第204話 悪魔族の試練
オニキスの願いを聞く形でアイリス達はエスメラルダが目を覚ますまで邸宅に逗留することになった。それぞれ次の旅の支度や予定を立てながら過ごしていた時、エスメラルダが意識を取り戻したという一報を受ける。
逗留を決めてから二日後の朝のことであった。
「よかったな、族長さん。目を覚まして」
「うん。昨日も様子を見にいっていたんだけど、その時もまだ眠ったままだったから本当に良かった」
「ぴぃぴぃ」
従者の一人から一報を受けたアイリス達はエスメラルダの自室への廊下を進みながら会話をしていた。
「よっぽど疲れてたんですねぇ」
「まあ、仕方ないわよね」
エスメラルダの自室の前に着くとオニキスが扉の前でアイリス達が来るのを待ってくれていた。一礼して口を開く。
「お待ちしておりました。それではご案内致します」
「宜しくお願いします、オニキスさん」
「では参りましょう」
そう言って扉がゆっくりと開かれる。中に入ると久方ぶりに起きた状態のエスメラルダの姿があった。顔色もよく、腰かけていた椅子から立ち上がりアイリス達を迎え入れてくれた。
「聖女様、聖騎士様、そして皆さんには大変ご迷惑をおかけしてしまいました。申し訳ありません」
謝罪の言葉を述べたエスメラルダは深く礼をする。
「気にしないでください。それよりもお元気な姿を見れて良かったです」
「ぴぃぴ」
「皆さま、どうぞ椅子におかけください。私も同席させて頂きます」
オニキスの言葉に従い、用意された椅子にアイリス達が腰掛ける。皆が着席したのを確認したエスメラルダも再び椅子に腰を下ろす。
「これまでの出来事はオニキスから全て聞かせて頂きました。まさか私自身が大蛇に姿を変えていたなんて……」
「自分で気がつけるわけないですよ、族長さん」
「そうですよ! 全部、厄災の使徒のせいなんですから!」
「キッドの言う通り。操られてたんだからこれ以上謝る必要もないわ」
「お言葉、痛み入ります」
「ジーク達の言う通りです。私達も族長さんを助けられて良かったと思ってますから。ね、ピィちゃん」
「ぴぃぴぃ!」
アイリス達の言葉を受けて、エスメラルダが再び深く礼をする。頃合いを見て、オニキスが口を開いた。
「エスメラルダ様、聖女様達もこう言っておいでですので本題に入っても宜しいかと」
「そうね。ありがとう、オニキス」
彼女は柔らかい笑顔でオニキスに微笑む。アイリスには二人の雰囲気が以前と変わっているように見えた。
「恐らく一連の事件の影響だったのでしょう。以前は忘却してしまっていた記憶を取り戻したのです」
「ってことはいよいよ試練っていうことですか!?」
「キッド、落ち着いて話を聞けよな」
「あ、ごめんなさい。つい嬉しくて」
ふふ、とエスメラルダが口元に手を当てながら微笑む。
「キッドさんの仰る通り、先代の聖女様から与えられ族長に伝えられてきた『試練』のお話をさせて頂きたいと思っています」
エスメラルダは立ち上がると自室の奥にある大きな本棚の前に移動する。その本棚の一冊を軽く手前に傾けると振動と共に、隠し部屋への扉が現れたのだ。
「どうぞ、ご案内致しますね」
彼女に案内されてその扉の先にアイリス達が進んでいくと、中央に台座がある空間が広がる。
「ここは……?」
「ぴぃ?」
ゆっくりと中央の台座にエスメラルダが近づく。
「ここが試練を越えた今代の聖女様をご案内する場所になります」
「え? 試練を越えた?」
「まだ試練やってませんよね?!」
ジークとキッドが同じタイミングで声を上げる。
「驚かせてしまい、申し訳ありません。族長である私が判断し、ご案内させて頂きました。先ほど説明しました通り、今代の聖女アイリス様。貴方様は『悪魔族の試練』を見事達成しておいでなのです」
「エスメラルダ様、どういうことですか?」
「ぴぃ?」
アイリスも驚いた様子で口を開いた。彼女は説明を続ける。
「元々、『悪魔族の試練』とは『癒し』について聖女様にお考え頂くものでした」
「癒しってお嬢は聖女様なんですから傷を癒したりなんて簡単じゃないですか?」
静かにエスメラルダが首を横に振る。
「試練の命題として与えられた『癒し』とは単に傷を癒すという意味ではありません。その真意は『ヒトの心を救う』というものだったのです」
「……えっと……?」
キッドが目を丸くして思考停止する。その顔を押しのけてディーナが口を開く。
「なるほどね」
「ディーナ、お前わかったのかよ?」
「ええ」
「それって……」
ジークと共にディーナの方に目を向けたアイリスもエスメラルダの言葉の意味を理解したようだ。
「聖女様には私の心を救って頂いたのです」
柔らかくエスメラルダが微笑みながら語るのだった。
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