第27話 導きの証
ビナールの町の中央広場からまっすぐに行くと教会が見える。
入口まで行くと神官の身なりをした男性がこちらを待っていたかのように立っていた。
「お待ちしておりました。聖女様、聖騎士様」
町に入る時、衛兵には旅券を見せているので噂が広がるのは時間の問題だと思っていたが、今回のような対応は初めてだった。
「あの、私達」
アイリスが用件を伝えようとすると、神官の男性は頷き言葉を返す。
「中にお入りください。中で待っている御方が、貴方達が求めていることを教えてくださいます」
「中で待っている御方……? とりあえず行ってみるか」
「そうだね」
ここで誰かと待ち合わせするという内容は王城では聞いていなかったため、不思議に思いながらもアイリスとジークは教会の中へと入っていく。
教会の中は神聖な空気に包まれていた。日の光が窓のガラス越しに差し込んでいる。
中央に目を移すと、見た覚えがある全身に鎧を纏った騎士が二人を待っていた。
待ち人とは聖騎士ガーライルだったのだ。
「ガーライル様?」
「ガーライルさん?」
アイリスとジークがそれぞれ口を開く。
「久しぶりだな、アイリス、そしてジーク」
鎧同士がぶつかる重厚な音を響かせながら、ガーライルがこちらに近づいてくる。
いつもアーニャの傍らにいるガーライルだが、今回はアーニャの姿はどこにも見えない。
「それでは着いてこい」
近づいて二人を確認したガーライルはおもむろに歩き出した。
ガーライルの放つ雰囲気に押されつつも二人は黙ってその後をついていく。
教会内の廊下を三人は進んでいく。
「ガーライルさん、一人で来たのかな?」
「多分、そうだと思うけど……」
ガーライルの後を歩きながら、小声で二人が会話する。
王城でもあまり話す機会もなかったために、率先して話すのも珍しく感じたからだ。
ガーライルに案内されて辿り着いたのは教会に所属する魔導士などが魔法の訓練をする修練場だった。剣などの武器も壁にかけてあるのが見える。
「ここでいいだろう」
ガーライルは修練場の中ほどまで歩くと二人の方を振り返る。
そして何かを取り出すと右手にもったそれを二人に見えるようにかざした。
木製の装飾品のように見えた。円形の枠の中に星を象ったように5つの小さな三角形の『何か』がはまるようなくぼみがある。
「ガーライル様、それは?」
「これは『導きの証』だ」
「導きの証?」
アイリスが尋ねるとガーライルが答える。
ジークも初めて聞いた言葉のようで復唱した。
「これは60年前、人魔戦争が終結した時アーニャが神樹の一部を削って加工したものだ」
神樹を素材に使っているためか、見た目からはそんなに昔のものだとは感じられなかった。ガーライルの話を聞かなければ、最近作られた物と見間違うほどである。
「氏族の試練に挑み、無事試練を乗り越えた時に与えられる氏族の宝石をここにはめる。それを5つ集めることで導きの証は『最果ての丘』への鍵となる」
最果ての丘。それがアイリスとジークに課せられた巡礼の旅の最終目的地である。
そこに辿り着くために必要なものが、今ガーライルが持っている『導きの証』というわけだ。
「それがこの教会に祀られていたものなんですね」
「そうだ」
「じゃあ、それを貰ってカセドケプルに向かえばいいってことかぁ」
「……」
ガーライルは二人の顔を見つめる。目線がどこにあるかは顔全体を覆っている兜のせいでわからないが、明らかに見られているという『感覚』は二人に伝わって来ていた。
「二人とも……王城を旅だった時よりも成長したようだ。この数日の間に色々とあったのだろうな」
アイリスとジークは目を合わせて、ここまでくる間にあったことを思い出していた。
喧嘩やお互いの夢を語ったり、数日間の間だが色々とあったことは確かだ。
「そんな、大したことないですよ」
ジークが照れを隠すような素振りを見せる。
「魔物との戦闘も経験したようだな」
「わかるものなんですか?」
アイリスは驚いた表情をしてガーライルに尋ねる。
「腕がある程度ある者なら、気づけることだ」
「さすがガーライルさん! まあ、オレとアイリスが組めばどんな魔物も相手できますよ」
「さすがにどんな魔物もってわけにはいかないと思うけど……」
調子にのるジークを抑えるようにアイリスが口を開く。
それを聞いたガーライルはほう、と呟いた。
「それは頼もしいことだ」
アイリスはガーライルの呟いたその一言に説明しがたい『重さ』を感じていた。
「ガーライル様?」
「……」
「っとまあ、そういうわけでそれを貰ったら試練を受けるためにカセドケプルに向かいますね」
褒められて調子がのったジークが導きの証を貰うために、一歩前に踏み出す。
試練を受けるための前段階のいわばお使いが終わることに安堵してるようにも見えた。
すると、静かにガーライルは導きの証を持った右手を降ろした。
その素振りをジークは不思議そうに見つめる。
「ガーライルさん?」
「誰が渡すと言った?」
「へ?」
ガーライルは静かに振り返ると、背後にある台座の上にそっと導きの証を置いた。
それをアイリスの肩から見ていたピィが、そっとアイリスの肩から降りて少し離れた台の上に移った。
「ピィちゃん、どうしたの?」
「……」
ピィは何も言わずにガーライルの方を見つめていた。
「アイリス、ジーク……お前達の『実力』を見せてもらおう」
再び振り返り、ガーライルがアイリスとジークの正面に立つ。
辺りの雰囲気も重くなった気がした。
ガーライルは修練場の壁にかけてあった大剣を手にとり、構えながら口を開く。
「この私に一撃与えてみせよ。さすれば、導きの証を渡そう。だが、出来なければ……お前達の旅はここで終わることになる」
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