第192話 静寂が破られる時
族長の邸宅でエスメラルダの周辺を見張っていたアイリス達。二日目の夜、ディーナがあらかじめ支援を頼んでいた精霊が異変を告げに来たのだった。
アイリスはオニキスと共にジーク達がエスメラルダを見張っている場所へと駆け付けた。そこは彼女の部屋と中庭の間の通路の柱の影になっている所だ。
先に合流したディーナが静かに手招きをしている。ジークとキッドも柱の影でエスメラルダの部屋の扉の方向を見張っていた。アイリスとオニキスも近づいて姿勢を低くする。
「間に合ったみたいね」
「状況は?」
「ぴぃ?」
アイリスが小声で尋ねるとジークが口を開いた。
「オレがキッドと交代しようとした時に部屋の中で大きな音がしたんだ」
「それから重い唸り声みたいな音が聞こえてきたんですよっ」
「で、今に至るって感じらしいわ」
次いでキッド、ディーナが状況を説明してくれた。
「どうする? 中に入って確認してみるか?」
「そうだね。オニキスさん、いいですか?」
「……お願いします」
真剣な表情でオニキスが答える。顔を合わせた一同が頷いたその時だった。
「待って……! 部屋の扉が開くわ」
ディーナの言う通り、ゆっくりと扉が開いていく。中からエスメラルダが姿を現した。
「寝る時の服装のままだね」
「ぴぃぴ」
「何だかぼーっとしてるように見えるわね」
扉の前で棒立ちになっている彼女はふっと中庭の方向を向き、ゆっくりと移動を始めた。
「中庭に行くみたいだな」
「ですね。でも何をしにいくんでしょう?」
「……」
エスメラルダは表情を変えることなく、中庭のちょうど中央まで歩いていくと立ち止まる。アイリス達も見つからないように近づいていく。
「ぁ……ぐぅ……ぁあ……!!」
すると急に苦しみだし、胸を押さえ唸り出したのだ。
「エスメラルダ様っ……!」
心配になったオニキスが隠れている場所から飛び出そうとする。それをジークとキッドが力を入れて引き留める。
「放してください! あのお方があんなに苦しそうにしているのですよ!?」
その剣幕にジーク達は気圧されそうになるが、そこでディーナがオニキスの目の前に右手を突き出す。
「あなた、言ったわよね? 『真実』が知りたいって」
「そ、それはそうですがっ……!」
「なら……黙って見守る義務があなたにはあるわ。見なさいよ」
そう言いながらディーナはオニキスの後ろにいるアイリスの方を見る。続いてオニキスも振り返るとそこには今にも走り出しそうになっている気持ちを必死に抑えながら状況を見つめているアイリスの姿があった。
「聖女様……」
「今すぐ駆け付けたい気持ちはあたし達にだってあるわ。でもここは堪えて」
「……わかりました。申し訳ありません」
よろしい、と言わんばかりにディーナが静かに頷く。
再び唸り声をあげるエスメラルダに目を向けると、彼女の身体から白いモヤのようなモノが噴き出してくるのが見てとれた。あっという間に白いモヤにエスメラルダが包まれていく。
そして白いモヤの中から骨が折れるような音が静かに響いて来たのだ
ググググ……!!!
うっすら見える影がみるみるうちに形を大きく変えていくのが一同の目に映る。それはもうヒトの姿ではなかった。思わずキッドが声をあげそうになるのをジークが咄嗟に止める。
「!!! もごごごご!!!」
「静かにしてろよ……!」
「何よ、あれ……」
「大きな……ヘビ……?」
「え、エスメラルダ様……?!」
大きく広がった白いモヤが晴れていくと、そこには白銀の表皮を持った巨大な大蛇が姿を現したのだった。
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