第224話 父と子
夕食を済ませたシグはジークを屋敷内にある稽古場に呼び出す。ジークも色々と話さなければいけないこともあるため、シグの後を追うのだった。
「あの、ルドさん」
「どうかしましたか、アイリス様」
「えっと……稽古場っていうのは何処にあるんですか?」
「ああ、稽古場ですか。屋敷の中庭にある建物がそうです」
ジークが出て行った扉の方を心配そうに見つめながらアイリスがジークの母親であるルドに彼が向かった行先を尋ねたのだ。
「どうかしたの? アイリス」
「お嬢、食べ終わったなら一緒に談話室戻りましょうよぉ」
「ごめんね、みんな。私、ちょっと稽古場にいってジークの様子みてくるね」
「え、でも……むぐっ」
キッドの口を軽く塞いだディーナが口を開く。
「行ってきなさいよ。気になるんでしょ?」
「……! うん、ありがとう。ちょっと行ってくるね」
「ぴぃ」
「ええ、行ってらっしゃい」
時間がかなり経っているが、アイリスはゆっくりと稽古場のある中庭を目指して部屋を後にする。
「ディーナさん」
切なそうな表情をしながらルドが呟く。
「……あの子が行きたいって言うんだから、背中を押してあげるのが私の役目よ」
「行ったことを後悔することになっても、ですか?」
「ええ、そうじゃないとわからないものもあるから」
「お二人は何を話してるんですかね?」
「……キッドはもっとご飯食べてなよ」
「えへへ、部屋に戻った時に食べるようにデザートを頼んだところなんですよぉ」
「キッドは図太いね」
「?」
そう口にしながらフリッドも稽古場に向かったアイリスを心配する表情を浮かべていた。
一方こちらは屋敷内の中庭に建てられた稽古場。中にはシグと合流したジークの姿があった。ジークはシグからの話を待っている所だった。
「……ヴァルムとお前に稽古をつけていたのが、とても懐かしく思うな」
稽古場の至る所についている傷などを見渡しながらシグが口を開く。
「そのヴァルムを越えたこと、改めて讃えよう。よくやったな、ジーク」
「ありがとう、父さん」
シグはうむ、と頷くと目を軽く閉じた後にまた開いて話を続ける。
「数か月前、お前には此処で修練をしておくように伝えていたな」
「! ……うん」
「あれは確か、このアルカディアで聖女を讃え次の聖女が現れる報せによって各地で祭が開かれることになった頃だったな」
「うん……」
話の核となる事柄に心当たりがあるジークの顔が曇る。
「それがまさか、王都ローデイルにいる先代の聖女アーニャ様に送るための荷物の中にお前が潜んでいたとは……私の監督がなっていなかったと反省しているよ」
「……」
「ヴァルムと話をしたことは聞いている。ウルフォードは一時、色々な情報が錯綜していた。消えたお前のことを心配する者達も沢山いた」
「うん、ごめん……」
「……だが、全ては過ぎたことだ。今更お前の行動を咎めるつもりはない」
「え?」
「アイリス様には感謝することだ。お前が聖騎士に選ばれていなければ狼族全体への罰もあったかもしれないのだからな」
「父さん……」
大きく息をシグが一度吐く。更に話を続ける。
「だがお前は聖騎士に選ばれ、これまで聖女アイリス様と共に幾多の試練を越えてきた。それは我が一族の誉れでもある」
シグの言葉を聞いて、ジークの表情が明るくなる。尻尾も軽く左右に動き始めていた。
ずっと自分のしたことを咎められると思っていた彼からすれば、父親の口にした言葉はその不安を裏切るものだったからだ。
「ずっと……あの時のことを怒られると思ってた」
「思う所がないわけではないぞ」
うっ、と痛いところを突かれたジークが言葉を詰まらせる。
「先日、ヴィクトリオンから族長シャル殿の手紙が届いた」
「シャルさんから?」
「ああ、内容はお前を一人前の戦士と認めたこと。そしてお前の行動をあまり責めないで欲しいという内容だった。あのシャル殿からそこまで言わせるとはな……これでは私もお前を面と向かって怒れぬよ」
はにかむように言葉を紡ぐシグを見て、再びぱぁっとジークの表情が明るくなってくる。
「聖騎士となり、成長してウルフォードへと帰ってきたお前を私も誇りに思っている」
「父さん……ありがとう」
「ああ。全ては世界の大いなる意思の導きなのだろうな」
稽古場の天井を軽く見ながらシグが言葉を口にする。
「……だからこそ、お前に伝えなければならないこともある」
「? 何を?」
「……『憧れ』と『現実』は違うということを、だ」
「え?」
ジークの方に向き直したシグの顔は先ほどとは違って真剣そのものだった。
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