第31話 力を合わせて
「面白い……やってみるがいい」
アイリスの宣言によって戦いの幕が上がる。
恐らくこれが最後の攻防になるだろう。
ガーライルは大剣を構え直し、二人に剣先を向ける。
二人は一度見つめ合うと、息を合わせるように声を上げる。
「やろう、ジーク!」
「ああ、やってやろうぜ!」
ジークがガーライルに向かって走っていく。
その後方から光の羽弓を構えたアイリスが、矢を射る。
「ホーリーアロー!」
真っすぐ放たれた矢を見たガーライルは大剣を構えると剣技を繰り出す。
「『一閃』!」
突き出された大剣の一撃と光の矢がぶつかり、互いの攻撃が相殺される。
その隙にジークが飛び出し、剣を振る構えをとる。
だがそれはガーライルも読んでいたようで、すかさず剣技を放った姿勢から身体を捻る。そしてその遠心力を込めた大剣の横なぎを繰り出す。
至近距離からのこの攻撃は避けられない。
「取った……!」
「『聖なる壁』!」
「!」
防御用神聖魔法『聖なる壁』。
アイリスが魔法名を唱えると、ジークの正面に光の壁が現れガーライルの一撃を受け止める。
その後、効力を失った光の壁はガラスのように割れて消えていく。
「はああ!」
ジークが剣を下段から振り上げると氷が道のように地面に広がっていく。
しかし、的が定まっていなかったのかガーライルの左側を抜けて修練場の壁をぐるりと凍てつかせる。
だが、それによって凄まじい量の冷気の霧が修練場を覆っていく。
「……なるほど、目くらましか」
「そこだぁ!」
ガーライルのちょうど正面から声をあげてジークが飛び込んでくる。
右手に持った剣が強く握られている。
「『氷狼咬斬』!」
身体を縦に回転させ勢いをつけての剣技。
同時に左方向からの氷の刃の体術を繰り出す。
「『氷牙連脚』!!」
先程と同様の三連撃を正面から叩き込む。
しかし、剣技と体術の連携攻撃は二度目。
ガーライルにも見切られていたため大剣によって全て防御されてしまった。
だが、反動は受けているようだ。
「強力な攻撃だが、面と向かって繰り出しては防御されるのは必至。目くらましも無駄というわけだ……」
「それはどうかなっ!」
激しい火花が飛び散る中、ジークは更に力を込めて叫ぶ。
「おおお! アイリスっ!! 頼んだ!」
「!」
三連撃を叩き込んだ勢いのまま、左手を思い切り振り抜く。
振り抜いた左手の先には水鞭が伸びている。
伸びた先はガーライルの後方に残っていた氷の霧の中。
そこから勢いをつけてアイリスが姿を現した。
水鞭はジークの剣の一振りで出来た氷の上を滑走するアイリスの上半身に巻き付いていたのだ。
冷気の霧が発生した直後、ジークは左手で水鞭を詠唱しアイリスの体に巻き付けて勢いよく押し出していた。アイリスは聖なる壁を足場に展開させ『ソリ』のようにジークの作った氷の道を滑走していく。
ジークの剣技と体術が防御された時点でアイリスは、ガーライルの背後まで広がっていた氷の道を滑っていき彼の背後を取ったというわけだ。
「何?!」
ジークの水鞭によって時計回りに勢いをつけて氷の上を滑走するアイリス。足場には聖なる壁を展開し、勢いに負けないように必死に弓を構えていた。
「ここ……っ!」
「聖なる壁を移動する足場代わりに……?!」
その光景をみて流石のガーライルも動揺を見せる。
ジークの渾身の剣技、体術の三連撃を正面から防御させた狙い、それは強力な正面からの攻撃の反動によって真後ろからのアイリスの攻撃へ反応させないためのものだった。
今持てる全ての魔力をこの一射に込める。
「ホーリー……アロー!!」
光の弓が大きく羽ばたくと同時に、光の矢が放たれる。
魔力がいつも以上に込められているためか、途中で更に加速する。
「……ぐっ!!」
聖なる矢の一撃がガーライルを捉え、背中の鎧に突き刺さった。
大きなダメージを負ったのか、その場に片膝をついた。
「やった! ……きゃっ!!」
滑走の勢いは死んでおらず、足場にしていた聖なる壁の効力が消える。
その反動で宙に放り出されたアイリスをジークが抱きかかえるように受け止めた。
「大丈夫か?」
「うん、何とか大丈夫みたい」
「本当、無茶するぜ」
「えへ」
お互いの無事を確認すると、アイリスはガーライルに駆け寄る。
ガーライルに一撃与えたとはいえ、傷を心配したためだ。
「ガーライル様、今治癒をっ」
「大丈夫だ。その必要はない」
光の矢が消えると、鎧の背中の部分に亀裂が入っていた。
それをものともしないようにガーライルが立ち上がる。
「でも……」
「その気持ちだけ受け取っておこう」
そう言って修練場の中央付近に歩いていく。
ガーライルは振り返り、口を開いた。
「よくぞ私に一撃を与えたな……約束通り『導きの証』をお前達に渡そう」
「ありがとうございますっ」
「すごい大変だったぁ」
「その前に一つ、私の話を聞いてもらいたい」
「お話……ですか?」
「?」
導きの証を差し出しながら、ガーライルは静かな声で二人に語り掛けるのだった。
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