第220話 聖騎士の輝き
祝いの祭の聖騎士との模擬試合、最後の相手は兄弟子のヴァルムだった。ヴィクトリオンで特訓をつけてもらった兄弟子との本気の戦いが始まるのだった。
両者は狼族の戦士なら誰でも習得する基本剣技『狼咬斬』を繰り出す。再び試合場の中央で激しく剣と剣がぶつかり合う。
「こうして本気で剣を交えていると昔を思い出しますねっ!」
「なんだよ、こんな時に昔話だなんてさっ」
お互いが相手の剣を押し出そうと力を込める。その間にヴァルムはジークに向かって話始める。
「今まで戦ってきた中で、オレがジーク様に負けたことが何回ありましたっけね」
「嫌味な奴だな、本当に! 一度もないさっ」
「覚えてるならいいんです」
「だが、それも今日までだぜ!」
ギギィィン!!
ジークが更に剣に力込めて、ヴァルムの剣を弾く。更にそこから剣を構え直して横一線に薙ぎ払う。その攻撃を地面すれすれまで屈み、ヴァルムが回避してみせる。
「……『昇狼刃』」
「くっ!」
回避しながらも鋭い視線がジークを捉えており、下段から剣技を繰り出す。それをジークは紙一重で避け、後方に宙返りしつつ体制を整え着地する。
「はうぁ、どっちもすごいですねぇ! 今の絶対ボク避けれませんよ」
「うん。ジークもヴァルムさんもすごい……」
「いつも近くで見てるのとは一味違うわよね」
「そうだね……」
「ぴぃ」
真っすぐに二人の戦いを見つめているアイリス。どちらを多く見ているかは隣に座っているディーナにはよくわかっていた。
「これも避けられますか……反応速度も見切りの力も上がっている、と」
「今のはさすがに危なかったけどな」
「ご謙遜を。ですが、まだここからですよ!!」
着地からの復帰を待たずしてヴァルムがジークめがけて駆けてくる。
「『狼牙突』!!」
ギギィィン!!
「ぐっ」
ジークはヴァルムの突進技を正面から聖剣マーナガルムで防御する。相手の勢いで後方に押し出され態勢が刹那崩れる。
「そこ!」
その隙にすかさず追撃をヴァルムが放つ。態勢を崩したジークに相手の剣が迫る。
「させるかよっ!!」
ジークは身体を側転させて、攻撃を回避。さらにその勢いから足技を繰り出して反撃する。ヴァルムもそれに反応する。
「『狼牙連脚』!!」
「……!」
互いの連続の蹴撃がぶつかり合い、最後の一撃の勢いでジークが距離を取ることに成功する。だが、ヴァルムの攻撃はまだ終わっていなかった。彼の放った足技はジークとは異なっていたのだ。
「しまっ……!」
「『狼牙嵐脚』!!」
決めの回し蹴りがジークの懐に直撃する。
「がはっ……!」
「!」
アイリスが思わず立ち上がる。ジークはヴァルムの足技を受けて後方に吹き飛ばされるが、聖剣マーナガルムを地面に突き刺し踏みとどまる。
しかし、直撃のダメージはかなり大きいようだ。蹴られた場所を左手で押さえている。呼吸もだいぶ荒い。
「はぁ……はぁ……!」
「今のは効いたでしょうね。残念ですが、兄弟子越えはまだ早かったみたいですね」
「くっ……まだ勝負はついてないぜ……っ」
身体を震わせながら、ジークが歯を食いしばりながら声を上げる。目を細めながらヴァルムが言葉を返す。
「なら、越えて見せてください。弟弟子として……いえ、『聖騎士』として!」
間髪与えずにヴァルムが剣を構え直し、突進技を放つ。
「『狼牙突』!!」
「わかってる、そんなこと。だってオレは……」
刹那、ジークは観客席で立ちすくみながらこちらを見つめているアイリスの切なそうな表情を瞳に映す。
「聖女を守るための剣なんだ……っ!」
姿勢を低くして、ヴァルムの攻撃を受け流す構えをとるジーク。
「返しの技……『旋牙刃狼』ですか。だが、その身体では受け流しきれないですよ!!」
彼の構えから発生する技を見切り、更に加速するヴァルム。二人の距離が刻一刻と縮まっていく。
「……シャルさん、今使わせてもらうぜ……とっておきをさ」
走馬灯のようにかつてヴィクトリオンを立つ直前にかつてマルムとしてジークのマーナガルムを打った人物、獅子族の長シャルと話をしたことを思い出す。
◇◆◇
「オレに勝ったんだ。次は兄弟子越えを目標に鍛錬をすることだねぇ」
「一筋縄じゃいかないだろうなぁ」
「今回だって稽古をかなりつけてもらったんだろ?」
「一度も勝てなかったけどね」
ふふん、とシャルは楽しそうに尻尾を左右に揺らしながら聞いていた。
「でもきっと、近いうちに本気で戦う時がくるだろうさ」
「う……」
「そして、その時ジーク。キミは負けてはいけない戦いになるだろう」
「……どうしてさ?」
「何故ならその時、キミは『弟弟子』としてじゃなくて聖女の剣である『聖騎士』として舞台に立つからさぁ」
言葉を紡ぐシャルの目は真剣そのものだった。
「その時のために、オレからとっておきを授けておくよ」
「とっておき?」
「まさか、キッドに持たせたヴァリアントに仕掛けがしてあるのに自分のには何もしてないと思ってたのかい?」
軽い調子に戻ったシャルがお腹を押さえながら笑いかける。
「へ?」
気の抜けた声をあげながらジークが自分の腰に帯びている聖剣に手を当てる。
「実はね、マーナガルムの……にはね……っ」
「!」
そこでジークはあることを耳にして驚くのだった。
「使い方は教えたよ。あとはジーク、キミの鍛錬次第さ」
◇◆◇
走馬灯のような記憶の回想が終わりを迎える。何故なら自分の目の前までヴァルムの剣がせまっていたからだ。自然と意識が研ぎ澄まされていく。
「……!」
ジークは身体を捻り、ヴァルムの突進剣技を受け流す。だが、相手にはその動きを見切られているために即座に先ほどと同じ蹴撃が繰り出される。
「受け流したのは見事ですが、これで終わりです!!」
「……ああ、終わりだ」
「!?」
静かにジークが呟く。驚いたヴァルムが受け流された剣の先に目を向ける。そこにはジークの利き手である右手ではなく、聖騎士の紋章が刻まれた左手に握られたもう一本の剣の姿があったのだ。
「! 鞘が……剣に!?」
「これが……聖剣マーナガルムの真の姿だ!!」
ギィィィン!!!
左手に握った鞘だったモノの装飾が柄の部分に変化し、鞘の両側が光り輝き刃と化していた。身体を捻りながらその刃でヴァルムの剣を受け流し、右手に構えた聖剣を握りしめ渾身の技を放つ。
「……!」
「『狼牙双剣』!!!」
キィィィィィィン!!!
剣戟が響き渡り、会場が静まり返る。ヴァルムが握っていた剣が空中から地面へと突き刺さり、彼の身体も地面に倒れこんでいた。
それは『聖騎士』であるジークが勝利した瞬間だった。
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