第34話 労いの宴
ラグダートにアイリス達がついたのはちょうどあたりが夜の雰囲気を出してきた頃だった。
宿屋『風見鶏』には灯りが輝いていた。
「ただいま」
「ぴぃぴぃ」
「腹減ったぁ」
「おや、二人とも帰って来たんだね。今夜はビナールに泊まると思ってたよ」
「無事に用事を済ませたのでそのまま帰ってきたんです」
「女将さんの所のご飯は美味いからね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
宿屋の女将レイニーは満面の笑顔で二人を迎えてくれた。
「それじゃこれから本格的に『巡礼の旅』ってやつなんだね」
「はい」
「そうだね」
「いつラグダートを発つんだい?」
「明日には発とうと思ってます」
「そうかいそうかい」
レイニーは感慨深そうな表情を浮かべながら頷く。
「まさか今代の聖女様と聖騎士様の『巡礼の旅』の始まりをうちの宿から送り出せるなんて、こりゃ後世まで自慢できるお話になるね」
「女将さん、話が大きすぎるんじゃないの? 確かに導きの証を手に入れてからが本番だとは思うけどさ」
「ふふ、喜んでもらえるのは素直に嬉しいじゃない」
「まあ、そうだな」
ジークとアイリスが話している間に受付からレイニーが出てきて提案をしてきた。
「それじゃ、今日はこの宿屋『風見鶏』から聖女様と聖騎士様を送り出すってことでパーティーと行こうじゃないか。腕によりをかけて美味しい料理を出してあげるよ。もちろん奢りだよ」
「ありがとうございます、レイニーさん」
「やったぜ」
レイニーは食堂の方に歩いていき、既に利用している冒険者のお客たちにも宴の話をする。するとお客たちの気分もあがったようで食堂が活気に包まれる。
アイリス達が食堂に入っていくと盛大な拍手でもてなされた。
食堂の中央に腰かけたアイリス達にお客たちが次々に話しかけてくる。
「ありがとうございます」
「どうもどうもー」
「ぴぃぴぃ」
二人は代わる代わるお礼を言う。アイリスの肩に乗っているピィもお礼を言っているようだ。
そんな中、厨房からレイニーが料理を運んできて二人のテーブルの上に次々に置いていく。
「さあ、自慢の料理だよ。たんと食べて力をつけなよ!」
「美味しそうっ」
「ひゅー美味そうっ」
アイリス達の前に焼き立てのパンや肉の煮込み料理、魚の焼き料理など見るだけでも美味しそうな料理が並ぶ。
「やあやあ、盛り上がってるね」
宴の噂を聞きつけたのか、以前助けた御者のジャンが食堂に顔を出した。
手土産に果物を持ってきていた。
「女将さん、これ美味しい果物だからお二人に出してあげてよ」
「あいよ」
「ジャンさん、ありがとうございます」
「いえいえ、御恩もありますしね。これからの旅の無事を祈ってますよ」
アイリスがお礼を言っている時にもジークは運ばれてくる料理を次々と口に入れていた。
今日の戦いで相当お腹が空いたのだろう。
「ジーク、これも食べたら?」
「お、悪いなアイリス! お前ももっと食べろよ」
「うん、ありがとう」
次にやってきたのはラグダートの教会に仕える神官のマクリールだった。
「お二人が明日、発つとお話を聞きましてご挨拶に参りました」
「マクリール様もお元気そうで何よりです」
「冒険者ギルドから何かありました?」
ジークが先日の刻印の魔物の調査について尋ねる。
「いえ、まだ調査中ということでした。ですが、今後もそのような魔物が出た時の対処はお二人のおかげで判明したので冒険者ギルドを通じて冒険者たちにも周知がされるそうです」
「それはよかったです」
「うんうん」
マクリールは必要な話を終えると、教会の仕事があるということで早々と席を立つ。
最後に振り返り、深々と礼をして口を開いた。
「お二人にこれからも『大いなる意思』のご加護がありますようにラグダートから祈っております」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますっ」
「ぴぃぴぃ!」
マクリールが帰った後も、噂を聞きつけたラグダートの住人達が風見鶏を訪れていた。
それからも料理は沢山並び、沢山のヒト達と交流をしたアイリス達であった。
そして月も綺麗に輝きだした頃、宴も終わりを迎えたのだった。
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