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第18話 アルケー街道

 アイリスとジークは目的地である聖女はじまりの町ビナールへ向かうために『アルケー街道』を進んでいた。


「なあ、そろそろ飯にしないかぁ?」

「ジークってば、さっきパンをつまみ食いしたばかりじゃない」

「あ、ばれてた?」

「ばればれ」

「ぴぃぴぃ」


 二人は出会ってから数日間を共にしていたこともあって、それなりの友好関係は築けているようだった。


「このアルケー街道を進んでいけば、ラグダートの街につくわ。そこから北に向かえば目的地のビナールに行けるみたい」


 アイリスは地図を見ながらジークに説明する。

 ジークは両手を頭の後ろに回しながらあくびをしていた。


「スペルビア王国も結構広いんだな」


「私も遠出するのは今回が初めてなの。でも、フライハイトに負けないくらい広いって本で読んだことはあるわ」


なるほどな、とジークは相槌を打つ。


「ジークだって、カセドケプルの検問を抜けて王都まで来たんでしょ? 多分ラグダートの街も通ってるはずだけど」


「まあ、オレ荷物の中に隠れてたから景色とか見てないし」


「威張れることじゃないでしょ」



 力が抜けたような声で話すジークを見て、面白そうにアイリスが笑う。


「ぴぃ!」


「どうしたのピィちゃん?」


 アイリスの肩に乗っていたピィが何かに反応する。

 その時どこからか大きな音が聞こえた気がした。


「だ、誰か助けてくれっ!!」


 すると街道の向こうから暴れる馬の声と共に、助けを求める男性の声が聞こえてきた。

 二人は急いで向かうと、荷馬車が止まっていた。その周りを三匹のハウンドウルフが取り囲んでいた。


 よく見ると、荷馬車の影に右腕を怪我をしている御者(ぎょしゃ)の男性の姿が見えた。

 恐らくハウンドウルフに襲われて噛まれたのだろう。


 ハウンドウルフとは狼の姿をした魔物で、よく複数で狩りをしたり家畜に害をなすことで有名である。


「ジーク、私は怪我してる人を治療するから魔物を引き離してくれる?!」


 アイリスが荷馬車の影に寄りかかって噛まれた腕を押さえている男性にかけよりながら、ジークに声をかける。


「わかった、まかせとけ!」


 腰に携えた剣を抜き、やや水平に構えながらジークがハウンドウルフに向けて走っていく。相手もジークを捉えたようで三匹が集まってきた。


「うぅ……っ」

「今治しますからね。治癒(ヒール)っ!」

「ぴぃぴぃ」


 ジークがハウンドウルフを引きつけている間にアイリスは男性の傷口に手をあて、治癒の力を使って傷口を癒した。


「これで大丈夫ですよ」

「あ、あんたはもしかして聖女様かい?」

「はい、そうです」

「おお、それは助かった」


「少しの間、ここで待っていてくださいね!」

「あ、ああ」


 アイリスは傷が癒えた男性に声をかけた後、ジークの元に向かう。

 今まさに、ジークと三匹のハウンドウルフの戦闘が始まる所だった。


「さあ、こい!」


 先頭を走る一匹が鋭い牙をむき出しにしてジークに向けて襲い掛かる。

 ジークは身を翻しながら避けると同時に剣戟を叩き込む。まず一匹が地面に沈む。


 続けて二匹が左右から襲い掛かる。


「よっと!」


 右からきたハウンドウルフの爪の攻撃を剣で防御しつつ、左から突進してきた方の頭に向けて蹴りを放ち数メートル吹っ飛ばした。


 すかさず剣で防御していた方のハウンドウルフを押し返し、よろけているすきに振り上げた剣で一蹴した。


「これで止め!」


 最後に蹴りで飛ばした三匹目が起きる前に近づき、止めに喉元に剣を突き刺す。

 三匹のハウンドウルフは黒い瘴気になって消え失せ、魔石だけが残った。


 魔石とは魔物を構成する核であり、倒した魔物の強さなどにより純度や大きさが変わる。本来は討伐した証として冒険者ギルドに持ち込み査定してもらった上で報奨金を得る仕組みになっている。


「ぴぃ!」


 ジークが落ちた魔石を集めていると、近くの草むらからもう一匹ハウンドウルフが飛び出してきた。どうやら全部で四匹いたようだ。



「げっ」

「ジーク!」


 アイリスは左手に光の羽状の弓を出現させ、右手の紋章の光が矢となり羽ばたきと同時にハウンドウルフに向けて放つ。


「ホーリーアロー!」


 光の矢は見事命中し、光に呑み込まれるようにハウンドウルフは魔石へと姿を変えた。


「助かったぜ、アイリス」

「ジークもありがとうね」

「ぴぃ」


 ジークが周囲の匂いを嗅ぎながら索敵するが、もうハウンドウルフの気配はしないようで剣を鞘にしまう。


「聖女様、それに聖騎士様、助けてくださってありがとうございます」

「いえいえ、お役に立ててよかったです」

「まあ、そういうこと」


「お礼といっては何ですが、ラグダートまでお送りしますよ」


「お、ラッキー」

「ジーク、まずはお礼でしょ」

「ぴぃぴぴぃ」

「はいはい、わかりました」


 男性の好意で二人は馬車に乗せてもらうことになった。時間も夕暮れに近づいていた。一行はアルケー街道を抜け、経由地点でもあるラグダートの街を目指すのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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