第200話 宿りし想い
エスメラルダであるニーズヘッグに攻撃を仕掛けられないアイリス達は一縷の打開策として厄災の使徒に攻撃を集中する作戦に出る。しかし、ニーズヘッグが立ちはだかりそれを阻止する。
体制を崩したアイリス達にニーズヘッグが襲い掛かろうとしたとき、オニキスが必死にエスメラルダの名を呼ぶとニーズヘッグの動きが止まり、激しく苦しみ出すのだった。
「まだヒトだった頃の意識が残っていたか……まあ、今更だがな」
「フシャアア!!」
ニーズヘッグは暴れ出し、地面や岩場に身体をぶつけ始める。
「みんな、私に考えがあるの……上手く出来るかはわからないけど」
「ぴぃぴ」
自信なさげにアイリスが声を上げる。そんな彼女に仲間たちは優しく言葉を返す。
「何か思いついたんだろ? ならやってみようぜ!」
「お嬢のこと、信じてますから防御は任せてください!」
「何をすればいい?」
「ありがとう。ジークとキッドはニーズヘッグと厄災の使徒の相手をお願い。ディーナは少し手伝って欲しいことがあるの。そして、オニキスさんもお手伝いお願いします」
「私ですか……?」
「はい。貴方じゃなきゃ駄目なんです」
皆がアイリスの周りに集まって作戦の内容を確認し、それぞれの配置につく。
「アイリスらしいよな。それじゃキッド、気合いれるか!」
「はい、お供します兄貴!!」
そう言うとジークの身体が冷気に包まれていく。『祝福』の力を発現させたのだ。キッドも『心眼』状態へと移行する。
「今更お前達にこの状況を打開する方法などないだろうに。無駄なあがきだな」
「無駄なあがきかどうか、見てなさいよ!」
厄災の使徒の言葉に言い返すディーナの周りに精霊達が集まっていく。その後ろにはアイリスとオニキスが並ぶ。
「行くぞ!」
「はい!」
その合図でニーズヘッグと厄災の使徒目掛けてジークとキッドが駆け出す。暴走状態のニーズヘッグが二人に反応して長い尻尾部分で薙ぎ払おうとする。
「兄貴!」
「こっちは任せろ!」
ガキィィィィン!!!
冷気を纏った聖剣マーナガルムの側面でニーズヘッグの薙ぎ払いをジークが受け止める。数メートル後方に押し出されるが何とか防ぎきる。
「何をしようとしているか知らないが、念には念を入れておくか……!」
更に後方に立っている厄災の使徒が何かの準備をしているアイリス達に向けて漆黒の波動を放つ。
「その攻撃はボクが通しません!!」
キッドが素早く厄災の使徒とアイリス達の斜線上に入って大盾ヴァリアントを構える。ディーナから数体の精霊達がキッドの周りに集まっていた。
「『エレメントシールド』!!」
ギィィィィン!!!
四属性の精霊の力を付与したヴァリアントが光輝き、闇の波動を防ぐ。
「ありがとう、キッドっ。ピィちゃん、私達もいこう!」
「ぴぃ!」
アイリスの言葉に続いてピィが甲高く鳴き声を上げる。聖獣の声が大空洞に響き渡り、光に包まれる。花の首飾りが蕾から花の形に変化し、右手の紋章が輝きを放つ。
「『精霊の呼び声』か……だが、今回は合成魔獣でも精霊魔獣でもない。元は生身のヒトだぞ? いかに光魔法であってもその巨大な力にヒトの身は耐えられまい」
厄災の使徒の言葉がアイリスの耳に届く。支援しているジーク達もアイリスの方に目を向けている。彼女はただ静かに瞳を閉じてかつてのオニキスの言葉を思い浮かべる。
『ずっと私はエスメラルダ様をお慕いしていたのです』
そっと瞳を開ける。自然に言葉が紡がれる。
「私はまだ『それ』がよくわからない。でも、誰かが誰かを大切だって想う気持ちはわかる……!」
胸の奥がほのかに熱を持ち始めたアイリスがオニキスに声を掛ける。
「聖女様……」
「オニキスさん、貴方の本当の気持ちをエスメラルダさんに伝えてくれますか? その想い、私が……いえ、私達が必ず届けます!」
優しく微笑むアイリスの表情を見て思わずオニキスが涙ぐむ。そして静かに頷き、一歩前に出る。
「エスメラルダ様……私は貴方を……貴方を愛しています! どうか元の貴方に戻ってください!!」
オニキスの身体から光が放たれアイリスの持つ弓と矢に宿る。
大空洞の戦いの結末はこの一矢に託されたのだった。
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