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第217話 二人きりの部屋

 朝食を済ませたキッドとディーナは先に部屋へと戻る。一方アイリスはジークに誘われて彼の自室へ案内される。小奇麗にされた部屋を見て周るアイリスは彼が大切にしていた聖女の本を見せてもらう。


 その際に見せたジークの無邪気な笑顔に胸の高鳴りを覚えたアイリスは焦ってベッドに倒れこむ。ジークがそれを支えようとするが失敗。今二人はベッドの上、お互いの鼻がくっつきそうな体制になっていたのだった。


「……」


 今の態勢がどうなっているか、ジークは冷静に分析して答えを導き出す。不可抗力とはいえ、ベッドの上に仰向けになっているアイリスの上に覆いかぶさるようになってしまったことに耳と顔が赤みを持っていく。


「あ、えっと……」

「……」


 アイリスも胸の高鳴りが止まない。見つめ合っていた視線を外して胸に手を当てている。顔が熱を持っていくのがわかる。


「えっと……ジーク」

「あ、ああっ。今どくからっ」

「……うん」


 静かにアイリスが声を漏らす。その声を聞いたジークはばっとその場から起き上がる。尻尾が自分の意思と状況と反し揺れるのを右手でしっかりと押さえる。


 アイリスも彼が自分の上から退いたことでゆっくりとベッドの上から起き上がる。そっとピィが肩の上に戻って来ていた。


「ぴぃぴ」


 何とも言えない空気が流れる。お互いが目を合わせづらい雰囲気になっていたのだ。


「あの」

「あのさっ」


 同時に声が重なる。それに気づいてまた二人が黙り込む。最初にベッドの端に座っていた状態と同じ格好で時間がゆっくり過ぎていく。


「(ああ……オレ、アイリスに何てことしてるんだよぉっ!!)」

「(ジークの鼻先がすごく近くて……よくわからないけど……私、すごくドキドキしちゃってる)」


 その間に二人はそれぞれどう話を切り出すか、考えて夢中で考えていたのだった。


「えっとさ」

「えっと……」


 再び同じタイミングで声が出る。また二人とも俯き加減で黙り込む。これではいけないとジークが口を開いた。


「アイリス、ごめんっ。びっくりさせちゃったよなっ」

「……ううん。大丈夫だよ、ジーク。私こそ……いきなり立ち上がったりしたから」

「いや、でも……オレがちゃんと支えてやればよかったんだからさ」


『……』


「ぴぃぴぃ!」


『!』


 二人が三度黙り込もうとした時、二人の肩をピィが鳴きながら行き来する。


「ピィちゃん」

「ピィ」

「ぴぃぴ」


 肩を並べる二人にピィは順番に頬ずりをする。どちらも悪くないよ、と言ってくれているように感じた。


「ふふ。ピィちゃんに励まされてるみたいだね、私達」

「はは、そうだな」

「ぴぃ」


 次第に二人に笑顔が戻り、場の雰囲気も落ち着いてきたようだ。アイリスはそっとジークの大切にしている聖女の昔話の本に目を向けながら口を開く。


「ジークはずっと聖女様が好きで、剣術も頑張ってきたんだよね」

「ああ、そうだな」

「そんなジークと出会えて、私の聖騎士になってもらったこと。私、とっても嬉しいな」

「アイリス……。オレも、嬉しいよ。憧れてた聖女の聖騎士になれたこと」

「本当?」

「嘘なんて言わないさ」

「ありがとう」

「こっちこそ、ありがとな」


 お互い小さな胸の高鳴りを感じつつも、今は目の前の嬉しい言葉に自然と感謝の言葉を交わすのだった。ジークの尻尾が揺れ始める。


「なあ、アイリス」

「なに?」

「あのさっ! オレっ!!」


 満を持してジークが何かを言おうとしたとき、ジークの部屋の扉が勢いよく開く。


「お嬢、兄貴、いますかぁ?」

「ちょっと、いきなり開けたら駄目でしょキッド」


 扉の前で耳を澄ませていたディーナも勢いよく部屋に入ってきてしまった。アイリス達は振り返りながらそちらを向く。


「なんだ、やっぱりいるじゃないですかぁ。兄貴達が遅いから兄貴のお母さんに聞いてここだろって言われたので来ちゃいましたー!」


 無垢な笑顔を浮かべながらキッドがはきはきと話す。後ろでディーナは顔に手を当ててバツが悪そうにしていた。


「もう……本当に空気読めないんだから」

「え? 何か言いましたディーナ」

「なんでもないわよ」


 いきなりのキッド達の来訪で呆けていたジークにアイリスが声を掛ける。


「ジーク、さっき何か言いかけてたけど」

「あ、いやっ。何でもないんだ」

「そうなの?」

「ああ、そうさ」


 その時のジークの両耳はうな垂れているように見えた。ジークも千載一遇の機会を失ったことで目を細めながら苦笑するしかなかった。


「二人で何話してたんですかぁ?」

「今ね、ジークの大切な本を見せてもらってたの」

「あ、聖女様の本ですね」

「何で、お前知ってるんだよ」

「秘密ですぅ」

「なに? ジーク、聖女の本こんなに持ってるの? ある意味すごいわね」

「お、お前ら勝手にヒトの物見るなよなっ」


 二人きりだった部屋は賑わいを増していくのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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