第214話 秘密基地へ
屋敷の廊下でばったり出会ったキッドとジークの実弟フリッド。二人はいがみ合いを続けていたがそこに現れたジークの母親ルドの優しい言葉によってお互いを知るきっかけを掴むことが出来たのだった。
「キッド、遅いな。まさか迷子にでもなってるのか?」
「さっきお水を運んできてくれた従者さんが言ってたけど、キッドから頼まれたんだって」
「ぴぃぴ」
「あいつ何してんだ?」
大きめの椅子の上で姿勢を楽にしながらジークが難しい顔をしている。笑いながらアイリスがそれを見ていた。
「あー、この様子だと『秘密基地』に行けるのは祭りの後になっちゃうかな」
「何よ、秘密基地って?」
興味を持ったディーナが近くの椅子に掛けながら尋ねる。得意げな顔をしながらジークが答える。
「オレとフリッドが小さい頃に森の中に作った遊び場でさ。二人だけの秘密の場所なんだぜ。今度特別にみんなも案内してやるよ」
「すごく楽しそう。その時は宜しくね、ジーク」
「あたしもちゃんと誘ってよね」
「わかってるって」
「ぴぃぴ」
帰りが遅いキッドを皆が心配していたちょうどその頃、キッドはフリッドと共に屋敷を抜け出していた。
「いいんですか、フリッド。勝手に屋敷を抜け出しちゃって」
「いいんだよ。屋敷は広いし、父さんも母さんもお客さんの対応で忙しいから気づかれないさ」
ヒトの目が届かないような裏道を森の方向へとフリッドが進んでいく。とりあえずキッドも後を追う。しばらく獣道のような場所を進んでいくと森の中の広い空間に出る。
中央には大きな樹がそびえ立ち、その上には見張り台のような小屋が立てられていた。
「ここは兄さんとボクだけの『秘密基地』なんだ。キッドは特別に招待してあげたのさ」
「うわぁ、すごいですねぇ。ちなみに、あそこの樹の上には行けるんですか?」
「うん。こっち側から上がるんだ。ついてきなよ」
「はいっ」
樹の裏側に回ると木の板で出来た階段を上がっていく。程なくして樹の上の小屋の中へ入る。そこからの見晴らしはとても良いものだった。
「森の奥の奥まで見渡せますねぇ……すごいですぅ」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
「でも、いいんですか? 兄貴との秘密の場所なのに、ボクなんかを招待しちゃって」
フリッドは照れているのを隠すように突き出した鼻先を何度か指でこする。
「まあ、もっとキッドと話がしたかったしさ」
「えへへ、照れますね」
「お互いのこと、もっと話そうよ」
「そうですね!」
それから二人はお互いの話をしあった。
「そっか。キッドはお母さんがいなくて、お父さん達と暮らしてたんだ」
「そうなんですよ。だからフリッドのお母さんが羨ましいなって思っちゃいました」
「ボクも話を聞く限り、キッドの家庭はちょっと変わってる気がするな」
「やっぱりそうなんですかね。ボク、普通の家庭っていうのピンとこなくって」
ひとしきりキッドが話を終えるとフリッドが口を開いた。
「それじゃ、今度はボクの話をするね」
フリッドはこの秘密基地をジークと一緒に作った時の話や子供の頃の話をしてくれた。
「本当に二人は仲のいい兄弟なんですねぇ」
「キッドだって兄さんと本当に仲が良さそうに見えるよ」
「出会って結構経ちますしね。色々と恩もありますから」
「いいな、そういうの」
「フリッド?」
小屋から見える景色を眺めながらフリッドがキッドに尋ねる。
「キッドはさ、ボクと同じくらいの年だけど今まで聖騎士の兄さんと一緒に戦って来たんだよね?」
「そりゃ、色々な魔物と戦ってきましたよぉ」
「……すごいんだね。キッドは」
俯き加減でフリッドが呟く。
「どうかしました?」
「ううん、何でもないよ。さて、そろそろ戻ろうか」
「そうですね、そうしますか」
二人は小屋を下りながら話を続けていた。
「多分、兄さんは聖女様をここに連れてくると思うんだ。だって兄さんは」
「あーわかる気がします。なんせ兄貴は」
『聖女様が大好きだから』
二人が声を合わせる。どっと笑いが起きたのは言うまでもない。
「そっか。やっぱり兄さんは聖女様のことが好きなんだ。……そりゃ憧れてた聖騎士になったんだから仕方ないか」
「というと?」
「兄さんは昔から聖女様のお話が好きだったからね。よく本を読み過ぎて父さんに注意されてたんだ」
「へぇ、それは初耳です」
「恥ずかしいから隠してるんだよきっと。まあ、聖女様には言ってそうだけどね」
「兄貴はお嬢のことが好きですからねぇ。二人だけの秘密とかありそうです」
「今度聞いてみようかな」
「聞いたら教えてくださいねっ」
「キッドも何かあったら教えてよ」
「約束しますっ」
「うん、約束だ」
笑顔で二人は約束を交わす。こうして二人は秘密基地を後にして隠れるように屋敷へと戻るのだった。
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