第223話 家族団欒
模擬試合が終わったその日の夕食の会場にアイリスとジークが揃っていくと、先に談話室を出ていったキッドとディーナの姿があった。手を振って近づいていくと、ジークがあることに気付く。なんと今日は族長であり、父親のシグの姿があったのだ。
「父さん……」
ジークの尻尾がゆっくりと左右に揺れ始める。シグも気づいたようで穏やかな様子で声を掛けてきた。
「模擬試合、見事だったぞ。ジーク」
「! ありがとう、父さんっ」
尻尾のふり幅が大きくなる。相当に嬉しい時の反応だ。ジークは自然とシグの席の隣の席に掛ける。
「お父さんったらジークが来る直前まで、聖騎士様って言っていたのよ。でも部外のヒトもいないってお母さんが説得してなんとか普段通りに戻ったんだから」
「ルド、それは言わないで欲しいと言っただろうに」
「あ、お父さん照れてるっ?」
「フリッド」
「あはは、ごめんなさい」
「やっぱり普段通りが一番いいよな」
やっと普段の家族の会話に戻ったことで安堵した表情を浮かべるジーク。アイリスはその様子を微笑みながら見ていた。
「聖女様……いえ、アイリス様もどうぞこちらに来てジークの隣にお掛けください」
そんなアイリスに気付いたシグが食べる手を止めて、優しく声を掛ける。
「えっと……いいんですか?」
「構いませんよ、ジークもその方が喜ぶと思いますし」
「か、母さんっ」
口元に手を添えながらルドが笑って見せる。顔を少し赤めながらジークがムキになる。
「それじゃ、失礼しますね」
「どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとうございます、族長さん」
「アイリス、食べようぜ」
「うん」
それを少し離れた席から見ていたキッドとディーナが会話をしていた。
「兄貴のお父さんも普段通りに話してくれてて、良かったですね」
「そうね。自分の実家に帰ってきたのに聖騎士として接待されたら気が気じゃないものね。やっとジークも落ち着けたかしらね」
「そうだといいですねぇ」
ディーナがお茶を一口飲む。カップをゆっくりとテーブルに戻す際に一言呟く。
「問題はまだジークにお咎めがないことよね」
そんなことを呟かれているとは知らないジークは、我慢していたものを開放するように母親や弟たちと話をしていた。
「そういえば、ヴァルムは?」
「今は屋敷の療養用の部屋で休んでいる。時期に元気になるだろう」
口元を用意された綺麗な布で拭きながら、シグが答える。
「よかったね、ジーク」
「ああ、ちょっと気になってたからさ」
「それなら私、後で様子を見にいってこようかな?」
「なら、オレもついていくよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
二人の何気ない会話を対面の席についていたルドとフリッドが見ていた。そのうちフリッドが気づかれないようにルドに呟いた。
「ねえ、母さん。兄さん、アイリス様のこと……」
「フリッド、そういうことは口にしない方が身の為よ」
「そう……だよね。うん、わかった」
「本当、わかりやすい子なんだから……」
柔らかい瞳で我が子を見つめるルド。だが、その後表情が少し切ない様子へと変わる。その時、食事を終えたシグが席から静かに立ち上がる。
「ジーク」
「何? 父さん」
「食事が済んだら、一人で稽古場へ来なさい」
「! う、うん。わかった」
静かに頷いたシグが食事の会場から出て行く。従者達も一礼して見送る。一方ジークは少し顔を強張らせていた。
「はぁ……いよいよか」
「ジーク?」
「ぴぃ?」
心配そうにアイリスが顔を覗かせる。この後、どんな話がされるのかの見当がついているからだろう。
逆にここまで何もなかった方が不思議なくらいだ。
覚悟を決めたジークは大きく肩で息をして、席を立つ。
「ちょっと言ってくるよ」
「うん、わかった」
「ぴぃぴぃ」
「兄貴、何処か行くんですか?」
「ちょっと野暮用だよ」
「あとで色々聞くわね」
「茶化すなよ」
ディーナ達も席についたまま、席を立ったジークに声をかける。一応は心配されていることを自覚したジークは覚悟した様子でシグの後を追うのだった。
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