第208話 聖騎士の帰郷
シルヴァナインからの道の途中、ウルフォードが目前に迫った深い森の中でアイリス達の前にジークの弟であるフリッドが姿を現したのだった。
「フリッド、こっちはオレの弟分のキッドだ」
「どうも、キッドですぅ。宜しくお願いしますね、兄貴の弟さん」
「……」
ジークの影からじっとキッドを睨むように見つめるフリッド。一方笑ってはいるが小さいの、と馬鹿にするような一言を吐かれたキッドも棘のある言葉を口にする。
「そんなことより」
そんな言葉をするりと流し、フリッドがジークに声を掛ける。キッドは更にむっとした表情を浮かべていた。
「兄さん、帰ってくるなら事前に手紙をくれれば良かったのに」
「いやぁ、色々忙しくてさ」
「ヴァルムさんから兄さんがヴィクトリオンにいることは聞いてたんだよ。てっきりティフィクスからウルフォードに帰ってくるって思ってたのにさ」
まさか帰るのに抵抗があった等とは言えないジークは苦笑いを浮かべている。フリッドは目をきらめかせながら久しぶりに会う兄に夢中で話しかけているようだった。
「むぅ……」
「キッド、鼻息荒いわよ」
「だって何かこう……もやもやしちゃって」
「仕方ないわよ、あっちは本当の弟なんだから」
「むぅ」
ディーナが気を使ってキッドの機嫌を取りながらアイリスに目で合図を送る。アイリスにも挨拶をする機会を作ってくれたのだろう。
「ジーク、良かったね弟さんに久しぶりに会えて」
「ぴぃぴ」
「あ、もしかして聖女様ですか……?」
「話には聞いてるだろ? 今代の聖女のアイリスだよ」
「こ、こんにちは。フリッドです」
先程のキッドに対しての態度とはうって変わり、少し緊張した素振りを見せる。そんなフリッドにアイリスは優しく微笑みながら挨拶を交わす。
「こんにちは。フリッドくん」
「ぴぃぴ」
「わぁ……本当に聖女様なんだね兄さん」
「ああ、そうだぜ」
更にフリッドが両耳と尻尾を揺らしながら、目を輝かせる。
「そうだ、こうしちゃいられないよね。早くみんなにも顔を見せてあげてよ兄さん。あ、聖女様もボクがご案内しますね……っ」
裏表がない素直な性格のようにアイリスには映った。
フリッドはジークの手を握りながら先行し、アイリスを案内し始める。その少し離れた後方には顔を膨らませるキッドとそれをなだめるディーナが続く。
「お兄さん大好きな弟なのね。あそこまでわかりやすいのはジークにそっくりだけど」
「ボクは何か、あんまり仲良く出来ない気がしますけどね」
「はぁ、こっちもジーク大好きな子だったわね」
案内しながらフリッドは沢山ジークに話しかけていた。しばらく歩いていくとウルフォードの関所が見えてきた。今までの領域と違い、深い森の中にひっそりと家屋が立ち並び自然と共にあるという印象を受ける。
関所につくと今までとは衛兵達の反応が違った。
「おい、ジーク様がお帰りだぞ!」
「本当かよ。みんなに知らせないとな!」
「おかえりなさい、ジーク様!」
「みんなお帰りをお待ちしていましたよ!」
衛兵達が一人、また一人とジークの周りに集まっていく。皆、尻尾を左右に振っている。
「聖女様もよくぞウルフォードへお越しくださいましたっ」
「あの、通行証の確認とかはしなくていいんですか?」
「ジーク様と共にあるのですから確認など必要ありませんよ! どうぞ、お通りくださいっ」
衛兵達は快く関所を通してくれた。
「なんかすごいですね」
「何だか今までで一番の歓迎ムードね。さすが魔族で初めて聖騎士が出た狼族なだけはありそう」
「うん、何かいつもと違った反応でびっくりしちゃった」
「ぴぃ」
街中に入ると更に多くのヒト達から歓迎とお祝いの言葉を受けることになった。
「みんな、わかったから少し落ち着いてくれよ」
「ほら、兄さんが困ってるじゃないか……!」
カセドケプルでも狼族からは特に歓迎されていたが、その数倍の反応が返ってくる。
皆、満面の笑みと尻尾を振って迎えてくれた。アイリスは存在を薄めるローブを被っているが、ジークの傍にいる女の子ということですぐ聖女だと気づかれる。
「ウルフォードではそのローブ脱いでもいいかもね。あまり意味があるとは思えないもの」
「そ、そうだね」
「ぴぃ」
しばらく狼族のヒト達の猛烈な歓迎を受けていたアイリス達だったが、そこにある人物が近づいてきた。それまでアイリス達を取り囲んでいたヒト達がその人物に気付くとすぐに道をあけて礼をする。
ジークも気づいて一言、言葉を漏らした。
「父さん……」
そう、その人物こそジークの父親にして狼族の長シグそのヒトであった。
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