第22話 仲直りの言葉
アイリスは喧嘩をして宿屋からいなくなったジークを探すためにラグダートの街をピィと共に探し回っていた。
「ジーク、どこに行っちゃったのかな」
「ぴぃ」
お昼を過ぎたあたりまで探したが、アイリスはジークを見つけられないでいた。
そんな時、ふとアイリスが気づく。
「もしかして……宿屋に戻ってきてるかも」
アイリスは鳥を模した木の看板が目印の宿屋に戻ってみた。
すると宿屋の扉の前で中に入ろうか悩んで右往左往しているジークの姿を見つけた。
「ジーク!」
「ぴぃ!」
アイリスの声にびっくりしたようで急いで表情を整える。
「よ、よう」
「よかった。帰ってきてたんだ」
「あー……まあ、な」
何か言いたげな素振りをジークは見せる。
「ジーク、ちょっと二人きりで話そ」
「あ、ああ」
空気を読んだようにアイリスはジークの手をとり、宿屋の中に入る。
正面の受付にはレイニーの姿があった。
「おや、二人とも揃っておかえりかい」
「はい! 今から二人で話し合いますっ」
「ど、どうも女将さん」
「ああ、そうしておいで」
女将さんに見送られる形でアイリスとジークは昨日と同じ部屋に戻っていく。
部屋に入ると備え付けのテーブルを挟んで椅子に腰をかける。
二人の間に沈黙が流れる。
アイリスもジークも話す言葉を考えているようでお互いに目を合わせる間を探しているようだった。
しばらくして、ほぼ同時に顔をあげて口を開いた。
「ごめんね、ジーク!」
「ごめん、アイリス!」
見事に同時だったこともあって、互いにきょとん、と一瞬固まる。
だが、すぐに笑い合った。
そこからお互いの考えを話すのに時間は掛からなかった。
「これからも二人で旅をするから、宿で部屋が一つしかないとか色々な問題が出てきちゃうと思うの」
「確かに」
「ぴぃぴぃ」
腕を組みながらジークがアイリスの言葉に頷く。ピィも頷いているようだ。
「その時また喧嘩にならないように、これからはお互い言いたいことは遠慮しないで話したほうがいいかなって」
「オレもちゃんとお前の話を聞いてから自分の意見をちゃんと言うようにしようって考えてたんだ」
「うん、それもいいと思う」
「ぴぃ」
ジークも自分なりに考えていたようでアイリスに提案した。
アイリスも頷きながらそれに賛同する。
「それに私、今までジークのこと弟みたいに見てた所があって」
「え」
その言葉を聞いて、ジークの尻尾が一瞬力をなくして垂れた。
もちろんアイリスには見えていない。
「だから、これからはちゃんと男の子としてみるからっ」
「お、おう。その方がオレも……いいかな」
次のアイリスの言葉を聞くと垂れていた尻尾がぴんと立ち上がった。
もちろんアイリスには見えていない。
そんなこんなで、色々と二人で話をするうちに夕飯の時間になっていた。
「それじゃ、食堂にいこっか」
「ああ、オレ腹へっちまったよ」
仲直りを終えた二人は一緒に部屋を出た。
二人が食堂にいくとレイニーが笑顔で迎えてくれた。
「ちゃんと仲直りは出来たみたいだね」
「はい、おかげさまで」
「ありがとう女将さん」
素直な二人の言葉を受けて、レイニーはどういたしまして、と軽快な口調で答えた。
「それじゃ、今日はあたしの奢りってことでたんと食べな」
「ありがとう、レイニーさん」
「奢りだってよ、アイリス! 食べようぜ」
レイニーと話していると少し離れた席で話していたグループの一人がこちらに歩いてくる。
男性はアイリスとジークの顔をじっと見つめると合点がいったように口を開いた。
「ああ、やっぱり昨日のお二人じゃないですか」
その男性は昨日二人をラグダートまで送ってくれた御者だったのだ。
「ジャン、あんたこの二人を知ってるのかい?」
レイニーが尋ねると慌てたような口ぶりで御者のジャンが返事をする。
「女将さん、知ってるも何もこの二人がさっき話していたオレを魔物から助けてくれた聖女様と聖騎士様だよっ」
その言葉を聞いていた食堂にいた全員がざわめき始める。
レイニーも目を丸くして、ジャンから目線をアイリスとジークの方に移す。
「あらまあ! なんだいそうだったのかい。こりゃ、あたしったら聖女様と聖騎士様に偉そうなこと言っちまったじゃないか」
「いえ、レイニーさんのおかげでジークと仲直り出来たんですよ」
「そうだよ。本当助かったんだから、そんなにかしこまるなよ女将さん」
レイニーは二人の言葉に嬉しくなったのか、追加の料理をカウンターから持ち出してテーブルの上に置く。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないのさ。それじゃ、これもお食べよ」
「ありがとうございます、レイニーさんっ」
お礼をアイリスがいうとレイニーは遠慮しないように目くばせをする。
そして言葉を続けた。
「噂じゃ新しい聖女様は『魔族を聖騎士に選んだ変わり者』って聞いてたからどんなものかと思ったけど、いい聖騎士様を選んだみたいじゃないか」
アイリスとジークは見つめ合うと、お互い噴き出す。
女将さんの言葉がよほど面白かったのだろう。
「そりゃ、魔族を選んだ聖女は今までいなかったんだから変わり者って言われてもおかしくないよな」
「私はどう言われてもいいけどね。ジークを選んで後悔してないから」
「ぴぃぴぃ!」
「それはそれは、ありがたいお言葉ありがとう聖女様」
二人はふざけあってまた笑いあっていた。
対面で座っているアイリスには見えなかったが、この時のジークの尻尾は軽く左右に揺れていた。
それからアイリスとジークのテーブルには聖女と聖騎士と話したいというお客さんでごったがえすのだが女将さんの配慮もあって、アイリス達が休む前には切り上げさせてもらえた。
二人は部屋に戻って寝る準備を始めた。
ジークは既に薄手の寝巻に着替えていた。
「私も寝巻に着替えるからこっち見ないでね」
「ん」
ベッドの間に間仕切りが置かれた部屋に戻ったアイリスが着替えるためにジークに声をかける。
ちゃんとジークはアイリスを背にして壁を見ていた。
「もういいよ」
「ああ」
それから軽く話をして、二人は休むことにした。
燭台の灯りをアイリスが消す。
各自のベッドに横になる二人。
アイリスがジークの方を向いて言葉をかけた。
「いい宿屋さんに泊まれてよかったね」
「ああ、そうだな」
くすっと小さく笑いながら二人は天井をみつめていた。
「それじゃ、おやすみジーク」
「おやすみ、アイリス」
「ぴぃ」
「ピィちゃんもね」
女将さんが用意してくれていた布団はふかふかでお日様のいい匂いがした。
二人とも今日は疲れたのか、すぐに眠りについた。
その日はアイリスもジークもゆっくりと眠れたという。
二人が泊まった宿屋の名前は『風見鶏』。
ラグダートでも気のいい女将さんとおいしい食事が旅人たちの間では有名な名所の一つだった。
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