第19話 はじめての宿屋
夕方になり辺りが暗くなり始めた頃、アイリスとジークは交流の街ともいわれるラグダートに辿り着いた。送ってくれた御者の男性にお礼を言いつつ、街への検問を越えた所で馬車を降ろしてもらう。
見習い聖女と見習い聖騎士のことや巡礼の旅のことは先日の王城でも聞いた通り、噂になっているだろう。
何よりも今の時期はどこの街や村でも聖女を称えるお祭りをしている。
悪目立ちはしたくない、というアイリスとジークの意見が一致していた。
「さて、それじゃ今夜泊まる宿屋を探しましょうか」
「そうだな」
そう言って二人は宿屋を探すことにした。
しかし何件か聞いてみたがお祭りの時期ということもあり、どこの宿屋も冒険者達が利用しているようで空いている所がなかった。
そんな時やっと一件の宿屋で部屋が用意できるということになった。
だが一つ問題が生じたのだ。
「ちょうど一部屋だけ空いてるんだけどねぇ。相部屋なんだよ」
「そうなんですか」
「ぴぃ」
「そこそこの年には見えるけど……あんた達、冒険者かい?」
気が強そうな宿屋の女将さんがアイリスとジークをじっと見つめてくる。
まさか噂の聖女と聖騎士が自分の宿に来るとは思っていないのだろう。
女将さん的には男女の子供達を同じ部屋にするという点を気遣ってくれていたのだろう。
ピィの存在には特に言及していない所をみると小鳥に見えているのだろう。
「オレ達は……」
「はい、二人で旅をしてる冒険者なんです!」
「お、おいっ」
「そうだったのかい。それじゃ相部屋でいいんだね?」
「はい、お願いします!」
冒険者として二人で旅をしている仲、という意味で承諾してくれたようだ。
料金を支払い、鍵をもらった二人は部屋に向かった。
部屋は結構な広さでふかふかなベッドが二つ並んでいた。
「よかったね、部屋が空いていて」
アイリスが荷物を備えられていた台に降ろして、服の汚れをはらいながらジークに声をかける。
当のジークは部屋の扉の前で棒立ちしていた。
「お、お前……本気かっ?!」
身体を震わせながらジークが大きな声を出す。
心なしか尻尾の毛が逆立っているようにも見える。
「本気かって、どうしたのジーク?」
「どうしたのってお前っ! なんで相部屋なんだよ!」
「何でって女将さんの話一緒に聞いてたよね? ここしか部屋がないって言ってたじゃない」
自分が言いたいことがアイリスには少しも伝わっていないようで、ジークはいらつきはじめる。
「そうじゃなくって! ふ、普通……お、男と女が一緒の部屋ってないだろ?!」
顔の周りの毛も逆立たせながら、話の核心に触れる。
最後の方の言葉は目線をやや下方向に逸らしながら、小さめな声で話していた。
「うーん……年少の男の子達とは一緒に寝てたんだけどなぁ」
アイリスは顎のあたりに人差し指をあてながら、首を傾げてみせる。
どうやら同じくらいの異性が近くにいなかったことで、普通の女の子と比べてアイリスはそのような点に疎いのだとジークは気づいたのだった。
「だから自分を大切にしろっていうか……お前は女なんだからもっと自覚しなきゃ駄目だろ!」
ジークは荷物をベッドに放り投げると、部屋に置いてあった木製の間仕切りをベッドの間に無言で置いた。
「もう少し自分の行動に慎みを持てよな!」
そう言ってジークは部屋の扉に手をかける。
相変わらず尻尾の毛は逆立っていた。
「ジーク、何処にいくの?」
「飯食ってくる!!」
バタン、と強めに扉を閉じるとジークは食堂に一人で行ってしまった。
残されたアイリスはジークの言ったことについて考えていた。
「そっか、ジークは私のこと女の子だって思っていてくれてたんだ……」
「ぴぃ……」
アイリスはベッドに腰かけ、着ていたローブの裾を軽く押さえながら小さく呟いたのだった。
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