第202話 芽生え始めるモノ
アイリス達の活躍でニーズヘッグと化したエスメラルダは元の姿を取り戻すことが出来た。オニキスと共にエスメラルダの邸宅に戻ったアイリス達は今後の話をすることに。
時間は一夜あけて朝方を迎えていた。
エスメラルダの部屋からオニキスとアイリス、そして邸宅で従事している医師が出てきた。ジーク達は外で出てくるのを待っていた。医師は皆に礼をすると先に医務室に帰っていく。
「アイリス、族長さんの様子どうだった?」
「一応また治癒をしたんだけど……。やっぱり体力と魔力の消耗が激しくて数日は眠ったままなんじゃないかって」
「そっか……まあ、仕方ないよな」
ジークとアイリスが話しているとオニキスが口を開く。
「医師によれば消耗以外、異常は見られないとのことでした。これも全て聖女様、聖騎士様達のおかげです」
「いやぁ、そう言われると頑張った甲斐がありますよね」
「そうね。とりあえずは族長さんが目を覚ますのを待ちましょ。試練の記憶も思い出すかもしれないしね」
キッド、ディーナもオニキスの言葉に反応する。
「みなさん、今日はゆっくりとお身体を休めてください。今晩にはベリル様もカセドケプルからお戻りになると思いますので」
「オニキスさん、大丈夫ですか?」
「ぴぃぴ」
「聖女様、心配して頂いてありがとうございます。大丈夫です。ベリル様には私から事の詳細を説明するつもりです」
「ベリルさんならちゃんと話、聞いてくれますよきっと」
ジークもオニキスが何か罰を受けるのを心配しているようで気を利かせて言葉を掛ける。
「聖女様達には後ほど、ご報告いたしますね」
「わかりました。宜しくお願いします」
その後、朝食をとりアイリス達は自室へと戻り一旦解散して戦いの疲れをとることになった。
「むにゃむにゃ……もう食べれませんよぉ」
キッドは朝食をおかわりする程食べた後、ベッドに入ると爆睡。結局その後昼食の時間までまったく起きなかった。
「……やっぱりオニキスさん、族長さんのこと好きだったんだな」
ベッドに横になり、ジークは天井をずっと見つめながら小さく呟く。どうやら彼にはオニキスの秘めた気持ちが何となく理解出来ていたのだろう。
「それに比べてオレは……くそっ」
色々な考えが浮かんでは消えてを繰り返していたジークだったが、結局寝返りを数回した後に眠りに落ちていく。
男性陣は二人とも寝静まっていた頃、女性陣はというとアイリスはディーナの部屋を訪れていた。ピィは自室で眠っていたので起こさずに来たという話だった。
「アイリスも疲れてるなら休めばいいのに」
「うん……でもなかなか眠れなくって」
対面した椅子に座りながらアイリスが手元をもじもじといじりながら呟く。
「……何か悩み事?」
「えっ……いや……えっと……」
「顔に書いてあるわよ」
「え、本当?」
「ふふ、冗談よ」
心当たりがあるのだと言っているような反応をしてみせるアイリスを見てディーナの口元が緩む。彼女の反応を見ても怒ることなく、もじもじとしている所を見ると結構な悩みなのだろう。
「何かあるなら言ってみたら? もちろん二人だけの秘密にしてあげるから、ね?」
「……うん」
アイリスは静かに話始めた。
「あの矢を撃った時、オニキスさんの想いが私の中にも溢れてきたの……その、何て言うのかな……エスメラルダさんを想う気持ちっていうのかな」
「うんうん。それで?」
「すごいなって……思ったの。誰かを想う気持ちってこんなにも強いんだなって」
アイリスが部屋を訪ねてきた時に淹れた紅茶にディーナが話を聞きながら口をつける。
「そうね。特にオニキスさんの想いはさぞ強かったでしょうね」
「ディーナにはわかるの?」
「少しはね」
「私はあんなすごい想い、初めて感じたからびっくりしちゃったかな」
紅茶のカップを置きながらディーナが微笑んでみせる。
「本当に?」
「え?」
「本当に今まで一度も感じたことなかった?」
尋ねられたアイリスは自分の胸に手を当てながら考えるが本当に心当たりがないようだ。
「……うん、ないと思う。でも何でそんなこと聞くの?」
「ふふ、ごめんね。ちょっとアイリスには早かったかもね」
「?」
カマをかけたつもりだったが、まだアイリスには自覚はないことがわかったのでディーナはすぐに話を切り上げた。
「少しはすっきりした?」
「あ……うん、何だか軽くなったかも」
「それじゃ、あなたも少しは休みなさいよ」
「うん、そうするね。ありがとう、話聞いてくれて」
「どういたしまして」
そう言ってアイリスはディーナの部屋を後にする。
「やれやれ……アイリスもジークも大変ね。でも初々しくていいじゃない。お姉さんとしては見守ってあげなきゃね。さて、あたしも少し休もうかしら」
そして部屋に戻ったアイリスもベッドに入る。ふとディーナの言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
『本当に今まで一度も感じたことなかった?』
「……」
実はディーナのその言葉を聞いた時、刹那誰かの笑った顔が浮かんだ気がしていた。いつも傍にいる誰かのはずだがおぼろげではっきりと見えてこない。
「誰だったんだろ……あれ……」
思い返しながらゆっくりとアイリスは眠りに落ちていくのだった。
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