第213話 二人の弟
母親のルドと久しぶりに母子の会話をしたジーク。こうしてアイリス達のウルフォードでの生活が始まることになる。街ではアイリスとジークの来訪を記念した『祝いの祭り』の準備が着々と進行していた。
「あー、なんか肩の力が抜けたなぁ」
「ジーク、お母さんと話せて良かったね」
「ぴぃぴ」
「嬉しくて耳と尻尾もブンブン振ってたわよね」
「ですねぇ」
アイリスに続いて茶化すようにディーナとキッドが声を掛けると、椅子に腰かけたままジークはびくっと身体を翻す。照れている様子で頬がうっすらと赤みを帯びてきていた。
「ちゃ、茶化すなよなっ」
「はいはい。わかりましたよ」
目を逸らしながらジークが言葉を返す。ディーナは両手を軽くあげながらジークの反応を楽しんでいた。するとジークが数回咳き込む。
「兄貴、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと話過ぎただけだ」
「お水もらってきましょうか?」
「悪いな、キッド」
「いえいえ、ちょっと待っててくださいね」
そう言ってキッドが部屋を出て行く。
「健気よね、キッドって」
「キッドはジークのこと本当のお兄さんみたいに思ってるからね」
「ぴぴぃ」
屋敷の廊下を歩くキッドの尻尾はとてもよく左右に動いていた。ジークの役に立つことがとても嬉しいのだろう。
「えっと、厨房を探すか従者のヒトに合えればいいんですけど……」
屋敷には祭りの打ち合わせなどのために狼族のヒト達がひっきりなしに出入りしているのが伺えた。その中でキッドは水を貰うために従者のヒトを探すことにした。
「探すといないもんですね……はてどうしましょうか」
「何かお探しでしたか?」
「あ、すみません。ちょっと頼みたいことがありまして……げ」
「げ」
キッドが愛想よく振り返るとジークの弟であるフリッドの姿があった。フリッドも屋敷に出入りするヒト達の案内などの仕事を手伝っていたために今回のような事故が起こったのだ。
「なんだ、小さいのか」
「なんだとは何ですか、おチビさん」
カチン、という音がお互いから聞こえた。二人とも比べればほぼ同じ身長と年なのだが。
「そっちの方が小さいだろ!」
「いいえ、尻尾の分ボクの方が長いですぅ!」
「尻尾……! そ、それは種族の違いだから駄目だろ!」
「駄目って誰が決めたんですか?!」
『ゔ~!』
互いの鼻先を思い切りくっつけて両者がにらみ合う。
「あらあら、可愛い二人が何をしているのかしら」
「か、母さん」
「今はお母様、でしょ」
「う……お母様」
「よろしい。それにしても二人とも仲が良かったのね」
キッドとフリッドが驚いた表情でルドの方を見る。彼女はくすくすと口元に手を当てながら微笑んでいた。
「ボクは別に仲が良いとは思いませんけどね……」
「ボクもそう思う……思います」
二人ともそっぽを向いて呟く。微笑んでいるルドが口を開く。
「ふふ、そういう所も息ぴったりね」
ぴくっとその言葉に両耳をピンと伸ばしながらフリッドが言葉を返す。
「母さん……お母様の勘違いですよ。ボクだって兄さ……あーもう面倒くさいな!! こいつったらいつも兄さんの近くにいてニコニコしてるんだよ?! 兄さんがせっかく帰ってきたのにボクだけ好きな時に合えないし話せないのに!」
「……ぅ」
我慢の限界に来たのか、フリッドが言葉遣いを気にせずに思いのたけを口にする。実弟ということもあり、立場的にも罪悪感が芽生えたキッドが言葉を漏らす。
「そうね。こういう時はいつもの話し方で話すべきよね。いい、フリッド。あなたの言うこともわかるけれど、キッドさんはこれまでずっとジークの傍でお手伝いをしてきたのよ? 舎弟という言葉を使うのもなんだけれど、ジークももう一人の弟のように可愛がっているのが私にもわかるの」
「……ぅ」
フリッドも母親に諭されたことでキッドと同じように罪悪感にさいなまれ始めたようだ。そっと二人がお互いに顔を合わせる。先ほどのように鼻先をくっつけたりはしていない。
「……」
「……」
二人とも先ほどまでいがみ合っていたが、今はルドの言葉を受けて言葉が出せないでいた。そんな時二人をそっとルドが両手で懐に抱き寄せる。
「!?」
「!?」
「ふふ、立場や種族は違っても二人はジークの『弟』なんですから。私の子供ってことでもいいわよね?」
「か、母さん……」
「兄貴のお母さん、とってもあったかいですぅ」
「はは、何だよお前。顔が緩みまくってるじゃないか」
「へへ、だってボクお母さんっていないのですごく嬉しくて」
「え、そうだったの?」
「そうなんですよぉ」
ルドの胸の中でお互い、口元を緩ませながら会話をしていた。そんなやりとりを見て彼女が優しく微笑む。
「ほら、二人とも落ち着いたらちゃんとお話出来るでしょ?」
再びお互いの顔を見つめる。フリッドが最初に口を開いた。
「……ちょっと話しないか、『キッド』」
「! いいですよ、『フリッド』」
互いの名前を呼んだ二人から思わず笑みがこぼれるのだった。
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