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第198話 駆け引き

 大空洞での戦いの幕が上がる。序盤、厄災の使徒が放ってきた刻印の魔物達の迎撃に成功するアイリス達だったが厄災の使徒は余裕の笑みを浮かべていたのだった。


「少しはやるようになったようだな」


 自らが召喚した刻印の魔物の大半を倒されても、その声には焦りの色は一切見られない。


「こっちはカセドケプルの時からずっとずーっと強くなってるんですからね!」

「キッドじゃないけど、負ける気はしてないぜオレ達」

「あら、奇遇ね。あたしも同じこと言おうとしてたわ」


 キッドに続いてジーク、ディーナも面と向かって声を上げる。


「ふふ、ならば次の一手と行こうではないか。いけ、ニーズヘッグ」

「フシュルルル!」


 厄災の使徒の声に呼応するようにエスメラルダが姿を変えた銀色の大蛇がアイリス達の前に立ちはだかり威嚇をしてくる。


「エスメラルダ様……!」


 岩場の影に隠れているオニキスが思わず飛び出そうとするが、アイリスが静かに声を掛ける。


「大丈夫です、オニキスさん。私達で何とかしますから隠れていてください」

「聖女様……。宜しくお願いします……っ」


 身を切り裂かれるような表情を浮かべつつもオニキスはアイリスの言葉に従い、身を隠す。それを確認したアイリスはニーズヘッグと対峙している皆の所に駆けていく。


「わかってたけど、お出ましだな」

「そうですねぇ……」

「そうね」

「みんな、来るよ!」

「ぴぃ!」


「シャアアア!!!」


 アイリスが皆に合流するタイミングで威嚇していたニーズヘッグが咆哮を上げる。すると身体から濃い霧が噴き出し、辺りを覆っていく。程なくして完全に大空洞は霧に包まれた。


「さて、どうするか見物だな」


 霧の奥から厄災の使徒の声が聞こえてくる。


「キッド、頼むぜ!」

「はい、兄貴!」


 ジークの掛け声に合わせてキッドが前に出る。瞳を閉じ、再び開け『心眼』を発現させる。光が宿った瞳で一面の霧の空間を見つめながら大盾と剣を構える。


―!―


「右から来ます!」

「任せていいか!?」

「はい! もちろんです!」


 相手の音は聞こえないが、『心眼』により、ニーズヘッグの微動を感じたキッドが叫んだ方向に大盾を構える。


ガキィィィン!!!


 霧の中から尻尾と思われる一撃が放たれる。それを先読みしたかのように大盾が見事に防ぎきる。


「やったね、キッド!」

「流石だぜ!」

「ほんと、これはすごいわよね」

「いやぁ、照れちゃいますぅ」


―!―


「もういっちょ! そこです!!」


 刹那褒められて気が緩んだかに見えたキッドだが、近くにいる皆を守るように二撃目にも反応してみせる。


「なんか前戦った時より速いですね……これじゃボクが気づいても兄貴達に伝える前に次が来ちゃいます……っ」


「ふふ、反応できるのは荷物持ちの小僧一人だけ。いつまで持つかな?」


「だったら……! ディーナ、お願い!」

「ぴぃぴ!」


 厄災の使徒の言葉に反応することなく、アイリスが近くにいるディーナの名前を呼ぶ。


「任せて。アイツの鼻を明かしてやるわ! 霧のタネさえわかれば何てことはないんだから!!」


 ディーナが一歩踏み出すと、精霊達が彼女の身体の周りに集まっていく。


「『精霊達よ、詠む声に耳を傾けたまへ。放つ力に力を与えたまへ』」


 『詩』の後に続いて詠唱を始める。ディーナの周りを漂う精霊達が光輝く。


「風よ、立ち昇れ! 『ディープサイクロン』!!」


 詠唱者であるディーナを中心に緑色の風が立ち昇っていく。その風は大きな竜巻となって周囲の霧を巻き込んでいく。


「詩姫の『詩』の力か……少々厄介のようだな」

「厄介どころじゃないところ、みせてあげるわ!」


 掛け声と共に、緑色の竜巻が勢いを増す。精霊達の力で通常よりも発現した魔法の威力が増しているのだ。


 竜巻は大空洞に立ち込めた霧を全てかき消し、アイリス達が通ってきた大穴から外に抜けていく。霧がなくなったことでニーズヘッグが姿を現す。


「やったね、ディーナ!」

「ぴぃ!」

「これくらい楽勝よ」


 軽くアイリスとディーナが手のひらを合わせる。


「魔法と詩はディーナの十八番だな」

「流石、詩姫ですね!」


 流れは完全にアイリス達に傾いているようにオニキスには見えた。だが、不敵な笑い声が空間に木霊する。


「この状況を打開してみせるか……だが、『決め手』には遠いようだな」


「……!」


 厄災の使徒の一言でアイリスの表情が曇り出す。


「霧まで払ってみせたことは誉めてやろう……だが、荷物持ちの小僧はニーズヘッグの攻撃を見切れていたはずだ。なら……()()()()()()()()()()()のだ?」


「ぅ……」


「ふふ……攻撃しなかったのではないな。攻撃できなかったのだろう? 何故ならニーズヘッグの元はエスメラルダなのだからな」


 厄災の使徒の言っていることは事実だ。大蛇に姿を変えたエスメラルダを救う方法までは考え付いていなかったのだ。


 有利な流れを作り出していたアイリス達に暗雲が立ち込めていく。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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