第29話 聖騎士の誓い
「オレの覚悟が足りない……?」
「そうだ」
アイリスはジークの腹部の傷を治癒の力で治しながら、会話をしている二人をそれぞれ見ていた。
そしてジークが魔法で助けてくれなければ、今頃無事では済まなかったという事実を肌で感じていた。
「何故、聖女に聖騎士が必要なのか考えたことはあるか?」
戦う姿勢を一度解いて、ガーライルが尋ねる。
「何故って、聖女と聖騎士で世界の平和を守るためだろ」
「まるでおとぎ話が好きな子供の答えだな」
「なっ」
「聖騎士になる前までなら、その答えでも良かったかもしれぬ。だが、見習いの称号を冠しているとしても聖女アイリスの聖騎士、それがお前だ」
淡々とガーライルが語る。
「聖女という存在は称えられるだけのものではない」
「どういうことだよ……」
「その存在を疎むものもこの世界にはいるということだ」
「!?」
「聖女は常に危険に晒されているといっても過言ではない。実際にアーニャも過去に何度も命を狙われた。聖女には毒は効かぬ……だが刃を突き立てられれば聖女とて命を奪われる」
「!」
「聖騎士はすべての脅威から聖女を守護する存在でなければならない」
ジークはアイリスの方を見る。
先程のことがあり、小さく震えているのがわかった。
安心させたい一心で身体を大きく動かしながら口を開く。
「ならオレが守ればいい話だろっ」
ガーライルは即答する。
「今のお前では無理だ」
「なんでだよっ」
「お前の覚悟は『軽すぎる』」
「なんだと……!」
ジークは頭に血が上ったようで、剣を握りしめるとガーライルに向かっていく。
「ジーク!」
アイリスの静止する声も今のジークには届いていなかった。
修練場に剣戟が響き渡る。
ジークは全身に力を込めて、剣を振るう。
次第に息も荒くなっていく。
「勇敢と無謀は違う……それさえ見失っている者には何も守れはしない」
「なにを!」
ジークの攻撃をガーライルは語りながら大剣で受けきる。
お互いの剣がぶつかる隙を見てジークは体術を叩き込む。
「『狼牙連脚』!」
身体を捻り、二段蹴りを繰り出すがガーライルは瞬時に大剣を片手で持ち変えると空いた左手でジークの両足の攻撃を受け止めた。
「甘い」
そのまま右足を持たれて、空中に放り投げられる。
追撃はなく、空中で体制を整えてジークは地面に着地する。
「なら……これでどうだ!」
ジークは空中に飛び上がると、身体を二度捻りながらその勢いのまま剣を構える。渾身の力を込めた剣技を繰り出す。
「『狼咬斬』!!」
先程よりも強力な攻撃がガーライルに放たれる。
だが、ガーライルは冷静にジークの剣技を見ながら呟いた。
「覚悟なき剣には何も宿らぬ」
大剣を構えると先ほどよりも強い覇気を纏いながら、迎撃のための剣技を繰り出した。
「『一閃』!」
二つの剣が激しくぶつかり合う。
だが、ガーライルの一撃に耐えられなかったジークの剣が折れた。
「!」
「勝負あったな……」
二撃目の一閃がジークに直撃する。
ジークの身体は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
頭部を強くうったのか血が流れ、意識はないようだ。
「ジーク!」
駆け寄ろうとしたアイリスの前をガーライルの大剣が遮る。
「アイリス、もう決着はついた」
「ガーライル様……」
アイリスとガーライルが会話をしていた時、意識を失ったジークは暗闇の中にいた。その中で声が聞こえてくる。
―お前は負けたのだ―
―強すぎだろ、あんなの―
―諦めるのか? ここで諦めればお前達の旅は終わる―
―終わりたくない……まだ始まってもいないのに終われない―
―お前は何を望む?―
―守りたいんだ。何があっても……オレはアイリスを護りたい―
―それが自らの命を賭けるものだったとしてもか―
―当たり前だろ! オレはアイツに選ばれたんだ……あの時からオレの命はアイツのものだ!―
―そこまでの『覚悟』があるのならば、力を貸そう。戦うは今……さあ、目を覚ますのだ―
青白い光が暗闇を照らす。
その光にジークは手を伸ばした。
力が入らなかった身体が熱を持ちはじめる。
「所詮はここまでだったということだ」
「そんな」
「残念だがアイリス、ジークを癒したら王都に戻るのだ」
「はっ……何、寝ぼけたこと言ってんだよ。ガーライルの『じいさん』よぉ」
気を失っていたはずのジークが口を開く。
その言葉からは力強さが感じられた。
ビリビリと空気が軋む。
「……何故まだ立てる」
ジークは地面に折れた剣を突き刺し、それを支えにしてゆっくりと立ち上がる。
「ジーク、大丈夫なの?!」
「ああ、大丈夫だ」
「でもすごい傷が……」
「大丈夫だ……なあ、アイリス」
「何?」
「そこで見ててくれよ……オレの『誓い』をさ」
「誓い……?」
ジークは黙って頷き、力強く一歩を踏み出す。
すると折れた剣からは水魔法のモノと思われる水がまるで泉のように湧き出てくる。足場は次第に水場へと変わる。その水面は磨かれた鏡の如く輝きを放つ。
「オレはアイリスを護る……護り抜いて見せるっ!」
琥珀色の瞳に光が宿る。
どこからともなく、風が吹きすさむ。
ジークは目を見開き、牙をむき出しにしながら叫んだ。
「この命を賭して、護ってみせる!!」
ジークが水面に突き刺した剣を右手で握りしめる。
左手の聖騎士の紋章が青白い光を放つ。
するとその紋章から凄まじい冷気が吹き荒れる。
水面が一気に凍りついていく。握りしめた剣さえも。
「我が名はジーク……聖女アイリスの聖騎士だ!」
咆哮と共にジークは地面から凍りついた剣を抜き、構える。
氷と剣は一体となり、切っ先まで研ぎ澄まされていた。
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