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第24話 刻印の魔物

 ラグダートの北に位置する森にきたアイリスとジーク達。


 教会の信者のヒト達がよく訪れる場所というだけあって、木漏れ日が降り注ぐ綺麗な森だった。小鳥達の声もあちこちから聞こえてくる。


「最近魔物の話をよく聞くよね」

「ああ、確かにこの間も御者の人が襲われてたしな。神官様の話じゃ、南の街の周辺にも魔物の群れが出たっていうし」


 二人は会話をしながら森の奥へと進んでいく。


「こんなに綺麗な森にも魔物が出るなんて」

「まあ、聖女のおかげで魔物の数も抑えられてるって聞いたことはあるけど」

「私、まだ見習いだけどね」

「それでも聖女は聖女だろ?」


 ジークの言う通り、聖女の存在によってこの世界に生まれてくる魔物の数や行動範囲は減少する傾向にあるという結果や伝承は多く残されている。


 先代の聖女アーニャが存命であり、今代の聖女であるアイリスがいる今の世ならその効果もある程度は上がるはずだ。


 しかし、最近の魔物の動向は活発な面が見られるのも確かだった。


「この間の街道で戦ったハウンドウルフとかなら、楽勝なんだけどな」


「油断は禁物でしょ、ジーク」

「ぴぃぴぃ」

「ほら、ピィちゃんもそうだって言ってるよ」

「ちぇー」


 そろそろ森の奥まで歩いて来ていた。

 森の入り口付近と比べても木々が鬱蒼(うっそう)としている。


「ぴぃ……!」


 すると先ほどまで元気に鳴いていたピィの様子が変わった。

 何かに気付いて震えているようにも見えた。


「どうしたのピィちゃん?」

「!」


耳をピンと伸ばしたジークが何かに気付いて、アイリスの手を引っ張り近くの茂みの中に隠れた。


「ジーク?」

「静かに。何か奥から来る……」


 アイリスが息を潜めて茂みの中から外を覗いてみる。

 黒い大きな何かがゆっくりとこちらに歩いてくるのがわかった。


「オーガだ……!」


 オーガとは山奥に生息する人型の魔物で大きな体躯と牙が特徴的な魔物である。

 冒険者ギルドの討伐ランクも中級に該当する。


「私、見たことない」

「そりゃそうだ。オーガはもっと山奥にいるもんだ」

「ジークは見たことあるんだ」

「オレは一族でオーガの討伐をした時についてったことがあるからな」


 茂みの中で二人は普段よりも小さな声で会話していた。

 もちろんオーガとは距離もあるため、聞こえていない。

 オーガは二人に気付かない様子で通り過ぎていく。


 そこでアイリスは何かに気付いた。


「ねえ、ジーク。あの魔物が歩いてるのって私達が来た方向じゃない?」

「確かにそうだな」


 ジークがオーガの顔に目を向けると、瞳が赤く光っていた。

 表情も以前見た時とは違うようだ。そして一番特徴的だったのは『迷い』がない所だった。


「おかしいな……辺りを警戒しないでまっすぐ森の入り口を目指してるみたいだ」

「どうしよう……あのままじゃ森を出ちゃうかも」


「って言っても一筋縄じゃいかない相手だしな……あれ、ピィのやつどこ行った?」

「え?」


 話に夢中になっていた二人の傍にピィの姿はなかった。


「ぴぃぴぃぴぃ!」

「グアア……?」


 ピィの鳴き声が聞こえた。

 二人が鳴き声の方向を見るとピィがオーガの正面に立って鳴いていた。

 挑発のつもりだろうか。オーガに向かって威嚇のような素振りをしている。


「あのバカ鳥!」

「ピィちゃん!」


「ガアア!」


 オーガは右手に持っていた出刃包丁のような武器をピィに向けて振りかざす。

 それを咄嗟(とっさ)に飛び出してきたジークがピィを抱き寄せて回避する。


「ジーク!」

「そいつがまたどっかいかないように見てろよ!」

「わかった!」


 ジークは駆け寄るアイリスの肩にピィを乗せ、前に踏み出すと剣を抜いた。

 オーガは攻撃を繰り出し、ジークがそれを剣で受け止める。


