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第32話 聖女と聖騎士の絆

「話ってことはもう実戦は終わりなんだよな」

「ああ、私もそのつもりだ」

「はぁ、疲れたぁ」


 ガーライルにも戦う意思ももうないことは感じられた。近くの台座に大剣を立てかける。


 ジークが修練場の床に倒れるように仰向けになる。同時に身体から出ていた冷気も消えていく。

 身体を伸ばした後、上半身を起こし折れた剣を鞘にしまった。


 隣にアイリスが座り、傷を癒すために話しかけた。


「ジーク、治癒(ヒール)するね」

「ああ、助かる」


 淡く優しい光がジークを包み、先ほどまで負傷していた頭部などの傷が治っていく。

 その様子を見ながらガーライルが口を開いた。


「二人とも、座ったまま聞いてくれて構わない」


「それで、話って何なんだよガーライルさん」


 戦闘の熱も冷めて、()()付けへと戻っていた。

 あぐらをかいた格好で少々恨めしそうな目をしながらガーライルに尋ねる。


「先ほどの戦い、二人とも見事だった」

「ありがとうございます」

「こっちはすごく大変だったけどな」


「ジークも聖騎士として十分な戦いをしたな」

「そりゃどうも」


 ジークは目線を逸らしつつ垂れた耳を掻く。

 素直にガーライルに褒められたことが嬉しいのだろう。


「そしてアイリス」

「はいっ」

「ジークとの連携、そして大胆な立ち回り見事だった」

「いえ、結構無茶しちゃいましたし……ジークがいたから出来たんです」


 ガーライルは静かに頷く。


「そうだ。お前達二人だから出来たことだ」

「ガーライル様?」

「聖女と聖騎士とはそうでなければならない」


 修練場から空を見上げながら言葉が続く。


「聖女は聖騎士に護られる存在だ。全ては聖女がいてこそ、この世界に光をもたらすことが出来る」


 ガーライルの真剣さが伝わったのか、二人も真面目に聞く姿勢になっていた。


「聖騎士は全てを賭けて……全ての力を出し聖女を護るものだ」


 ジークが頷く。


「そして聖女はただ『護られるだけの存在』ではならない」


 真っすぐな瞳でアイリスが話を聞く。


「聖女とは誰よりも困難に立ち向かわなくてはいけないからだ。その姿こそ、人々に勇気や希望を与え逆境を越える力になる。先ほどの戦いでアイリス、お前が見せた姿こそ聖女の本質だと私は思っている」


「ガーライル様……」


「これからお前達の巡礼の旅は始まる……そこには想像を超えた困難が待ち受けているやもしれん。その時、事を成せるのはお前達二人だ。お互いを信じ、想うこと、そしてそれによって生まれる『絆』の大切さをどうか忘れないで欲しい」


「絆の大切さ……はい、そのお言葉覚えておきますっ」

「うむ」


「ガーライルさん、オレがアイリスを護るよ」

「ああ、聖騎士の誓い貫き通してみせよ」


 アイリス、ジークそれぞれがガーライルと言葉を交わす。


「それとジーク」

「?」

「お前の『祝福』の力は目覚めたばかりだ。お前が成長するにつれて『祝福』の本当の力とまみえることもあるだろう」

「祝福の本当の力……」


「そしてお前の剣だが、成長していくお前にはもはや普通の剣では剣の方が悲鳴をあげてしまう。先ほど折れたのもそれが原因の一つだ」


「どうすればいいんですか?」


「本来なら鍛冶の街クックムで新しい剣を作るのが一番だが、先日の魔物の襲撃によって街は復興作業中だ。ならば、これから赴く城塞都市カセドケプルで腕の良い鍛冶師を探すしかないだろうな」


「なるほど」


「最近、魔物の動きが活発みたいですよね」


 アイリスは心配そうな表情をしながら口を開く。


「そうだな。聖女がいるとはいえ、最近の魔物の動向も気になるところだ。お前たちも十分注意して欲しい」


「はい、わかりました」

「ぴぃぴぃ!」

「ピィちゃん」


 いつの間にか離れて戦いを見守っていたピィがアイリスの肩に乗ってきた。


「ぴぃぴぃ」

「……」


 刹那、ピィとガーライルの目が合う。

 それからガーライルは振り返ると口を開いた。


「この『導きの証』はアーニャが平和への願いを込めて作ったものだ。どうか大切にしてくれ」


「アーニャ様が……わかりました!」


「諦めない想い、希望を絶やさぬ心だけが道を切り開く。そして……」


「ガーライル様?」


「お前達の約束……『最後まで二人で生き抜く』……いい言葉だった。アーニャと共に旅の無事を祈っている」


 その時、何かの拍子にガーライルが台座に立てかけていた大剣が倒れる。


 金属音が修練場に響き、アイリスもジークもそちらに目を移す。

 二人がもう一度ガーライルの方に向くとそこには既にガーライルの姿はなく、台座の上には『導きの証』がそっと置いてあるだけだった。


「あれ? いつの間に修練場から出て行かれたのかな?」

「んー……気配自体消えた気がするけど……いや気のせいか」

「ぴぃぴぃ」


 二人は気づいていなかったが、天から淡い光が降り注いでいたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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