備がしっかりと出来るように応援しています」


 再度一礼をしてベリルが広場を後にする。

 残ったアイリスはジークにベリルと話した内容を説明し、後日その商人に会うことにしたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです

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