第33話 聖女の想い
ガーライルとの戦いの果てにアイリス達は巡礼の旅に必要な道具『導きの証』を手に入れることが出来た。
ガーライルが置いていった導きの証を手に取るアイリス。
後ろから興味深々なジークが覗き込む。
「手に入れられて良かったね」
「ああ、そうだな」
アイリスは旅の荷物を入れている鞄に導きの証を大切にしまった。
ちょうど様子を見にきた神官から声をかけられた。ガーライルのお願いで修練場を借していたそうだ。修繕は王都の教会に申請するということでジークは胸をなでおろしていた。
教会の入り口付近まで歩いてくると聖女の噂を聞きつけたビナールの住人達が集まってきていた。握手を求める者、話を伺いたい者など色々なヒトがいた。
「どうする、アイリス?」
たった今、ガーライルとの実戦を終えたアイリスをジークなりに気遣っていた。
アイリスはそれに気づいたようでありがとう、と笑顔で応える。
「私は大丈夫。これも聖女の役目だから」
「ぴぃぴぃ!」
「そっか、わかった」
それからアイリスはビナールの住人達と交流することにした。
聖女はじまりの町と呼ばれている場所に本物の聖女が来たことに住人達はとても感激している様子だった。
「その時、空に光る手が見えて……」
アイリスは聖女に選ばれた時のことを話したり先代の聖女アーニャと会話をした時のことを話したりしていた。
「ほら、どうだ。兄ちゃん、力持ちだろー」
ジークはアイリスのことを見守りながら町の子供達の相手をしていた。弟がいると先日言っていたこともあって、小さい子達と遊ぶのには慣れている様子だった。
「ぴぃぴぃ」
ピィも聖女の聖獣ということで拝まれたりして鼻高々な満足げな表情をしていた。小さい子達には可愛がられていてこれも楽しそうに見えた。
教会にある鐘が鳴った所で交流の場はお開きになった。
集まった住人達はしきりにアイリス達にお礼やこれからの旅の無事を祈っていると言っていた。
アイリス達も笑顔で手を振り、お世話になった神官にも挨拶をして教会を後にした。
「皆、いいヒト達だったね」
「子供達も元気だったな」
「ぴぃ」
先程の実戦の疲れがどこかに言ったように二人も気持ちのいい表情を浮かべていた。
「それじゃあ、ラグダートに帰りましょうか」
「疲れてるならこの町で今夜の宿をとってもいいんだぜ?」
「ううん、大丈夫。きっと風見鶏でレイニーさんが待ってると思うし」
「アイリスがそれでいいなら、オレもそれでいいよ」
「ぴぃぴぃ」
話し合いの結果、二人はこのままビナールを発ちラグダートに戻ることにした。
予定では夕方から夜の間には到着できるだろう。
街道をしばらく会話もなく、歩く二人。
今日色々あったことをそれぞれ考えているのだろう。
そんな時、夕日が綺麗に見える場所でアイリスが立ち止まる。
「どうした?」
「……今日私、ちゃんと戦えたんだよね」
「ああ、最高に格好良かったぜ」
「ありがとう」
笑顔を見せたアイリスだが、その表情はすぐ曇る。
何かを考えていることがジークにも伝わって来ていた。
「私もね、ジークがガーライルさんに言われたように聖女になったことをただ喜んでいたんだなって思ったの」
「そんなことないだろ」
無言でアイリスが首を横に振る。
「ガーライルさんと戦ってわかったの。聖女になることは、憧れてたよりもずっと大変なことなんだって」
「アイリス……」
「聖女は称えられる存在だけじゃない。誰かに疎まれる存在でもある……私は今までいいヒト達に出会って来たんだなってわかったの」
夕日を静かに見つめながら口を開くアイリス。
言葉はまだ続く。
「これから巡礼の旅が始まるでしょ? その中にはきっと優しいヒトだけじゃないかもしれない。すごい大変なことも待ってるかもしれない」
「……そうだな」
「ジークが誓ったように、私も誓うね」
アイリスが夕日を背にジークに振り返る。
穏やかな表情が浮かんでいた。
「私は聖女に選ばれたことを誇りに思う」
「ああ」
「だから私に出来ることは何でもするし、つらいことがあっても絶対に諦めたりしない」
「うん」
「私に皆が託してくれた『想い』を大切に、聖女として成長していきたい。ジークと一緒ならきっと出来る気がするの」
初めて会った時のようにアイリスは明るく元気にジークに笑いかける。
「聖女の想い、聖騎士が聞き届けました。……なんてな」
「ありがとう、ジーク」
「どういたしまして」
「ぴぃぴぃ」
冗談まじりの楽しそうな笑い声が街道に響く。
夕日もそれを静かに聞いているようだった。
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