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第212話 母との会話

 狼族の長シグと試練の話をしたアイリス達。シグの提案で試練は今代の聖女と聖騎士の来訪を記念した『祝いの祭り』が終わってからということに決まった。


 そんな時、アイリス達の元にシグの妻でありジークの母親であるルドが訪ねて来たのだった。


「えっと兄貴のお母さんですよね?」

「ええ、そうです。お疲れの所失礼いたします。少しお時間よろしいでしょうか?」

「いいですよね、お嬢?」

「うん。入ってもらって」


 どうぞどうぞ、と腰を低くしながらキッドがルドを招き入れる。彼女も一礼してアイリス達の前に歩いて来た。


「母さ……いや、えっと……」

「いいのよ、ジーク。今は母さんで」


 くすっと口元に手を添えながら彼女が微笑む。その反応を見てやっとジークが緊張させていた全身を伸ばして力を抜いて椅子に寄りかかる。


「はぁ……」

「あらあら聖騎士様がそんな気を抜いていいのかしらね」

「もう、母さん。勘弁してよ」

「ふふ、ごめんなさいね。お父さんからあなたが戻って来ても皆の前では聖騎士として接しろって言うから」

「……そうだと思ったよ」


 二人の会話が弾む。それもそのはずだ。ジークがウルフォードを抜け出してかなり経つ。親子の会話としては当然だろう。それを優しい表情でアイリスが見守っていた。


 それに気づいたルドがこちらに声を掛ける。


「すいません、聖女様。私も思わず母親の顔を出してしまいました」

「いえ、構いませんよ。ジークもかなり緊張してたようですから。それに久しぶりに会ったんですから当然ですよ」

「そう言って頂けると幸いです」


「ボク達も兄貴に対しての対応に戸惑ってましたし」

「あたしは何となくわかってたけどね」


 アイリスに続いて、キッド、ディーナも会話に加わる。


「今は祝いのお祭りの件で一族のヒト達の出入りが激しいの。それが済んでお祭りが始まれば屋敷の中から外部のヒトは引くからその時までは狼族の礼節に従って接するわね」


「はぁ、早く落ち着きたいよオレは」

「ふふ。もう少しだけ頑張ろうね、聖騎士様」

「アイリスも茶化すなよ」

「ごめんね。ついつい」

「ぴぃぴぃ」


 二人のやりとりを見てルドが口を開く。


「本当に、聖女様の聖騎士になったのねジーク」

「ん? そうだけど、どうかした?」

「いえ、なんでもないわ」

「?」

「……」


 何かを言いかけたようだが、そこで話を止めた。その時の切なそうな彼女の表情がアイリスは気になったようだ。


 彼女は振り返ると今度はアイリスの方に話しかける。


「積もる話はお互い沢山あるでしょうけど、先程の話の通りもう少しお待ちくださいね」

「はい、わかりました」

「あと、私がここでこんな風に話していたのは……」

「内緒にしておきますね」

「ふふ、ありがとうございます聖女様」


 アイリスとルドが顔を合わせてクスっと笑い合う。温かく、優しいヒトなのだというのが伝わってくるようだ。


「それでは私は一旦これで失礼しますね。食事の時間には従者が案内に来ますのでまたその時にお会いしましょうね」


「わかったよ母さん」


「お父さんも本当は沢山あなたと話がしたいはずよ。その時はちゃんとお話しなさいね」

「わかってるって」

「本当かしら? あとフリッドもずっとあなたが帰ってくるのを待っていたから後でちゃんと話をしてあげてね」

「はいはい、わかりましたわかりました」


 そんな自然な会話をした後、ルドは部屋を後にする。


 少し煙たがる素振りをしていたジークだが、両耳と尻尾はしっかりと嬉しさを表していた。それを見てアイリス達が笑っていた。


「兄貴、お母さんと話せて嬉しいんですねぇ」

「そうね。結構見てるのはおもしろいわね」

「もう、二人とも聞こえちゃうよ」

「ぴぃぴぃ」


「何か言ったか?」

「ううん、何でもないよ」

「そっか。ならいいけど」


 ジークは嬉しそうな顔で椅子に深く腰掛け直す。相変わらず尻尾は動いていたが自覚はないようだ。


「兄貴のお母さんってとっても綺麗なヒトなんですね」

「ん。ま、まあそうだな」


 顔を逸らしつつ、頬を軽く掻きながらジークが応える。


「本当はお母さんの胸に飛び込みたかったんじゃないの?」

「ば、そんなわけないだろ」

「本当かしらねぇ?」

「ねぇ?」

「お前らなぁっ」


「お母さん、かぁ……」


 そっとアイリスが呟く。誰にも聞こえてはいないようだ。


 こうしてアイリス達のウルフォードでの生活が始まるのだった。

数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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