「くっ!」


 オーガの体躯から繰り出される一撃は予想より重かった。

 ジークにある疑問が浮かぶ。


「オーガの一撃ってこんなに重かったかっ?!」


 考えつつも足を踏みしめて相手の攻撃を弾き返す。

 尚も右手の刃は振り下ろされてくる。

 ジークの疑問の通り、オーガにしては動きも早い。


「なんだ、このオーガ……っ」


「!」


 戦闘を見ていたアイリスが何かに気付いた。


「ジーク、オーガの胸に変な模様があるっ」

「模様?」


 ジークがよくオーガの体を見ると上半身に纏っている布切れの間から、ちょうど胸のあたりに黒い模様が見えた。模様というよりは『刻印』のようだ。


「普通のオーガにはあんな刻印なんてなかったはずだ」


「グアアア!」


 オーガの猛攻が続く。回避しているジークを援護しようとアイリスが光の羽弓を構える。


「ホーリーアロー!」

「!」


 羽ばたきと同時に打ち出された矢に反応して、オーガは寸前の所でアイリスの攻撃を避けた。

 ちょうどその時だった。回避した矢に(まと)っていた光がオーガの胸の刻印に触れた瞬間、刻印から漆黒の煙があがったのだ。


 オークはふらつき、胸を押さえて咆哮する。


「アイリスの神聖魔法が効いてる?! あれが弱点かっ!」


 アイリスもジークの言葉が聞こえていたようで、オーガの胸の刻印をじっと見つめていた。

 そして何かを思い立ったようでジークに声をかける。


「ジーク、私があの模様を打ち抜いてみる!」

「出来るのか?!」

「やってみる!」


「わかった。オレがアイツの隙を作るっ」


 アイリスは強く、弓を引く。

 戦っているジークを見つめて、合図を待つ。


「ガアアア!」


 ジークは何度かオーガの攻撃を避けつつ、相手の太刀筋を見る。


「ここだっ……!」


 オーガの大きく振りかぶった攻撃を剣で受け止め、受け流すように体を翻す。

 力の行く先を失ったオーガの刃が地に突き刺さった。


 ここぞとばかりにジークが叫ぶ。


「アイリス!」


 ジークの合図にアイリスが目を見開き、集中する。


「ホーリーアロー!!」


 次の瞬間光の弓が羽ばたき、放たれた光の矢が目標を捉える。

 矢は真っすぐにオーガの胸の刻印を貫く。

 その漆黒の刻印は光に溶けていった。


 オーガの目に灯った赤い光も消えていく。

 そして胸を押さえて苦しみだす。更に大きなダメージも与えていたようだ。


 そのチャンスをジークは見逃さなかった。


「これでトドメだぁっ!」


 全力でオーガに向かって駆け、跳躍すると同時に剣を構える。

 急所である首筋に向かって大きく体をひねり重い一閃を放つ。


「『狼咬斬(ウルフバイト)』!」


 ジークが着地すると同時にオーガの巨体が地面に伏せる。

 剣を振り、腰の鞘に戻すとアイリスが駆け寄ってきた。


「ジーク!」

「やったなアイリスっ」

「うん! 今、治癒(ヒール)をするからね」

「サンキュー」

「ぴぃぴぃ!」


 オーガの体躯が朽ち果ていき魔石だけが残った。

 ハウンドウルフの時よりも大きく純度が高い魔石だ。

 それをジークが拾って袋に詰める。


「普通のオーガより強かった……一体何だったんだ?」


「あの『刻印』も気になるね。帰ったらマクリール様に報告して冒険者ギルドにも伝えてもらう?」


「そうだな。そうするか……疲れたし、帰ったら飯にしようぜ」

「ふふ、そうしよっか」


 アイリスとジーク達はマクリールにオーガのことを報告するために北の森を後にするのだった。


「あとピィちゃんはもう勝手に危ないことしちゃ駄目だからね」

「ぴぃ」


 反省しているのかしていないのか、ピィは愛らしく首を傾げていた。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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