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第37話 カセドケプルの六使

 カセドケプルの街中でひと際目立つ集団があった。

 その中心にはアイリス達がいた。

 ジークは狼族のヒト達に囲まれており、アイリスはそれ以外のヒト達と話をしているようだ。


「ジーク様、おめでとうございますっ」

「我が一族から聖騎士が出るなんて感激です」

「いつウルフォードにはお戻りになるんですか?」


 同族のヒト達に詰め寄られて困った表情を浮かべるジーク。

 何とか興奮を落ち着かせるために口を開く。


「あー、わかったから! 少し落ち着いてくれよお前たち」


 だが次々と話を聞きつけた同族が集まってきてキリがない。

 アイリスも今代の聖女ということもあってこちらも話しかけるヒトの数にキリがなかった。


 そんな時、ヒト混みをかき分けて一人の狼族の男性がジークに近づいて声を掛けてきた。


「すっかり人気者ですね、ジーク様」


 その男性を見た狼族のヒト達は皆、一礼してみせる。

 構わない、という素振りを見せたその男性を見たジークの顔が曇る。


「げ……ヴァルム」


 アイリスの今までの経験から、よほどこのヴァルムという人物が苦手だということは理解できた。相手もそれがわかっている様子だった。


「族長、かなり怒っていましたよ? 手紙の一つも送ってこないとも言っていましたね」

「うるさいな……暇がなかったんだよ」

「ほぉ」

「言いたいことがあれば口で言えよな」

「別に何もないですよ」


 ジークは威嚇するように喉の奥から唸り声をあげていた。


「聖女様もお疲れの所、ご苦労様です」


 状況が把握できていないアイリスだったが、声を掛けられて振り返る。

 すると鎧を纏った騎士風の男性がアイリスの近くまで歩いてきた。

 鎧にはスペルビア王国の紋章が刻まれている。


 その姿を見た他のヒト達は皆、道をあけていた。

 身分の高いヒトというのがわかる。


「貴方は?」

「申し遅れました。私はスペルビア王国騎士団副団長エクスと申します」

「はじめまして、アイリスです」

「ぴぃぴぃ」


「聖女様も聖獣様もお元気そうで何よりです」


 清々しい表情でエクスが微笑む。


「副団長さんが私達に何か御用でしたか?」

「いえ、今回は騎士団の副団長としてではなく『六使』の一人として参りました」

「『六使』……?」


 アイリスは聞いたことがない言葉に首を傾げる。

 それを見ていたヴァルムが威嚇するジークを放っておくように、アイリスに近づいてきた。


「『六使』とは国境を担うカセドケプルにおいて一定の権限を持っている者達のことです。魔族である五氏族から各一名ずつそして人間族から一名が任命されているんですよ」


「その『六使』のエクスさん達はどうしてここに?」


「聖女様と聖騎士様がカセドケプル入りしたと衛兵の間で噂になっていまして。様子を見に立ち寄ったというわけです」


「オレは密入国者の誰かさんの顔を見にきたんですけどね」


 エクスとヴァルムがそれぞれ口を開く。

 相変わらずジークはヴァルムの方を睨みつけていた。


「ジーク」

「ちぇ……わかってるよ」


 アイリスに注意されるとすっと普段の表情に戻る。

 それをみてヴァルムが関心したように口を開く。


「おや、聖女様には素直なんですね。さすが聖騎士様です」

「お前なぁ……」

「ヴァルムもそれくらいにしておけよ」

「わかってますって」


 淡々と煽るような素振りをしているヴァルムをエクスが注意する。

 こちらも素直に引いた。


 そしてエクスは一緒について来ていた衛兵達に、集まったヒト達を自然に解散させるように指示を出す。


「これで何とかヒト払い出来ましたね。到着したばかりでお疲れになったでしょう」


「ありがとうございます。今までよりもすごいヒトの勢いでびっくりしました」


「そうでしょうね。ここは大陸一、両種族で賑わっていますからね」


「聞いてはいたけど、ここまでとはなぁ」


 頭の後ろに手を回しながらジークが感心したように話す。


「前回は素通りでしたもんね」

「いちいち棘があるよな、ヴァルムは……」

「こういう性格ですから」


 慣れた掛け合いのようにアイリスには見えた。

 その視線に気づいたジークが説明する。


「ああ、アイリス。このヴァルムはオレの兄貴分っていうか……父さんの右腕としても優秀なんだ。性格は……ちょっと鼻につくけど」


「改めまして聖女様。いつもジーク様がお世話になってます」

「いえいえ、こっちこそジークにはいつも助けてもらってます」

「おや、それはそれは」

「なんだよ」


 今度はヴァルムが目を細めてジークを見る。

 それを諫めるような素振りをしつつエクスが口を開く。


「カセドケプルでゆっくりと巡礼の旅の準備をしてください。不要の時は特に干渉はいたしませんが、もし御用がある時はそれぞれの『使館』にいらしてください」


「ありがとうございます、エクスさん」

「ジーク様も宜しければぜひ狼族の使館へ」

「絶対行かない」


 こうして『六使』の二人と顔合わせを終えた二人は今日の宿に向かうのだった。




数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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