第25話 聖女はじまりの町
北の森から戻ったアイリスとジーク達はラグダートの教会の神官であるマクリールにオーガとの戦闘の件を報告した。謎の刻印の話も併せて、冒険者ギルドにも伝えておくということで、お礼を言われた。
その後、アイリス達は休息のためラグダートにもう一泊し、次の日の早朝ビナールへと出発することにした。
「それじゃ、気を付けていっておいで」
「ありがとうございます、レイニーさん」
「それとジークにはこれを渡しておこうかね」
「ん?」
宿屋の女将であるレイニーからジークに包み紙が渡される。ジークは鼻をぴくっとさせると匂いで中身が何かすぐにわかったようだ。
「やった、女将さん特製のサンドイッチだっ」
「ビナールまでの道中で食べなよ」
「ありがとう、女将さんっ」
レイニーから手土産を持たされたジーク達は一路ラグダートから街道を通り、聖女はじまりの町と呼ばれるビナールへと向かうのだった。
途中、魔物と遭遇することもなかった。休憩の際に持たされたサンドイッチを二人で食べる。それから再び歩き始め、昼前には目的地であるビナールへ着いたのだった。
「ここがビナール……はじめて聖女が生まれた町……」
「ジーク?」
「ぴぃ?」
心なしか、ジークが琥珀色の瞳を輝かせているようにアイリスには見えた。
よく見ると尻尾が左右に揺れているし、両耳も絶えず動いていた。
周りを見渡す素振りもいつもより激しい。
「ジーク、何か楽しそう」
「え? いやぁ、気のせいだろ」
「そうは見えないけどなぁ」
はは、と左耳をかきながらジークは笑って見せる。
町の中央まで行くと立札に矢印が添えられており『この先はじまりの聖女の生家跡』と書かれていた。
「アイリス、ちょっと見ていこうぜ!」
「え、でも教会に行かなくちゃ」
「先に寄ってからでも大丈夫だって」
いつになく、はしゃいでいるようなジークに押されてアイリスは寄り道をすることにした。そこにはかつて建物があったであろう石壁の残骸などがあり、立札も立っていた。
「ここで最初の聖女が生まれたのかぁ」
ジークは興味深々ではじまりの聖女の生家跡を見回っていた。
それを見てアイリスはジークに尋ねる。
「……ジークってもしかして、はじまりの聖女様が好きなの?」
「はっ?! な、何でそんなこと言うんだよ」
アイリスがジークの尻尾を見ると逆立っていた。
明らかに動揺している証拠だ。
「だって一緒に旅を始めて、一番楽しそうにしてる気がするんだもん」
ギクリ、と音が聞こえてくるかのように、ジークの表情が強張る。
「ビナールのことは知らなかったみたいだけど……なんかすごく怪しい」
「ぴぃ~」
怪しむようにアイリスが目を細めながらジークに近づく。
肩に乗ったピィも同じような顔をしてみせる。
「ジーク、何か隠してるでしょ……?」
「うっ……っ」
アイリスとピィに詰め寄られてジークが焦り始めた。
「ジークぅ?」
「ぴぃぴぃ?」
アイリスがジークの顔のすぐ近くまで迫る。
これにはジークの我慢の限界が来たようで、ボソッと何か呟いた。
「……っ」
「え? 何?」
あまりに小さい声だったのでアイリスが聞き返す。
ジークは両耳を赤くさせてもう一度呟く。
「……笑うなよ」
「え、うん」
俯きながらジークが口を開く。
「オレ、小さい頃から聖女様の昔話が好きだったんだ」
「うん……それで?」
「昔から聖女と聖騎士の本を読んでて……ここがその本に書かれてた場所だって知ったらつい興奮しちゃったんだよ……」
「それなら最初から言ってくれればよかったのに」
「それは……その、なんだ……」
まだ言いづらいことがあるようで、ジークは真っ赤にした顔を両手で覆い隠すような素振りをする。
そこまでの話を聞いてふとアイリスは『あること』を思い出した。
それは『何故ジークがスペルビア王国に来たか』だった。
そのアイリス自身が抱いた疑問の答えを確かめるためにジークに尋ねた。
「もしかして……ジークが密入国してきた理由って」
「……」
「聖女に会いたかったから……?」
アイリスの問いにジークは静かに頷いた。
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