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第209話 狼族の礼節

 ジークは実弟であるフリッドと再会し、アイリス達を連れてウルフォードへの帰郷を果たす。街のヒト達から熱烈な歓迎を受けるジーク、そしてアイリス達。そんな一行の元へジークの父親であり狼族の長でもあるシグが姿を見せたのであった。


「あれが、ジークのお父さん……」

「ぴぃ」


 先程まで歓迎に騒いでいた空気がシグの登場で一気に静かになる。刹那、アイリスはシグと目があった。どきっとしたアイリスとは打って変わり、シグは落ち着いた様子だ。そして静まり返ったヒト達を見渡すと口を開く。


「すまないな、みんな。せっかくの歓迎の雰囲気を壊してしまったな。せっかく今代の聖女様と聖騎士様がお出でになっているのだから温かく迎えてあげてくれ」


「シグ様!」

「シグ様、ジーク様がお帰りになりましたよ!」

「聖女様、お会いできて光栄ですっ!」


 シグの言葉で場の空気が再び歓迎の雰囲気を取り戻す。狼族は魔族の中でも統率力と戦闘力が長けているとアイリスは以前からジークに聞かされていた。それを実感したような気がしたのだ。


「歓迎が落ち着きを見せたらで結構です。聖女様達には私達の屋敷へと来て頂きますが、いかがでしょうか?」


 アイリスに向かってシグが言葉をかける。ちらっとジークの方を見ると緊張しているのか黙っていた。


「はい。宜しくお願いします」

「ぴぃぴぃ」


「兄貴のお父さん、すごいカッコいいですね」

「さて、どうなるかしらね」


「……」

「兄さん」

「ああ、大丈夫だ」


 心配そうにフリッドが呟く。ジークは笑ってみせる。


 その後歓迎が一段落したのを見て、シグが一行を自らの屋敷へと案内する。後ろ姿からでも威厳というモノが伝わってくるような逞しい身体をしているのがわかる。


 屋敷へと着くと玄関から女性がアイリス達を迎えてくれた。


「ルド、聖女様達を宜しく頼むぞ」

「はい、あなた」


 そう言葉を交わすとシグは数名の衛兵達と共に先に屋敷の中に入っていく。


「ようこそいらっしゃいました、聖女様。私がシグの妻のルドと申します」

「初めまして、アイリスです」

「皆さま、お疲れでしょう。さあ、中へお入りください。すぐにお部屋も手配させて頂きますね」


 温かい笑顔でルドが皆を屋敷に迎え入れる。


「フリッド、少し手伝ってちょうだい」

「うん、わかったよ母さん」


 静かにフリッドがルドの元に歩いていく。ジーク達が気になるようだが、母親からのお願いでは仕方ない。


「か……」


 ジークが何かを呟こうとしたのがルドにはすぐに理解できたようだが、その場で首をゆっくりと左右に振って見せる。


「ジーク」

「さ、屋敷に入ろうぜ。キッド達もな」

「は、はい」

「ええ」


 そう言ってジークが従者に先導されて屋敷へと入っていく。アイリス達もそれに付いていく。


「なんか族長さん達、兄貴によそよそしくないですか? せっかく兄貴が久しぶりに帰って来たって言うのに」


 小声で隣を歩くディーナにキッドが話しかける。


「まあ、色々あるんでしょ。狼族は礼節を重んじる所があるから。さ、行きましょ」

「はぁい」


 一行は用意された部屋へと通される。案内された従者からは後ほど族長との面会があると聞かされた。荷物などを置いたアイリス達はジークに用意された部屋に集まることにした。


「みんなお疲れ様」

「うん。ジークもね」

「ぴぃぴ」


 紋章が刻まれている左手の素振りで皆を椅子へと座らせる。キッドが開口一番、疑問をぶつける。


「兄貴は自分の部屋、あるんじゃないんですか?」

「ああ、あるぜ」

「それじゃ、どうしてわざわざ部屋が準備されてるんですか?」


 んー、と悩ましい声を出しながらジークが答える。


「多分、今は聖騎士として接してるんだろうな」

「ま、自分の息子であっても聖騎士には礼節を持って迎えようってことね」

「そういうこと。狼族っていうのはそういうの大事にするからさ。まあ、オレもちょっと想定外だけど」


 はは、と苦笑いをジークがして見せる。


「いいお家だね」

「ああ、自慢の我が家だよ」


 アイリスが優しく微笑むとジークも柔らかく笑みを返す。少し戸惑っていたジークの表情が柔らかくなる。どうやらアイリスの言葉で落ち着けたようだ。


 しばらくすると屋敷の従者が部屋を訪れる。


「お待たせいたしました。族長が皆さまにお話があるそうです。どうぞ、ご案内致します」


「それじゃ、行くか」

「うん。そうだね」

「なんか……緊張しますね」

「今更でしょ。さ、行きましょ」

「ぴぃぴ」


 こうして一行は族長シグとの面会に臨むのだった。

数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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