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第216話 一人の少年

 いよいよ今代の聖女と聖騎士であるアイリスとジークを讃える『祝いの祭り』が幕をあけた。それと同時にジークへの屋敷内での皆の対応が普段通りに戻る。


 肩の力が抜けたジークだったが朝食の席では皆に茶化され、照れる一面も見せるのだった。


「私達は特に何かするわけじゃないんだね」

「ああ、後から顔を出すとかはあると思うけどな。なんせ一週間もあるっていうしさ」


 朝食を済ませたアイリス達が会場から出てきて自室までの廊下を歩いていた。


「何だか緊張しちゃうな」

「いつも通りで大丈夫だって」

「ぴぃぴ」


 ジークと同じようにピィも気を利かせた声で鳴いていた。


「お嬢、兄貴ぃ、先に戻っちゃいますよぉ?」

「ああ、先に行っててくれ。アイリスはちょっと待ってくれな」

「うん。いいけど、どうかしたの?」


 キッドとディーナに先に戻るようにジークが返事をする。するとちょうど母親のルドが会場から出てきた。


「母さん、もう屋敷内を自由に歩いていいんだよね?」

「ええ。問題ないですよ」

「よっし! じゃあ、アイリス行こうぜっ」


 両耳と尻尾が勢いよく揺れる。余程嬉しい時のジークの仕草だ。ルドにはジークが何をしたいのかすぐにわかったようだが。


「行くって何処に?」

「行けばわかるさ」


 ジークは今までは足を向けなかった二階の階段へと進んでいく。アイリスもその後をついて階段を上がっていく。


 二階に上がって廊下の突き当りの部屋の前までいくと、ジークが扉を開けて覗き込むように中を見ていた。


「?」

「あ、いやちょっとどうなってたかなーって確認だよ」


 そう言って扉を完全に開き、中へと入っていく。手招きされたアイリスも部屋の中へと入っていく。そこは綺麗に片付いた青の色調が綺麗な部屋だった。


「ここってもしかして」

「そ、オレの部屋」


 自慢気にジークが返事をしながら部屋の隅々を見て口を開く。

 

「……母さん、ヒトがいないからって勝手に入って掃除したな。まったく」

「ふふ。散らかして出て来たんだ?」

「あー……まあ、少しだけ……」

「ふふ」

「ぴぃぴ」


 視線を外しながらジークは目を細めて軽く揺れる尻尾を右手で握る仕草をする。それを見てアイリスは笑みをこぼすのだった。


「色々見て周ってもいい?」

「ああ、いいぜ」


 机の上には剣術の指南書や、学術書が並んでいた。剣術好きなジークの性格が出ていた。学術書の方はきっと族長になるための知識をつけるためなのだろう。


「ねえ、ジーク」

「ん? どうした、アイリス?」

「聖女様の本は何処にあるの?」

「……よく覚えてたな」

「だって、此処にはないんだもん」


 朝食で見せたように再び照れ臭そうに顔を掻きながら、ジークは机の右側にある一番下の棚をそっと開ける。そこには何冊もの聖女に関する本が綺麗に整理されていた。


「こ、こんな感じだよ」

「すごい沢山あるね。ジークの聖女様好きがわかるね」

「少し恥かしい感じするな」

「えー、いいじゃない。元々、ビナールで聞いてたことだったし」

「ああ、そんなこともあったよな。覚えてくれてたんだな」

「うん」


 それからジークはアイリスに大きな自分のベッドに腰かけるように声を掛ける。彼女が腰かけている間に棚の中に並ぶ聖女の本の中から一番古そうな一冊を取り出して隣に腰かける。


「その本は?」

「これさ……オレが小さい頃母さんに買ってもらった本なんだ」

「じゃあ、これをいつも読んで貰ってたんだね」

「ああ。最近は読んでなかったけど……すごく好きなんだこの話」


 懐かしそうに持ちながら本を見つめているジークにアイリスが声を掛ける。


「読んでもいい?」

「ああ、いいよ」


 手渡された本をゆっくりと開く。そこには最初の聖女の話がまとめられていた。


「私もこの本読んだことあるよ。孤児院にもあったの覚えてる。すごいいいお話だよね」

「だよなっ。オレ、この本の話がすごく好きなんだっ」

「!」


 その時、彼が満面の笑顔でアイリスの方を向く。その無邪気な笑顔を見てアイリスはどきっとする。ジークが時折見せる年相応の少年らしいその笑顔。


 見つめらたアイリスは自分の顔がどんどん熱くなってくることに焦る。


「あ、えっと私、他の本もみたいなっ」

「おい、そんな勢いで立ったら危ないだろ……って!」

「きゃっ」


 勢いよく立ち上がった拍子にアイリスが体制を崩してベッドに倒れこむ。それを助けようと無理な姿勢からジークが彼女の身体を支えようと一緒にベッドの上に転げこむ。ピィはその時アイリスの肩から飛び、机の上に着地していた。


「……ご、ごめん」

「う、ううん。あたしこそ……いきなり、ごめんね」

『!』


 当のアイリス達はというと、とても気まずい体制になっていた。ちょうどベッドに横に仰向けになるアイリスの上に覆うようにジークの身体があった。突き出した鼻先がアイリスの鼻先すれすれにあった。


 一方こちらは先に部屋に戻って談話室で合流したキッドとディーナ達。お茶をキッドが淹れて二人で飲んでいた。


「お嬢と兄貴遅いですねぇ。紅茶入れたのに冷めちゃいます」

「……ジークが自分の部屋にアイリスを連れ込んでたりして?」

「えっ!? それはないですよぉ、兄貴がそんなオマセなことしないですよぉ」

「確かに。そうね、そこまでの度胸はないわよね。……それにしてもあなた、その言葉どこで覚えたの?」

「え、師匠がよく言ってましたよ」

「なるほど、ね」


 目を細めながらディーナはキッドを見つつ、二人の帰りを待つのだった。

数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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