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第21話 謝ることの難しさ

 部屋の窓の外から朝の光と共に小鳥のさえずりが聞こえてきた。

 アイリスが目を覚まして横の未使用のベッドを見つめる。

 ジークは昨夜出て行ったきり帰ってはこなかった。


「ジーク……」

「ぴぃぴぃ」

「ありがとう、ピィちゃん」


 寝て頭がすっきりしたこともあって、アイリスは昨日ジークにひどいことを言ったことを反省しているようだった。ベッドから降りると替えのローブに着替える。


 食堂に向かう途中で宿屋の女将さんであるレイニーが受付に立っていた。

 こちらを見つけたようで元気に声をかけてくれた。


「おはよう。よく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで」


 ふむ、と呟くとアイリスが一人であることに気付いたようだ。


「あれ? あんた一人だけかい」

「え?」

「連れの男の子、あんたが寝たあとずっと部屋の扉の前に座ってたんだよ。まるで門番みたいだったよ。あの様子だと深夜から朝までいたんじゃないかねぇ」


 喧嘩した後でもアイリスのことが心配だったのか、それとも中に入ることがためらわれたのかはわからない。だがジークが戻っていたことにアイリスは安堵していた。


 反対にそれに気づけなかった自分に嫌気がさす思いがこみ上げて来ていた。


「レイニーさん、今日も泊めてもらっていいですか?」

「ああ、それはうちとしても儲かるしね。ちょうど別々の部屋も用意できるよ」


 アイリスは一度俯いて何かを考えたあと、笑顔でレイニーに答える。


「いえ、昨日と同じ部屋でお願いします! 私、ジークのこと探してきますっ」

「そうかい。それじゃ、腹ごしらえして行ってきな。洗濯物もしっかりしておくよ」

「ありがとうございますっ」


 元気に食堂に向かっていくアイリスの後ろ姿をレイニーは見つめていた。

 小さく微笑んだあと呟く。


「若いっていうのはいいねぇ」


 それから朝ごはんを食べたアイリスはジークを探しに宿屋を飛び出していった。

 朝まで此処にいたのなら、まだ近くにいるかもしれないと思ったのだろう。


◇◆◇


 時は少し戻って早朝。

 宿の中の見回りをしていたレイニーが部屋の前の廊下で座っていたジークを見つけた時のことだ。


 皆、寝静まっていることもありレイニーはジークに声を抑えながら話しかけた。


「あんた、どうしたんだいこんな所に座って」

「……」


 バツが悪そうな顔をしてジークは顔をそむける。


「気にするなっていうほうが無理な話だよ。あんた、ちょっと一緒に来な」

「?」


 レイニーはジークを連れてまだ暗い食堂に向かった。

 テーブルに座るように言って、自分も対面の席に腰かける。


「喧嘩でもしたのかい?」


 ジークの背後の尻尾が逆立つ。

 それを見てふふっとレイニーは笑う。


「なんだい図星かい」

「……同族でもそうだけど、女ってよくわからなくって」


 溜め息まじりでジークが呟く。

 レイニーはその様子をみながら口を開いた。


「まあ、まだ一緒に旅をして日が浅いんじゃわからないものもあるってもんだよ」

「な、なんでそんなことわかるんだよ?!」

「あたしはこの宿の女将だよ? 旅人を見る目は確かさ」


 自信満々に話すレイニーに気圧され昨夜のことをジークは話すことになった。


「なるほどねぇ」

「いきなり服脱いでて……オレのためとか言っててわけわかんなくてつい強めに言っちゃったんだ」

「それで喧嘩になったわけかい」


 対面の狼族の少年は黙って頷く。

 ジークなりに後悔している様子が伝わって来ていた。

 そんなジークにレイニーはおもむろに声をかける。


「昨日あの子があたしの所にきたんだよ。お湯が欲しいってね」

「え」

「なんでも、汗臭い匂いの女の子じゃ連れに嫌われちゃうって言ってたのさ」

「!」

「狼族っていうのは鼻がよく聞くのを知ってたのかもしれないね」


 落ち着いた頭で考えて、ジークは昨日自分がいったこととアイリスが話していたことの合点がいったようではっとした表情を浮かべていた。


 レイニーも気づいたようで言葉を続けた。


「女の子っていうのはね、変わるときはいきなりだったりするもんさ。今回はお互い間が悪かったんだろうね」


「……オレ何も聞かずに怒鳴っちゃった」


 さっきまで逆立っていた尻尾が力をなくしたように長椅子に横になる。

 レイニーは小さく唸るとジークに声をかけた。


「喧嘩したら謝るのが普通だろうね」

「何っていえばいいんだろう……」

「それを考えるのがあんたの役目だよ」


 ジークはテーブルに頭を一度軽くつけると立ち上がる。

 廊下であった時よりもすっきりとした表情をしていた。


「オレ、ちょっと考えてくる」

「そうかい、それじゃこれ持っていきな」


 レイニーは立ち上がると食堂のカウンターの奥にいくと、その場にあった食材を使って簡単なサンドイッチを作ってくれた。それを包むとジークに手渡した。


「これ食べて、いい答えを探しなよ」

「ありがとう、女将さん! オレ行ってくるっ」

「ああ、行ってきな」


 ジークは包みをしまうと駆けだし扉を開けると宿屋の外に出ていくのだった。


「若いねぇ」


 そう言ってレイニーは仕事に戻る。

 そしてしばらくして、アイリスが受付に降りてきたのだった。


 宿屋を出た後、ジークはどこかの建物の屋上に腰かけて昇る朝日を見つめていた。

 しまっていた包みからサンドイッチを取り出し、口にする。


「うまい……」


 昨日は何も食べていなかったため、即興のサンドイッチは何よりもおいしかった。

 全て食べ終わるとジークは大の字になり空を見上げた。


「はぁ……なんて謝ればいいんだろ」


◇◆◇


 アイリスは宿屋から飛び出して、朝を迎えて賑やかさを増していく市場の通りに来ていた。

 思えばここ数日一人になったことなどなかった。隣にはいつもジークがいたからだ。


「ジークにちゃんと言わなくちゃ……っ」




数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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