第203話 報告のち散策
戦いが深夜から朝方にかけてだったため邸宅に戻ったアイリス達は正午近くまで自室で休息を取っていた。その後、オニキスが皆の部屋を訪ねる。
作戦会議で使っていた部屋に集められたアイリス達はある報告を受けるのだった。
「まだお疲れの時に皆さんを集めて申し訳ありません」
「いえ、休んだら身体も楽になったので大丈夫です」
「ぴぃぴぃ」
「そだな」
「ふぁ~まだボク眠いですぅ」
「しゃんとしなさいよ」
キッドの気の抜けた仕草を見て笑いが起こる。オニキスも気が楽になったようで話を続ける。
「今回の事態をカセドケプルにいるベリル様に文書でお伝えしました。その返事が来たので皆さんにもご説明しておこうと思いお集まり頂きました」
「はい、お願いします」
「ベリル様も今回の事態にはひどく驚いているようでした。妹であるエスメラルダ様のことは心配だということですが、悪魔族の六使としての責務と事態の説明を果たすためにしばらくカセドケプルに留まらなければならないそうです」
皆、その話を聞いて納得したように頷いてみせる。
「まあ、当然よね」
「状況が状況ですもんね」
「そして意識が戻り次第、エスメラルダ様には族長の席に戻ってもらいたいとのことでした。試練のことも一任したいと」
椅子の背もたれに寄りかかるようにしながらジークが口を開く。
「まあ、今回の事件のこともあるし六使と族長代理のどっちも続けるのは無理があるよな」
「そうだね。厄災の使徒も事件に絡んでたから」
「ぴぃ」
「以上がベリル様からの伝言になります。私としましてはエスメラルダ様がお目覚めになるまでは聖女様達にはこの邸宅に逗留して頂きたいと思っております」
「わかりました。みんなもそれでいい?」
アイリスが皆に尋ねる。
「オレはいいぜ」
「ボクも大丈夫です」
「あたしもいいわ。族長さんが起きないまま此処を離れるのも気がひけるものね」
「ありがとうございます。では昼食の準備も出来ている頃だと思いますので話はここまでにしてご案内致しますね」
こうしてベリルからの報告を済ませたオニキスの案内で一行は昼食をとることになる。その後は各自、自由に時間を過ごすということでまとまった。
昼食の会場から先にキッドとディーナが廊下へと姿を現した。
「アイリス達は?」
「オニキスさんとお話があるって別の部屋に行きましたよ」
「あら、そうなの」
「何か用事でしたか?」
首を傾げながらキッドが尋ねる。覗き込むその顔を見つめながら少し考えた後、ディーナが口を開いた。
「本当はアイリスを誘って街に繰り出そうとしてたけど、あなたで我慢するわ」
「え、ボクこのあとはゆっくり昼寝しようって決めてるんですけど」
「はいはい、行くわよキッド」
「え、あ~」
こうしてディーナは半ば強引にキッドを邸宅から連れ出し街に繰り出したのだ。それから色々なお店を周る。
「ディーナ、これで10軒目ですよぉ。そろそろ休みましょうよ~」
「もう、仕方ないわねぇ」
久しぶりに息抜きをしたディーナの機嫌は良いようで、近くの公園で一旦休むことにした。
「はぁ……疲れました」
「お疲れ様。はい、お水」
「ありがとうございます」
事件が落ち着いたことで噂が広がったのか、街中には活気が出始めているように感じられた。
「何だか街が明るくなったみたいですね」
「大方冒険者ギルドの方から今回の事件の話が街に流れたんでしょうね。そうして自然に事態を鎮静化させようってことでしょ」
「はぁ、なるほど」
ヒトの流れを見つめながら会話をする二人。
「そういえば、ボク達二人で出かけるって初めてですよね?」
「確かに、言われてみればそうかもね」
「たまにはいいかもしれませんね」
「そうね。あなたは小さい割に力持ちだし、荷物持ちには丁度いいかもね」
「あはは、それがボクの取柄ですからね」
無邪気な表情で笑うキッドを見つめながらディーナが呟く。
「んー……ないわね。明らかに子供っぽすぎるし」
「何がですか?」
「あなたがあたしに釣り合うかってことよ」
「?」
「……ヒトのことには敏感な癖に自分のことになると疎いのね、あなた」
「えへへ、褒めてます?」
「褒めてないわよ」
再び無邪気な笑顔でこちらを向くキッドを見て、ディーナが呟く。
「元の顔はいいのよね……数年経てば化けるかしら? いや、やっぱりないわね」
「何の話ですか?」
「大人になったらキッドは格好良くなるのかって話よ」
「そりゃ、大人になったらボクはかっこよくなるに決まってますよ。その時はディーナをお嫁さんにしてもいいですよ」
無邪気な笑顔から冗談にしか聞こえない言葉が発せられる。
「はっ? 何よそれ。なんでキッドが偉そうなのよ。ちょっと気に障るわね」
「え~だってディーナって自分勝手じゃないですかぁ。お嫁さんに貰ってくれるヒトがいるとは思えませんからね」
「はぁ、そんなのこっちからお断りするわ。まあ、あなたが王様とかになったなら考えてあげなくもないけど」
「え、本当ですか?」
尻尾を元気に立てながらこちらを覗き込んでくるキッドに珍しくディーナが押されているように見えた。
「もしもの話よ。本気にしないでよねっ」
そっぽを向きながらディーナが声を上げる。
「そっかぁ、王様かぁ。いいですね」
「まったくそんな夢見てないで、そろそろ次のお店行くわよ」
「え~……まだ周るんですか」
「当たり前でしょ。せっかくの自由な時間なんだから」
「わかりましたよ。でも夕飯までには返してくださいね」
「よろしい。じゃ、行きましょ」
そんな冗談めいた話が面白かったのか、ディーナの口元が少し緩くなっていた。キッドはそんなことには気づかずに先を歩く彼女に歩幅を合わせて駆けていくのだった。
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