第207話 再会
アイリス達は次の目的地である狼の庭ウルフォードを目指し、シルヴァナインの東側の山岳地帯から森林地帯へと南下を始めていた。
険しい山道が終わるとすぐに鬱蒼とした森林地帯に足を踏み入れることになった。
「みんな、こっちこっち。ここを通っていけばウルフォードへの道に合流するはずだぜ」
ジークが先行しながら森林地帯の奥へと皆を案内していく。両耳と尻尾が後ろからでも大きく動いているのがわかる。
「地図も見ないでよくもまあ、すいすい進めるわね」
「ここは兄貴の庭みたいなもんなんですよきっと」
「それもあるけど、ジークちょっとワクワクしてるみたい」
「ぴぃぴぃ」
そんなジークの様子を見て会話をしながら後を着いて深い茂みを進んでいくと大きく道が開ける。
「よし、ここまでくれば後はとりあえず真っすぐ進むだけだな」
「ジーク、案内ありがとう」
「ぴぃぴ」
突き出た鼻の先を何度か掻きながらジークが口を開く。
「お礼なんていいよ、アイリス。この森のことはよく知ってるからさ」
「ジーク、なんだかさっぱりしたみたい」
「そう?」
「うん。帰ることに抵抗はなくなったの?」
覗きこむようにアイリスが尋ねるとジークは木漏れ日の方に目を向けながら言葉を返す。
「んー……ここまで来たら嫌なんて言ってられないし、ウルフォードを離れてかなり経つから母さん達も心配してるだろうなって考えたら、さ」
「そうだね。私もそれが良いと思うな」
「それに……」
「?」
何かを言いかけたジークだったが、間にキッドが割って入ってきた。
「兄貴は『みつにゅうこく』ってやつをしたんですもんね!」
「アイリスに聖騎士に選ばれてなかったら人間族と魔族間の大事だったでしょうねぇ」
「あー……はは、そうですねぇ」
「二人とも、あんまりいじめないであげて。ジークも反省してるんだから」
「アイリスは甘いわねぇ。まあ、これから族長でもあるお父さんにこってりと絞られるんだろうから見物よね」
キッド以上にディーナが痛いところを突く。もはや苦笑いで流すしかないジークを見て、アイリスがくすっと笑ってみせる。
「兄貴、あとどのくらいで着くんですかぁ?」
「そうだなぁ、そろそろ入り口が見えてくると思うぜ」
「ボク、お腹空いちゃいましたよ」
「着いたら美味しいもの沢山食べさせてやるから我慢しろよ」
「絶対ですよぉ?」
期待の眼差しをキッドがジークに向けながら話していた。その時、森の上部が大きく揺れた。
「ぴぃ」
「魔物かなっ?」
「みんな、警戒して!」
「了解です!」
アイリス、キッド、ディーナが戦う態勢に入ると、ジークが皆の前に立って大丈夫と言わんばかりの素振りを見せる。
「ジーク?」
「ぴぃぴ?」
「大丈夫、魔物じゃない」
静かに呟くと同時に上から影が降りてきた。
「やあああ!!!」
「よっと」
ジークが軽やかに一歩後ろに下がる。すると見当が外れたような声が上がる。
「あれ? あれれ?」
木製の剣が先ほどまでジークが立っていた場所にコツンと音を立てながら振り下ろされる。拍子抜けたように身体のバランスを崩したその影が地面に転ぶ。
「痛っ」
その様子を見ていたアイリス達から戦意がなくなったのは言うまでもない。あまりにも見事な一連の動作を見て逆に冷静になっていたのだ。
「仕掛ける時はいつも気配を消せって言ってるだろ、フリッド」
口元を緩ませながらジークがその影に向かって声を掛ける。
「はは……やっぱりバレちゃったかぁ」
「バレバレだよ」
影が立ち上がるとちょうど木漏れ日が当たって容姿が判明する。ジークと同じ毛色と瞳をした狼族の少年だった。
「おかえり、兄さん!」
「ああ、ただいま」
とびきりの笑顔で少年がジークの元に近づいてくる。見ると少年の尻尾が嬉しさで大きく左右に揺れていた。
「ジーク、この子ってもしかして……」
「ぴぃ」
「ああ、オレの弟のフリッドだよ」
「……っ」
ジークが紹介すると彼の影に隠れるようにしながらこちらを覗き込んでくる。
「ああ、ごめんなみんな。コイツ人見知りがちょっとあるからさ」
「へえ、この子が兄貴の弟さんなんですねぇ。そっくりじゃないですか!」
キッドの言葉が気になったのか、フリッドの両耳がピクっと動く。
「兄貴? ……兄さん、この小さいの誰?」
「小さい?! そっちだってボクとあんまり変わらないじゃないですか!」
険しい表情でフリッドがキッドを睨みながら呟くのだった。
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