第23話 教会からの依頼
宿屋『風見鶏』の食堂でアイリスとジークが朝食をとっていた。
予定では今日ビナールへ向けて出発することになっている。
「はい、ピィちゃん」
「ぴぃ」
アイリスがテーブルの上のピィにご飯をあげる。聖獣でもお腹は空くらしく、食欲旺盛だ。ジークの方にも寄っていきご飯のおねだりをしていた。
ジークはピィに餌付けしながら、アイリスに声をかける。
「今日ラグダートを発ってビナールに行くんだよな」
「うん、その予定よ」
そんな会話をしていた二人の元に、宿屋の女将であるレイニーが一人の男性を連れてやってきた。
「アイリス、ジーク、あんた達にお客さんだよ」
「お客さん?」
「?」
「ぴぃ?」
レイニーの前に一歩踏み出した男性の身なりをみると神官のようだ。
「はじめまして、聖女様そして聖騎士様。私はこのラグダートの教会に仕えております、神官のマクリールと申します」
昨夜のアイリスとジークを巻き込んだお祭り騒ぎによって今代の聖女とその聖騎士が風見鶏に宿泊しているのはラグダート中に広まっていたようだ。
「私達に何か御用でしょうか?」
「はい、実はお願いがあってきたのです」
「お願い?」
「ぴぃ?」
ジークとピィは揃って首を傾げる素振りをする。
早朝から神官が尋ねてくるというのはよほどのことなのだろうとアイリスも考えていた。
朝食を終えたテーブルは綺麗に片づけられ、マクリールの対面の席にアイリスとジークが移動して話を聞くことになった。
「実はラグダートの北側にある森で魔物を見たという話がありまして……」
「そういうのって冒険者とかに依頼するのが普通なんじゃない?」
ジークが話の内容を聞いて、通常であれば自分たちよりも冒険者の方が適任ではないかとマクリールに尋ねる。
「そうですね。確かにこのようなことは冒険者にお任せする案件ではあります」
「何か事情があるんですか?」
困ったような顔をしているマクリールを心配してアイリスが尋ねた。
「実はここラグダートから南に位置する『鍛冶の街クックム』周辺に魔物の群れが出るという現象が起きていまして腕に自信のある冒険者はそちらに駆り出されているのです」
「そういえば昨日ここにいた冒険者のヒト達も姿が見えないけど」
「みんなそっちに行ったってことなのかもな」
アイリスとジークが食堂を見渡してみると明らかに昨日よりもヒトの数が少ないことがわかる。
「北の森は元々神聖な場所でして、教会に訪れる街の者もよく足を運ぶ場所なのです。ですが、今回は魔物の影を見たという証言しかないということで冒険者ギルドでも偵察級の依頼にしかならないと言われてしまいまして」
「なるほど。偵察くらいなら成果も安いから依頼を受ける冒険者もいないってことか」
マクリールの話を聞いてジークは事態を把握したようでうんうん、と頷く。
「聖騎士様の仰る通りです。ですので、聖女様達にお力を貸して頂きたいのです」
困っているヒトを見てアイリスが放っておけるわけがなかった。
アイリスは笑顔で返事をした。
「わかりました。私達で北の森の様子を見てきますね!」
「おお、受けて頂けるのですか?」
「まあ、アイリスが断るわけないもんな。オレもついていくよ」
「ぴぃ!」
ジークもアイリスの返答は予想がついていたようだ。
ピィも気合は十分のようにみえた。
予定を変更し、アイリス達はラグダートの北の森へと向かうことになった。
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