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第225話 『憧れ』と『現実』

 稽古場で父と子の会話が行われる。聖騎士となったジークのこれまでの成長を父シグは誉めてくれた。それを受けてジークもまた喜びに溢れるのだった。


 しかし、次にシグが口を開き紡いだ言葉には今までにはない重い雰囲気をジークは感じ取るのだった。


「『憧れ』と『現実』は違うってどういうこと? 父さん」


 その言葉をジークに伝えたシグの表情は変わらず真剣そのものだった。


「言葉の通りだ」

「意味がよくわからないんだけど」


 目を軽く閉じ、何かを思い出すように目を開きながらシグが語り始める。


「幼い頃、お前に『聖女』の伝説にまつわる本を買ってやった日がつい昨日のように思えるな」


「ああ、あの一番古い本のことか。うん、一番好きな本だから大事にしてるよ」


「それが今のお前に繋がるとは私は微塵も思っていなかった」


「?」


「お前はそれから熱心にその本を読むようになった。剣の稽古などはしっかりこなしつつ、頭角を現した後も暇があれば本に目を通していたな。ルドもそんなお前の『聖女好き』に感化されて新しい本を買い与えていたこともしっていたよ」


「……ばれちゃってたのかぁ。ま、まあ、剣の稽古もおざなりにしてなかったし父さんも怒ることはなかったじゃないか」


 苦笑しながらジークが口を開く。静かに頷きながらシグが再び口を開く。


「そうだな。男の子にしては珍しく『聖女の話』が好きだとは思っていたが、お前の言う通り剣の稽古への影響もなかった。いや、それ以上に何も言わなかった理由は剣の稽古には誰よりも熱が入っていたのを肌身で感じていたからだ」


「まあ、聖女のお話には聖騎士が必ず出てくるからね。オレもそんな強い騎士になりたかったっていうのはあるよ。剣術も好きだったしね」


「そう、お前はその頃から『聖騎士』となる『運命』に選ばれていたのだろうな」


 シグは一息着くように、軽く息を吐く。


「なんだよ、父さん。『運命』なんて大それた言い方しちゃってさ」

「いや……『運命』だったのだ。お前がウルフォードを抜け出し、王都まで辿り着き……聖騎士に選ばれたと聞いた時。私はそれを確信したのだ」

「父さん?」


 何気ない素振りで話していたジークも父親から感じる雰囲気が変わったことを肌身で感じていた。


「私が何気にお前に買い与えた『聖女』の本。あの時から全ては始まっていたのだ。あの本を選んだ時、本当は『剣術』に関する本を買いにいくはずだった。だが、なぜか妙にその本に惹かれたのだ。ジーク、お前にこの本を読ませたいと頭によぎったことを今でも覚えているのだからな」


 シグは当時のことを語る。妻であるルドにしか話していなかったことだ。


「『聖騎士』となったお前の成長は目覚ましかった。カセドケプルで会った時の話やヴィクトリオンでの話をヴァルムから聞いていた。結果お前は戦士の中の戦士とまで言われる獅子族の長シャル殿に勝ち、兄弟子のヴァルムを越えてみせた。これがお前に与えられた『運命』……そう言わずして何と説明できるものか」


 ジークは父親が話す自分の話の規模が大きくなっていることに戸惑い始めていた。


 確かに里を抜け出したことや人間族の領域に無断で入ったことを咎められず、逆に褒められたことは嬉しかったが明らかに父親の語る話の『規模』が膨らんできたと感じたからだ。


「父さん、何だか……話が大きくなりすぎてない? オレは偶然アイリスに選ばれて『聖騎士』になったんだ。そして試練を越えてきた。それだけの話じゃないか」


「なるほどな……本人にはその自覚がない、か。それもいいだろう。だが、はっきりさせなければいけないことはある」


「はっきりさせなければならないこと?」


「先ほども言った『憧れ』と『現実』の話だ。仮に『運命』ではなかったとしよう。それでもお前は里を抜け出し、王都まで行ったはずだ。違うか?」


「……うん、行ったと思う」

「それは何故だ?」

「『聖女』をこの目で見たかったから、だよ」

「そう、お前は幼き頃から持っていた『聖女への憧れ』に突き動かされたのだ。そして偶然『聖騎士』に選ばれたことで聖騎士として振舞ってきた。そう言いたいのだな」

「うん、そうだよ」


 ジークの言葉を受けて、刹那シグが目を閉じる。そしてゆっくりと開けながら口を開く。


「では『現実』はどうか?」

「『現実』って?」

「お前は『何のために聖騎士として剣を振るう』?」

「それは決まってるだろ。『聖騎士』は『聖女の剣であり盾』なんだからさ」

「違うな……お前は『アイリス様が聖女だから剣であり、盾でありたい』と思っているのだろう?」

「!!」


 ジークの胸がドクンと高鳴っていく。これまで誰にも言われてこなかったが、父親の口から出たその一言は確かにジークの意を捉えていた言葉だった。




数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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