第205話 救われた心
目を覚まし、失っていた試練の記憶を思い出したエスメラルダに呼ばれたアイリス達。そこで彼女から試練は既に突破していたことを告げられるのだった。
その理由を彼女は『私の心を救って頂いたから』と柔らかく微笑みながら口にした。
「エスメラルダ様……」
アイリスがそっと呟くと静かに頷いたエスメラルダが口を開いた。
「聖女様が我が従者であるオニキスの『想い』を乗せた矢を放った時、私の中にその『想い』が届いたのでしょうね。……目を覚ますと私の心はその『想い』で満たされていました。そして気づけたのです。私自身の抱いていた『想い』にも」
彼女は刹那目を閉じて自分の胸に手を当てる。横に立っているオニキスは少し顔を赤めながら目を逸らしていた。
「……つまり、どういうことですかね。もがっ」
「子供は黙って聞いていればいいの」
ディーナに口を押さえられてキッドが黙って聞く仕草をする。
「お恥ずかしい話ですが、私とオニキスは歳も相応に離れております。小さい頃の彼もよく知っています。彼は小さい頃から大きくなったら私の元で仕えたいといつも言っていました。その通り、彼は父親の後を継ぎ私の従者になりました」
昔を懐かしむような表情でエスメラルダが話を続ける。
「その頃の私は兄の代わりに族長に任命されたことで毎日が多忙でした。若輩の女性が族長などと、と影で罵られていることもありました。ですが、オニキスはその時からずっと親身になって力を貸してくれていました。私も自然と彼に惹かれていたのでしょうね……ですが、その『想い』に気付かぬふりをずっとしてきたのです」
アイリスは黙って彼女の言葉に耳を傾けていた。
「ぴぃぴ」
「今回の事件で私は改めて、従者である皆の……そしてオニキスの大切さを考えさせられたのです。そして彼の想いにもやっと正面から向き合う『勇気』を聖女様から頂いたのです」
「向き合う……『勇気』」
「はい。その通りです」
そっと呟くようにアイリスの口から言葉が漏れる。エスメラルダは微笑みながらそれを肯定した。
「先ほどもお話しましたが、悪魔族の試練で今代の聖女に課される命題は『癒し』とは何か。それは傷を癒すという意味ではなく真の意味は『ヒトの心を救う』ということです」
ジークも自然とエスメラルダの話に相槌を打っていた。
「ヒトは誰しもが秘めた想いや悩みを持って生きています。そしてそれと向き合うことを恐れているものなのです。それがヒトという存在だからです。ですが、誰かがその秘めた想いや悩みと向き合う『勇気』を与えることでヒトの心は救いを得るものなのです」
キッドの口を押さえたまま、ディーナもまた静かに頷いていた。
「本来なら命題にあった秘めた想いを持つ者を私が聖女様に合わせることで、試練の答えを考えてもらい提示してもらう予定でしたが……もはやその必要はなくなったということです」
「エスメラルダ様」
「今代の聖女、アイリス様。闇と化した私を元に戻して頂いたこと、そして私が長い時の中で抱いていたオニキスへの想いに向き合うための光、『勇気』を与えてくださったこと。このエスメラルダは永久に忘れません」
そう言って、台座にはめ込まれていた紫色の宝石をアイリスに手渡すのだった。
「これは……」
「これが悪魔族の試練を越えた証、『魔の翼』です。どうぞお受け取り下さい」
「ありがとうございます、エスメラルダ様」
「ぴぃぴ」
アイリスは導きの証を取り出し、型にあった場所に証である宝石をはめ込んだ。
「やりましたね、お嬢!」
ディーナの手を振り払いながらキッドが笑顔で声を上げる。
「私、まだ実感がないっていうか……」
「そういうのは後で考えればいいのよ。おめでとう、アイリス」
「そうかな? うん、ありがとう」
後ろからジークが近づいてきて声を掛ける。
「やったな。アイリス」
「ありがとう、ジーク」
「今回はその何ていうか……全部丸く収まって良かったな」
「う、うん。そうだね」
二人の間に急に言葉にしづらい、ぎこちない空気が流れていた。空気を読んでくれたのかオニキスが言葉を掛ける。
「皆さん、本当にご助力ありがとうございました。従者を代表して改めてお礼を申し上げます」
「私からも改めてお礼を申し上げます」
オニキスの横に寄りそうようにしながらエスメラルダも言葉を紡ぐ。それに対してアイリス達も言葉を返す。
「私達はやれることをしただけですから。ね、ジーク」
「ああ、そうだな」
そう言って二人は微笑み合う。先ほどのぎこちない空気はどこかへ去っていた。この後、エスメラルダの快気祝いを兼ねて豪華なパーティが執り行われることになったのだった。
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